取り組み事例
2025年5月19日
- 環境マネジメント推進室
企業への取材
花王株式会社和歌山工場 MISSION30by30
![]() |
2030年までに陸と海の30%以上を保全することを目指す30by30。これには国立公園などの法律に基づいた保護地域だけでなく「保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)」の保全も必要となる。大阪公立大学では、中百舌鳥キャンパスの一部を自然共生サイトに登録する取り組みを進めている。登録に向けた理解を深めるため、今回は自然共生サイトに登録されている花王株式会社和歌山工場の敷地内にある防潮林について、同社の飯塚様および東様に取材を行なった。 |
防潮林の昔と今
防潮林とは海岸沿いに植えられる森林で、津波や高潮、強風などから内陸部を守る役割を果たす。花王和歌山工場のクロマツ防潮林は海からの潮風から田畑や民家を守るために江戸時代初期に堤防として築かれた。この和歌山工場は花王グループのモデル工場として、松林の保全を中心とした生物多様性に富んだ地域づくりへの貢献に努めている。
花王和歌山工場 |
防潮林データ面積:10.2ha クロマツ:約4千本 全長:約1.1km その他樹木:約3千本 幅:~135m 生息生物 コゲラ、シジュウカラなど野鳥20種以上アオヒメハナムグリ、フタイロカミキリモドキなど貴重な昆虫など |
防潮林の保全と利活用防潮林は、大きく分けて2つの区域に分けて管理しています。自然の遷移に任せて広葉樹を許容する自然植生遷移区域と、広葉樹が生えてくると伐採しクロマツ中心の植生を維持するクロマツ保護区域です。このクロマツ林には、なぜかクロマツでないと生きていくことのできない種がいます。そのため、クロマツ自体の保全のみならず、クロマツが築いた生態系の保全を行なうことで、地域全体の生物多様性の保全につながると考えています。また、この防潮林は花王社員の息抜きやリフレッシュの場として活用されています。社員が防潮林に訪れ、環境意識が形成されることも保全の目的の一つとなっています。さらに、この地に訪れた社員や地域の人々の結びつきによって生まれる環境コミュニケーションの推進にも努めています。地域の子どもたちを防潮林に招待したり、間伐材で特産品の紀州備長炭を作るイベントを催したりすることで、社員のみならず地域の方々もエンゲージメントできるのかなと思っています。
防潮林保全地区分け |
松枯れ防除松枯れとは、マツの木が病気や害虫の影響で枯れる現象のことです。クロマツの防潮林でも、マツクイムシ(マツノザイセンチュウ)による被害が深刻な問題となっています。マツクイムシは、マツノマダラカミキリという特有のカミキリムシによって運ばれ、マツの幹に入り込み、水を吸い上げる器官を詰まらせ、木を枯らします。このような被害を防ぐためには、カミキリムシとマツクイムシの両方に対する防除が必要です。一般的に、カミキリムシの駆除には年4回の薬剤散布が行われますが、この防潮林では散布量を減らすため、カミキリムシが孵化する時期に合わせて年1回の薬剤散布に減らしました。加えて、マツクイムシの増殖を防ぐため、薬剤を直接幹に注入する「樹幹注入」も年に1回実施しています。 |
30by30に登録した理由
この防潮林は2005年から公益財団法人都市緑化機構のSEGESという評価システムに加盟し、ご指導をいただきながら保全活動を行なってきました。2011年には生物多様性を考慮した生物多様性モデル工場プロジェクトを発足し、専門家の方からもご意見やご指導を頂きながら本格的な防潮林の保全活動を開始しました。2023年にはこれまでの活動が功を奏し、緑地評価システムで緑の殿堂認定を受けました。また、認定をいただいた際に、新しく自然共生サイトの方に登録してみては、と提案していただき申請を行ないました。これまでの専門家の方からのご指導もあり、登録はスムーズに行なえました。
外部評価を受ける意義
長い間防潮林を維持・管理してきましたが、生物多様性の観点ではどのような価値を持ったエリアなのか分かっておらず、専門家の方のご意見を広く聞いてみたかったという気持ちがありました。外部評価を受けたことで、社員や地域の方々とのコミュニケーションに深みが増し、これら非財務的活動を通じて、知名度や工場のイメージアップにもつながります。今回の取材のような新しい繋がりが生まれたのも、外部評価を受けた大きな価値ではないでしょうか。
GO!花王エコラボミュージアム
私たちは和歌山事業場の「花王エコラボミュージアム」を訪れました。この施設は、2011年に花王株式会社の和歌山事業場内に設立され、来館者は映像や展示を通じて、最新の花王のエコ技術と地球環境の現状について学ぶことができます。花王では、製品のライフサイクル全体にわたり、環境への配慮を徹底しています。「原材料」「製造工程」「輸送・販売」「製品の使用」「廃棄・再利用」の各段階に関するブースを順に回り、各工程におけるエコ技術の説明を受けました。普段使っている製品には、想像以上に多くの環境配慮が施されていることに感銘を受け、実際に訪問して学ぶことで、インターネットで得る情報以上の深い理解が得られました。特に印象的だったのは、廃棄物削減のためにボトル容器からフィルム製つめかえ容器*に移行した経緯です。展示では、両容器がごみになった際の総体積が比較され、視覚的にその効果を実感できました。少しの工夫が環境問題では重要になるということが、わかりやすく説明されていました。
*軟らかいフィルム素材で作られた袋状のパッケージのこと。
ボトル容器とフィルム製つめかえ容器の体積の違い |
花王エコラボミュージアム記念写真 |
取材風景 |
その他本法人の環境パフォーマンス・環境活動は「公立大学法人大阪 環境報告書2024」をご覧ください。
該当するSDGs