ORGEL Column

2025年10月25日

だって、そういうものだから。

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担当:さくら
さくら

先日、バラエティショップのコスメ売り場で楽しげに化粧品を選んでいる学生たちを見かけた。コスメを選ぶのは楽しい。最近のコスメはパッケージも可愛らしいものが多く、見ているだけでもテンションが上がる。選んでいるだけでも楽しいのだが、帰宅後、自分の顔に試してしっくりきたときには、さらに心が弾む。

2020 年にドラマ化された『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(劇団雌猫,2018)の“はじめに”において化粧は「なりたい自分への扉をひらく『鍵』」と称されてある。確かに、化粧をすることで自分の気持ちが高まったり、自分に自信を持てるようになったりする側面はある。しかし、この文章の前部分で著者は自分がよそおうことに対して、社会が女性に求める外見の基準に迎合するような気がして、抵抗があった時期が存在したと述べている(劇団雌猫, 2018)。「よそおう」ことが「枷」のように感じられていた、と。残念ながら、化粧が枷として女性に(明示的、暗黙的であれ)強制されている側面はある。大学生向けの就職活動をサポートするサイトやアドバイス本では、女子にのみ好印象を残すための、派手すぎないナチュラルメイクが勧められているという(⻄倉, 2025)。

近年、日本で女性に求められる服装規定に抵抗する運動が展開された。女優の石川優実さんのツイートをきっかけにした KuToo 運動である。ヒールのある靴を履きながら業務を行うことで著しく負傷した足。石川さんは「痛い、嫌だ」という気持ちから、男性はぺたんこ靴なのになぜ女性にだけパンプス着用を義務付けるのか、女性にだけヒール・パンプス着用を求める風習をなくしたいと思っている、とつぶやいた(石川, 2019)。このムーブメントのあとには、全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)が客室乗務員らにヒールなしの靴を容認した。KuToo 運動は化粧の問題にまでは議論が波及しなかったが、ひとつのツイートに端を発した運動が、社会に確かな変化をもたらした。

2018 年頃に生起した、女性を縛り付ける「コルセット」のような「外見規範」に抗う運動である脱コルセット運動に関する本を著したイ・ミンギョンさんは化粧についてこう述べている。現在の社会で女性のデフォルトは化粧をした顔であり、女性にとっても化粧があまりに身近になりすぎて、女性の日々の生活にそれが組み込まれていることに違和感を覚えるのは難しい(イ・ミンギョン, 2022)。

石川さんの KuToo 運動は「だって、そういうものだから」とされてきた、女性の外見規範に変革を起こした運動だ。「そういうもの」、マナーとして強制される化粧と、自分の楽しみのために行われる自由な化粧。その境界を精査することで、女性と化粧の関係について考えていきたい。「そういうもの」で終わらせない、違和感を大事にしながら在学期間を過ごしたいと思う。

引用文献
・石川優美 (2019). #KuToo (クートゥー) 靴から考える本気のフェミニズム 現代書館
・イ・ミンギョン (2022). 生田美保・オヨンア・小山内園子・木下美絵・キムセヨン・すんみ・ 朴慶姫・尹怡景 (訳) 脱コルセット:到来した想像 タバブックス
・⻄倉実季 (2025). 女性はメイクをしなければだめ?̶美の強制、エロティック・キャピタル、ルッキズム 守如子・前川直哉 (編著) 基礎ゼミ ジェンダースタディーズ 世界思想社
・劇団雌猫 (2018). だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査 柏書房