採択プロジェクト
2026年3月31日
- 設立支援
グリーンインフラを活用した持続可能な都市環境の創成
プロジェクト名
グリーンインフラを活用した持続可能な都市環境の創成
代表者
名波 哲(大学附属植物園/理学研究科)
共創メンバー
【学内】
| 氏名 | 所属 |
|---|---|
| 厚井 聡 | 大学附属植物園/理学研究科 |
| 小口 理一 | 大学附属植物園/理学研究科 |
| 渡邉 誠太 | 大学附属植物園/理学研究科 |
| 伊東 明 | 理学研究科 |
| 吉川 徹朗 | 理学研究科 |
| 上田 昇平 | 農学研究科 |
| 高木 悠里 | 工学研究科 |
【学外】
| 氏名 | 所属 |
|---|---|
| 小野田 雄介 | 国立大学法人 京都大学 |
| 大西 信徳 | DeepForest Technologies 株式会社 |
| 杉山 岳彦 | 京阪ホールディングス 株式会社 |
| 各務 正敏 | 社会福祉法人 交野市社会福祉協議会 |
活動内容
1. 植物の環境応答
グリーンインフラの基盤となる樹木は、気温調整や二酸化炭素吸収など多様な環境改善機能を有している。本研究では、乾燥や高温といった都市環境に対する樹木の生理・成長応答および種間差を調査し、都市環境下において高い機能を発揮する樹種特性の把握を進めた。
2. 動物の多様性の評価と生態系ネットワーク
多様な樹木の生育は、昆虫・鳥類・哺乳類などの生息環境を創出し、都市における動物多様性の形成に寄与する。一方で、花粉媒介や種子散布には動物の存在が不可欠である。本研究では、都市環境における植物と動物の相互作用に着目し、その関係性を維持・再生する方策の検討を行った。
3. 都市デザイン
都市の高温・乾燥環境に適応力の高い樹種の選定を進めるとともに、ヒートアイランド緩和、昆虫や鳥類の生息環境の創出、景観向上を目的とした植栽配置および管理手法の検討を行った。さらに、行政・企業との連携を図り、グリーンインフラの維持管理体制の構築に向けた基盤整備を進め、樹木を基盤とした長期的な都市環境改善の実現を目指した。
4. 市民の教育と啓蒙活動
環境教育イベントを実施し、児童・生徒・学生を含む市民に対してグリーンインフラの重要性を伝えた。これにより市民の関心を高め、都市緑化へ主体的に関与する機運の醸成を図った。持続可能な都市環境の形成と市民の環境意識向上を促進し、「住みたい街づくり」の実現に向けた基盤づくりを進めた。

名波 哲教授
活動成果
1. 植物の環境応答
大阪公立大学附属植物園に整備された11種類の日本の森林を対象に、1978年から2024年まで47年間継続された樹木センサスデータを解析した。これらの森林は同一環境下に植栽されており、「森林タイプ共通環境実験」として環境条件の差を排した状態で森林タイプ間の生態系機能や生態系サービスを比較できる世界的にも稀な研究基盤である。胸高直径5cm以上の全個体について定期的に直径・樹高を測定し、225種の樹木・つる植物の長期的な成長・死亡動態を解析可能とした。これにより種ごとの成長速度、森林タイプ別のバイオマス変化や生態機能の差異を定量的に評価でき、成熟林を対象とした長期共通環境実験として森林生態学・生態系機能研究に重要な基盤データを提供した。本成果は国際誌「Ecological Research」に投稿し、査読対応後の改訂稿を提出した。
2. 森林構造のデジタル化技術
11樹林型の季節変化や動態把握のため、UAV-LiDARを用いた三次元計測と画像取得を6回実施した。さらに森林生産量評価のため50基のリタートラップを設置し、毎月の落葉量を測定した。その結果、由来地の気温が高い樹林ほど年間リター量が多く、特に繁殖器官リターは葉リターより気温との正の相関が強いことが判明した。温度適応の違いが炭素配分戦略に影響する可能性が示され、成果は2026年3月の第73回日本生態学会大会で発表された。
3. 希少植物の保全と増殖
67種の絶滅危惧植物を収集し、植物園で生育域外保全を開始した。奈良県委託により絶滅危惧IB類ヒメイノモトソウの胞子増殖に成功し、市民団体と共同でキンラン野生集団の遺伝的多様性を解析、個体数との正の相関を確認した。
4. 動物多様性と生態系ネットワーク
都市化が種子散布機能に与える影響を評価するため、大阪周辺でエノキ94個体を対象に鳥類による果実持ち去りを調査した。その結果、都市部で持ち去り頻度が高く、特に大型カラス類による遠距離散布が多いことが判明し、都市化が種子散布を促進し得る新知見を得た。昆虫では植物園内のタイワンタケクマバチのコロニーを採集し、今後MIG-seq解析により血縁構造を解明する予定である。
5. 都市緑地計画
大阪・上町台地を対象に、2000年代以降の衛星画像からNDVIを算出し、緑地分布と土地利用 変化の関係を分析して緑の増減を可視化した。さらに斜面緑地の景観価値を視覚・社会・歴史の側面から評価し、都市グリーンインフラ計画の基礎資料を整備した。
6. 市民教育・啓発
水生植物・熱帯植物・樹林型展示の観察会を開催し、類設計室と連携してフリースクール児童生徒の体験的学習の場として植物園を活用した。
7. 社会福祉への緑地活用
阪南市社会福祉協議会と交野市社会福祉協議会を通じ、牡蠣殻肥料100kgを受け入れ土壌改良に活用した。また交野女子学院院生の園内作業体験を受け入れ、立ち直り支援に貢献した。
概念図

今後の活動計画
事業化は、2027年4月に達成することを目標とする。
本事業が達成された場合に生じる最大のソーシャルインパクトは、以下のとおりである。
第一に、本事業は「研究成果の社会化」の新しいモデルを提示する。長期樹木センサスや生物多様性調査、三次元計測技術など、通常は学術領域にとどまりがちな成果が、都市緑地設計や維持管理、企業との共同事業、観光プログラムへと展開されることで、大学研究が直接的に社会的価値を生む仕組みが構築される。
第二に、自然環境を媒介とした新たな産業・雇用領域の創出が期待される。環境教育プログラム、専門的ガイドツアー、企業研修、視察受入などの事業は、研究者・学生・地域人材を巻き込みながら展開され、知識と体験を価値として提供する「知識観光」「環境サービス」とも呼ぶべき分野を形成するかもしれない。
第三に、都市における社会関係資本の再構築が進む点も重要である。植物園を拠点とした教育・観光・福祉連携の取組は、世代や立場の異なる人々が同じ空間で活動する契機となる。研究者、学生、市民、企業、福祉関係者が協働することで、自然を共通の基盤とした緩やかな連帯が生まれるであろう。
このように、本事業がもたらすソーシャルインパクトは、環境改善や生物多様性保全にとどまらず、大学の役割、都市の価値観、地域社会の関係性を再編成する点にある。自然を媒介として知・経済・福祉を結び直すことで、都市の持続可能性を支える新たな社会基盤が形成されることが期待される。