研究 Research

中島准教授の研究

ヒトが心肺停止になった場合、直ちに心肺蘇生法を開始する必要があります。これは単に心臓のポンプ機能を回復させるためだけではなく、脳にいち早く血液を供給する必要があるためです。脳への血液供給が途絶えた状態を脳虚血といいます。心肺停止状態がしばらく続いても心臓はその機能を回復することがあります。しかしながら脳は虚血に対して非常に弱い臓器であるため、心肺停止による脳への血液供給が5分間停止しただけで脳障害が起こります。ラットやスナネズミを用いた実験では脳の中でも特に、海馬が虚血に対して弱いことが知られています。海馬は記憶や認知に重要な脳部位であるため、海馬が障害を受けると認知症や記憶障害になります。現在、脳虚血モデルラットおよび初代培養神経細胞を用いて脳虚血の病態や脳障害軽減のための基礎的研究を行っています。

海馬模式図

ヒト脳模式図(オレンジ色:海馬)     ラット海馬模式図

脳虚血組織変化2

(A) Photographs of hematoxylin/eosin staining sections from naïve, sham-operated rats and rats subjected to 5 min ischemia followed by 7 days of reperfusion. (B) Photographs of hematoxylin/eosin staining sections from sham-operated rats and rats subjected to 5 min ischemia followed by 2 days, 4days and 7 days of reperfusion. (C) The changes in the number of pyramidal neurons per 1-mm length were tested by two-tailed unpaired Student’s t test. Data are expressed as the mean ± standard deviation (SD). *Statistically significant difference from rats subjected to sham-operation (P < 0.05); n = 4. DG dentate gyrus. Sham: sham operation.


谷田講師の研究

内分泌・代謝系は生殖,発生,分化や生体恒常性などを司り,核内受容体はその中で中心的な役割を果たしています。核内受容体は,ホルモンを始めとするリガンドに依存した転写制御因子であり,その経路の破綻は様々な疾患,例えば糖尿病,メタボリック・シンドローム,腫瘍,高血圧,鬱などと関わっています。核内受容体はヒトでは大きく48種のグループに分けられ,具体的にはエストロゲン受容体,グルココルチコイド受容体などのステロイドホルモン受容体,甲状腺ホルモン受容体,ビタミンD受容体などが挙げられます。私はこれらの中でも,エストロゲン受容体と相同性は高いもののいかなる生体内リガンドとも結合しない受容体(= オーファン受容体)であるエストロゲン関連受容体(estrogen-related receptor, ERR)に興味を持ち,局在や動態解析を行ってきました。ERRには3つのサブタイプα,β,γが存在しますが,これまで,ERRβがエストロゲン受容体に直接相互作用し,可動性を低下させることでエストロゲン依存的な細胞機能を抑制することや,乳酸応答分子として同定したLRPGC1がERRγを介してミトコンドリアを活性化させ乳酸代謝を促進することなどを明らかにしてきました。現在は,これまで行ってきた研究を基盤に,ERRを含めた核内受容体とこれらを活性化,または抑制する因子の細胞内外の環境,例えば栄養素の寡多,温度,pH,有機酸など各種ストレスに応じた「動き」を可視化し,その機構と意義を追究することで病態解明や治療法開発に貢献することを目指し,基礎研究を行っています。

主に扱う実験手技:

生細胞イメージングや光褪色後蛍光回復法(FRAP)などの細胞内動態解析,遺伝子クローニング,各種PCR,遺伝子ノックダウン,CRISPR/CAS9によるゲノム編集,酵素抗体法・蛍光抗体法による組織細胞染色,ウェスタンブロット,共免疫沈降法や蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)などのタンパク質相互作用解析,レポーター・アッセイ,その他プレートリーダーを用いた各種生化学的解析など。

以下の図1,2にFRAPの実験例とその仕組みを示します。この実験は,共焦点レーザー顕微鏡のステージにインキュベーション・チャンバーを設置し,蛍光ラベル付きの目的タンパクを発現させた細胞を生かした状態で行います。


FRAPtanida(uploaded)

図1.光褪色後蛍光回復法(Fluorescence Recovery After Photobleaching; FRAP)による実験の模式図

FRAPとは,解析したいタンパク分子をGFPなどにより蛍光標識し,レーザー照射による褪色からの蛍光回復時間を計測することで目的タンパク分子の細胞内動態を解析する方法である。蛍光回復時間の延長=可動性の低下=目的タンパク分子が他の分子(転写因子や核内構造体など)と相互作用していることを示す。この実験は,リガンド(ホルモンなど)によって目的タンパク分子が複合体を形成することを示す。


FRAP詳細(uploaded)

図2.FRAPにおけるブリーチ痕の経時的変化の模式図

細胞内の分子は可動的な状態にあり絶えず動いている。強いレーザー照射により不可逆的に褪色した目的タンパク分子(●)は移動し,ブリーチ痕(破線)は時間と共に薄まり消えてゆく。目的タンパク分子が他分子や構造体と複合体を形成していると,拡散など移動が起こりにくくなり褪色した分子がその場に長時間留まることとなる(=可動性の低下)。


主要参考文献:

谷田 任司. 蛍光分子イメージングにおけるFRAPとFRETの実際. 組織細胞化学2022 生命現象をミクロのレベルで可視化して捉える-組織細胞化学の基礎と応用. 日本組織細胞化学会編,学際企画(株) 2022年8月

Tanida T. Molecular dynamics of estrogen-related receptors and their regulatory proteins: Roles in transcriptional control for endocrine and metabolic signaling. Anat Sci Int. 2022;97:15–29. doi: 10.1007/s12565-021-00634-7

Tanida T, Matsuda KI, Uemura T, Yamaguchi T, Hashimoto T, Kawata M, Tanaka M. Subcellular dynamics of estrogen-related receptors involved in transrepression through interactions with scaffold attachment factor B1. Histochem Cell Biol. 2021 Sep;156(3):239-251. doi: 10.1007/s00418-021-01998-7

Tanida T, Matsuda KI, Tanaka M. Novel metabolic system for lactic acid via LRPGC1/ERRγ signaling pathway. FASEB J. 2020 Oct;34(10):13239-13256. doi: 10.1096/fj.202000492R

Tanida T, Matsuda KI, Yamada S, Kawata M, Tanaka M. Immunohistochemical profiling of estrogen-related receptor gamma in rat brain and colocalization with estrogen receptor alpha in the preoptic area. Brain Res. 2017 Mar 15;1659:71-80. doi: 10.1016/j.brainres.2017.01.024

Tanida T, Matsuda KI, Yamada S, Hashimoto T, Kawata M. Estrogen-related receptor β reduces the subnuclear mobility of estrogen receptor α and suppresses estrogen-dependent cellular function. J Biol Chem. 2015 May 8;290(19):12332-12345. doi: 10.1074/jbc.M114.619098