History

研究室の歩み ― 受け継がれる研究のDNA

本研究室の歴史は、1955年(昭和30年)4月、柳谷岩雄助教授のもと「家畜生理・薬理学」の半講座として開設されたことに始まります。1963年には柳谷が初代教授に就任し、翌1964年に「家畜薬理学」と改称されました。その後、矢ヶ崎 修、畑 文明、竹内正吉へと研究室の伝統が受け継がれ、2021年に東 泰孝が第5代教授に就任しました。2022年には研究室名を「予防薬理学」と改め、現在に至っています。

約70年にわたる研究室の歴史を振り返ると、研究対象や研究手法は時代とともに変化してきましたが、その根底には一貫した研究の流れがあります。それは、**「生体機能がどのような仕組みで調節され、その破綻がどのように病態につながるのかを、薬理学的に明らかにする」**という問いです。

初代・柳谷岩雄教授の時代には、消化管平滑筋の収縮・弛緩や腸管運動を中心とした研究が進められました。とりわけ、腸壁の伸展と壁内神経叢、acetylcholine(ACh)の合成・遊離との関係など、消化管運動を神経薬理学的に理解する研究が展開され、本研究室における消化管薬理学の基礎が築かれました。

第2代・矢ヶ崎 修教授の時代には、この流れを受け継ぎながら、ACh遊離を調節するCa²⁺、prostaglandin、cyclic AMPなどの役割へと研究が発展しました。単に「平滑筋が収縮する」という現象を観察する段階から、神経終末における伝達物質の遊離や、その細胞内調節機構を解析する段階へと研究領域が広がっていきました。

さらにこの時期から、消化管に存在する非アドレナリン・非コリン作動性(NANC)神経による抑制性伝達の研究が本格化しました。1990年前後には、消化管の下行性弛緩にnitric oxide(NO)が重要な役割を果たすことが示され、その後の本研究室を代表する研究領域の一つへと発展していきます。

第3代・畑 文明教授の時代には、NOを中心とするNANC抑制性神経伝達の研究がさらに深化しました。NOに加え、VIP、PACAPなどの神経伝達物質、イオンチャネル、細胞内情報伝達系へと研究対象が拡大し、消化管平滑筋の収縮・弛緩がどのように制御されているのかを、神経から細胞内シグナルに至るまで多面的に解析しました。消化管運動制御の研究は、この時期に本研究室の大きな柱として確立されました。

第4代・竹内正吉教授の時代には、この研究基盤を引き継ぎ、Cajal介在細胞(ICC)、ムスカリン受容体、Ca²⁺感受性など、消化管運動を担う細胞・受容体・細胞内シグナルの解析が進められました。一方で研究対象は次第に「正常な消化管運動」から「疾患時の消化管機能」へと広がり、PACAP、PPAR、サイトカインなどによる炎症制御、さらには実験的大腸炎などの疾患モデルを用いた研究へと展開しました。

ここには、本研究室における大きな研究の転換があります。

平滑筋そのものの機能解析から、壁内神経による制御へ。
神経伝達物質から、受容体・細胞内情報伝達へ。
そして、生理機能の調節から、炎症・免疫・疾患の制御へ。

研究テーマは変化しているように見えても、それぞれは独立したものではありません。先代の研究から生まれた問いが次代へ受け継がれ、新しい概念や技術を取り入れながら発展してきました。

2021年に第5代教授として東 泰孝が就任し、2022年には研究室名を「応用薬理学」から「予防薬理学」へ変更しました。現在は、これまで培われてきた薬理学的研究の基盤を受け継ぎながら、サイトカインをはじめとする炎症・免疫制御因子に着目し、肝臓、膵臓、腸管などの炎症性疾患や線維化、代謝異常などへ研究領域を広げています。

本研究室が受け継いできたものは、特定の臓器や分子だけではありません。

生体現象を丁寧に観察し、その背後にある制御機構を明らかにし、さらに病態の理解と新しい治療・予防法へつなげようとする姿勢。

それこそが、1955年の研究室開設以来、世代を越えて受け継がれてきた私たちの「研究のDNA」です。

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沿革と歴代教授(教室名称)

1955年4月 柳谷岩雄  助教授 半講座として開設(家畜生理・薬理学)

1963年6月 柳谷岩雄  初代教授(家畜生理・薬理学⇒1964年4月 家畜薬理学)

1985年8月 矢ヶ崎 修 2代目教授(家畜薬理学⇒1990年4月 獣医薬理学)

1993年4月 畑 文明  3代目教授(獣医薬理学⇒2001年4月 応用薬理学)

2005年4月 竹内正吉  4代目教授(応用薬理学)

2021年4月 東 泰孝  5代目教授(応用薬理学⇒2022年4月 予防薬理学)