研究内容

豊かで快適な生活の実現を目的とする都市開発や農業農村整備においては、機能性・安全性・経済性といった基本要件を満たした上で、土・水系が適切に制御された好適な植物生育環境(緑化基盤)を有するとともに、農業や緑地の多面的機能に配慮した持続的な発展性も有する社会基盤(infrastructure)を整備することが必要です。

そこで本研究グループでは、「環境負荷低減」という観点から、(1)各種地盤材料の開発や新たな基礎工法の提案、(2)新素材を用いた緑化基盤の開発ならびに管理・制御技術の開発、(3)基盤施設が景観をはじめとする多面的機能を十全に発揮するための設計理論の構築と最適な維持管理体制づくり、などの基本テーマについて、施設のライフサイクル(計画→設計→施工→維持管理→更新→)の各段階に応じた理論と手法を、解析的および実験的に研究・教育しています。

地盤

  1. リサイクル材料混合土の力学特性に関する研究
    環境問題への対応策として、廃棄発泡プラスチックや廃タイヤなどを軽量なリサイクル地盤材料として利用することが期待されています。ただし、これらは土粒子に比べるとかなり柔らかい材質なので、土に混合すると非常に変形しやすい地盤になってしまう可能性があります。したがって、混合土とした際の力学特性を明らかにし、沈下量や変形量を理論的に求める必要がでてきます。そのため、混合土の圧縮挙動を微視的な観点から検討し、模型実験や数値解析を行って圧縮のメカニズムをモデル化する研究を行っています。
  2. ため池築堤材料の地震時変形特性に関する研究
    ため池やダムは水を貯める施設として農業や我々の生活に広く関わっていますが、地震や豪雨などの自然災害で大きなダメージを受けるものもあります。特に、地震はいつくるかわかりませんので、事前に耐震性を評価して適切な対策を講じておく必要があります。そのため、ため池やダムの主な築堤材料である「土」を対象に、その動的な力学特性を明らかにする研究を行っています。具体的には、繰返し載荷試験を行ってその動的な変形特性を把握するとともに、材料土の物理的な特性の違いがどのような影響を及ぼすのかを検討しています。
  3. 斜杭基礎の力学特性の解明に関する研究
    当研究グループでは、低コストで簡易に設置できる基礎として、パイプ斜杭基礎というものを民間の企業とも共同研究をしながら開発してきました。引抜き抵抗に優れるこの基礎は既に温室やソーラーパネルなどの基礎として用いられていますが、適用できる構造物の範囲をさらに拡げるためには杭基礎としての力学的なメカニズムを解明する必要があります。したがって、模型実験や数値解析を行って様々な載荷条件に対する斜杭基礎の力学的な挙動を明らかにするとともに、引抜き抵抗力などを算出する理論を構築する研究を行っています。

緑化基盤

  1. 乾燥地域から湿潤地域まで、緑化・園芸における新素材の活用(ソフト・ハード)に関する研究
    最近は、特に親水性を付与した不織布の活用(微小流量連続水・肥料等供給)により、砂漠の緑化、乾燥地農業、日本のような湿潤地での農業や緑化、温室や閉鎖型植物工場的な環境条件での植物の水管理、さらには、無重力状態を想定した土壌などへの媒体への「統合された持続的に軽く湿らせる土の水環境SIMERUS; Soil Integrated Moisture Environment for Rural and Urban Sustainability」をモットーに研究を進めています。
  2. 植物にとっての土と水という生存環境、その中での「生育」という競争に関する理論的実験的研究
    ゲーム理論という考えが、特に近年話題になっていますが、これは植物の生育評価にも適用できます。
    つまり、ゲノム的研究ばかりでなく、生育環境、その場での競争(ただし極度の勝ち負けを意味するとも言えない、双方全滅にもつながる)を考えないと植物はあまりうまく管理できないようです。つまり、この理論は「緑地や植物生育」に大きな意味を持ってきます、同時に、ゲーム理論は純粋数学理論的なものですから、曖昧なところだらけの植物生育・栽培の正確な評価に適用するのは実に難しく(というより無理で)よほどきちんとした比較基準となる栽培実験装置が無くてはなりません。ビックデータ解析をやるにしてもおよそ低い精度ではいくらデータを積んでも意味のある結果が得られません。つまり、これらの理論や1.で説明したような精度と安定性を持つ実験のパーツがそろって、さらには、人工知能(知識工学)的な要素(代表的なものはファジー推論)なども加えていろいろ検討しつつあります。また、無重力状態での(土耕)栽培などを考えたとき、やはりこのゲーム理論的な考えが重要だと考えています。例えば、水環境、熱環境などを生育に都合よく統合的に考えるにはそうでしょう。

施設の多面的機能

  1. 水利施設が有する多面的機能の性能規定化【計画/設計】
    農業生産の基盤である水利施設は自然と人間活動とを結ぶ架け橋であり、単に農業用水を確保するだけでなく、多様な役割や価値、すなわち多面的機能(multi-functionality)を有しています。例えばため池の場合、その多面的機能は図1のように多岐に渡ります。

    図1:ため池の多面的機能

    図1:ため池の多面的機能

    これらの機能を十全に発揮するためには、施設の計画・設計段階において要求される機能や性能を明確にする必要があります。そのためには、それぞれの機能の成り立ちを明らかにし、具体的な設計要件として記述しなければなりません。景観(図2)のように複雑かつ定性的にしか記述できない現象について、その機能を設計基準として記述するための理論構築と、その機能を評価するための方法論について、研究を進めています。

    図2:景観の成り立ち

    図2:景観の成り立ち

  2. 水利施設の維持管理に係る負担感の要因分析【維持管理】
    多面的機能を有する水利施設は地域の資源であり、その持続的な保全のためには適切な維持管理が重要です。近年の農業を取り巻く社会環境の変化を考えると、施設の維持管理にあたっては農業従事者だけではなく、非農家も含めた地域住民の協力を得ることが必要になります。維持管理に係る担い手の負担感を軽減するために、担い手が施設(の維持管理)に対していかに価値を見出すことができるのかを、維持管理活動に対する参加意欲の心理構造分析(図3・4)や、施設整備事業が地域に及ぼした影響や歴史的経緯といった観点から研究しています。

    図3:維持管理参加意欲の構造(農家) 図4:維持管理参加意欲の構造(非農家)
    図3:維持管理参加意欲の構造(農家) 図4:維持管理参加意欲の構造(非農家)

    「ため池クリーンキャンペーン」(明石市)でのアンケート調査

    写真:「ため池クリーンキャンペーン」でのアンケート調査

  3. ため池の持続的な維持管理体制の検討【維持管理】
    中百舌鳥キャンパスが位置する堺市には、農業用ため池が多数あります。その多くは、都市化の進展や農業構造の変化などを背景に、潰廃されているのが現状です。しかしながら、多面的機能の観点から地域資源として保全する価値のあるため池については、積極的にその存続を図ることも大切です。そのためには、持続的な維持管理体制を構築することが必要です。そこで、地域とため池との関わりについて、その変遷を太閤検地で成立した近世村まで遡って調べたり(図5)、各種の土地政策が地域とため池に対して及ぼした影響を分析したり(図6)、2019(平成31)年に制定された「農業用ため池の管理及び保全に関する法律」がため池の存廃にどのように関わっているかなど、人文地理学的な視点も取り入れながら幅広く研究を進めています。

    図5:地券の発行例(明治13年)

    図5:地券の発行例(明治13年)

    図6:中百舌鳥地域の水系図

    図6:中百舌鳥地域の水系図