近世史ゼミ

近世史ゼミの活動

本ページでは、大学院生の視点から近世史ゼミの活動について紹介したい。

(1)日々の活動

 現在、公大文学部日本史コースでは近世史の授業として、日本史基礎講読、日本史講読、日本史演習が開講されている。日本史基礎講読Ⅱ(2回生科目)では、毎年9月に日本史教室を挙げて行われている大阪府和泉市や大学周辺の杉本町での合同調査の前提となる授業である。まず、近世社会とそれが残した史料の特質や合同調査の意義について、数篇の論文を輪読して理解を深める。その上で、古文書の写真をテキストとして、実際に「くずし字」で書かれた古文書を読み進め、「くずし字」の読解力を培っていく。「くずし字」の読解は、はじめは難しいが、授業を通して、筆の運びや字のくずれ方がだんだん分かるようになってくる。「くずし字」で書かれた生の古文書(一次史料)を解読することは、卒論(修論・博論)研究にあたって重要なことはもちろんだが、古文書を読み解いていくことは楽しく、歴史学の醍醐味の1つといえるだろう。「くずし字」を読む訓練としては、院生が中心となって、「くずし字」を読む会を開催している。基礎講読を受講する2回生を中心に、一緒にくずし字を読んでいくことは、院生にとっても、いい勉強になっている。
 日本史講読2回生科目)では、先述した合同調査で調査した史料を用いた史料講読を行う。日本史演習3回生科目)では、『大阪市史』(1911年初版)などに収録されている、大坂の町触(大坂の町中に触れられた法令)を用いた史料講読を行う。講読・演習の授業では、基本的に受講者2〜3人のグループを作り、各自で史料を読み込んだ上で、その内容や論点について議論し、史料についての理解を深めた上で発表を行う。これらの授業では、史料の読み解き方や論点の引き出し方を学び、卒論研究に向けた実践的なトレーニングになる。
大学院演習では、半期ごとに学内外の研究者の最新の研究成果をまとめた著書1冊を取り上げ、一週間に一章ずつ精読し、その内容や論点をめぐって議論を行い、修論や博論の執筆に不可欠な学術論文の批判的な読解のための能力を養っている。例えば、2019年度は齊藤先生のご著書『畿内譜代藩の陣屋と藩領社会』(清文堂、2019)、2020年度は『シリーズ三都 大坂巻』(塚田孝編、東京大学出版会、2019)、今年度(2023年度)は最近刊行された牧原成征氏の『日本近世の秩序形成』(東京大学出版会、2022)を輪読している。これらの書籍を取り上げて精読、参加者と議論することで、その内容の理解を深めるだけでなく、地域史や都市社会史の研究視角・研究方法を吸収することができ、自らの研究の進展に密接に関連している。
 研究会は週に1回、主に卒論・修論・博論の準備や、院生などの学会発表、論文執筆に向けた研究報告などを行なっている。巨大都市三都(大坂・江戸・京都)をはじめとする都市社会史研究や、畿内・紀伊・周防などの地域史、職人・商人などの近世の社会(身分)集団、薬種・種物・砂糖の流通構造など、テーマは多岐にわたっている。報告者は史料に内在した分析を行い、議論を通して報告者の意図や史料について理解を深めることで、参加者全員が相乗的に研究を深め合う機会になっている。また、その研究会の延長として、毎年夏には1〜2泊の合宿を実施し、在籍者の研究フィールドやOBOGの就職先などに赴き(近年では龍野、岡山、京都で実施)、卒論・修論・博論の準備報告とフィールドワークを行っている。近世史ゼミで一緒に勉強している先輩や同級生の研究報告を聞くことは、自分では気が付かないような史料の読み方や論点などを知る機会となり、とても勉強になる。また、講読Ⅲで取り上げた史料の分析を、研究会で続けていくこともある。研究会での報告を重ね、合同調査に入った地域での成果報告会で発表することも少なくない。
 またこのほかに、院生や学生による自主的な読書会なども行っている。卒論執筆を控えた学部3回生を中心に、院生や時に先生も交えながら、興味・関心のある論文を取り上げて輪読する。この読書会で、自分の興味ある論文を取り上げ、報告することは、自身の研究を見出し、深化させることにもつながる貴重な経験である。

(2)近世大坂研究会と成舞家文書を読む会

 毎週の授業や研究会に加えて、近世大坂研究会として2ヶ月に1回のペースで研究会を開催している。ここでは、主に学内外の研究者(海外の研究者を含む)による、巨大都市三都の都市社会史(とくに大坂)や畿内の地域史に関わる研究報告が行われるが、世界の他地域や時代を超えたテーマを扱う場合もある。他にもこれまで国内外で数多くのシンポジウムや円座を開催し、その成果は論文集として刊行されている。これらの研究会や円座・シンポジウムでは、現在第一線で活躍されている研究者の最新の研究成果や方法を学ぶことができ、国内外で行われている歴史研究とも比較しながら、自らの研究を振り返ることができる機会となっている。
 この近世大坂研究会の基軸となっているのが、成舞家文書を読む会である。成舞家は、明治以降、難波村の戸長を勤めた家であり、成舞家文書には、近世の難波村庄屋家で作成され、残されてきた史料が大量に含まれている。その中でも特に重要なのが、19世紀初頭から庄屋家において、同村内の様々なテーマごとに編集された一件史料である。成舞家文書を読む会では、報告者が自身の興味関心に即したテーマとそれに該当する史料を選び、翻刻・現代語訳を丁寧に確認し、解釈・論点を提示する。その報告をめぐって、学部生・院生・OBOG・学外研究者(海外の研究者も含む)からなる2030名ほどの参加者全員で議論する。1文字1文字さらに史料全体の構成など細部にわたって読み込み、その一件がなぜ庄屋家によって書き留められたか、その背景に何が起こっていたかなどを、史料の内容に即してできる限り深く考察する。そうした議論を通して、都市大坂に近接する難波村について、村内のあり様や大坂市中との関係などを明らかにしていくことを試みる。成舞家文書を読む会での報告や議論は、学部生や院生にとっては、史料の読解力や論点の引き出し方などを鍛える重要な機会であり、卒論・修論・博論研究の基礎となっている。

(3)共同の学びーOBOGとの繋がり・国際交流

 近世史ゼミでは、学部生・院生・OBOG・学外研究者・海外の研究者が相互に深い関わりを持ち、その繋がりや学び合いを大切にしている。先の近世大坂研究会や成舞家文書を読む会では、OBOGや学外研究者・海外の研究者が集まり、相互に学びあう場となっている。さらに、2017年には、様々な年代のOBOGが広く参加できる研究会「大阪近世史の会」を発足させた。これは、OBOGがこれまで取り組んできた、あるいは新たに取り組もうとする課題についての研究報告や、現在の職場での近況を報告し合う交流の場となっている。
 また、海外の外国人留学生・日本史研究者との国際交流も積極的に行っている。日々の研究会や成舞家文書を読む会などにも、アメリカ・フランス・シンガポール・中国からの外国人留学生や日本史研究者・大学院生などが参加し、共に研究を深めている。そうした緊密な関係を基盤として、国際シンポジウムなどを開催しており*、海外での歴史研究に対して、日本近世史研究の方法・成果を発信している。
これらの経験は、研究方法や研究成果についての新たな知見を獲得するだけでなく、歴史研究を取り巻く現状を確認する重要な意味を持っているように思う。(3)共同の学び:挿入写真

*近年では、2018年にはシンガポール国立大・上海社会科学院で、2019年にはイェール大・大阪市大・シンガポール国立大で開催。

(4)合同調査

 和泉市教育委員会と公大日本史研究室との合同調査や大学周辺の杉本町での合同調査は、公大日本史研究室全体の取り組みでありながら、近世史ゼミにとって重要な活動である。    近世江戸時代は、個々の村々が、その生活の中で、検地帳・宗門人別帳をはじめ、領主などへの願書や村での取り決めなど、多様かつ大量の史料を作り出した時代であった。その多くは、村の史料として大切に保存・継承されている。合同調査は、そうした「生の史料」そのものや、それが村で現在まで保存されてきた様子に触れることのできる貴重な機会である。史料調査・聞き取り調査を通して、地域で蓄積されてきた人々の生活の歴史全体をどのように捉えるかについて、よく考え学びあう機会となっている。その中で、地域史に興味を持ち、卒論・修論・博論のテーマに発展していくことも少なくない。

(5)大学院生の世界

 以上にあげた活動の他にも、近世史ゼミの院生は様々な経験を積み重ねている。近世史専攻の院生の多くは、合同調査を共同で行っている和泉市史編さん室や科研費による成舞家文書、あるいはその他の自治体での史料整理・調査に参加するなど、多様な史料調査・整理の経験がある。その経験は、史料の読解力自体の訓練にもなり、また専門職としての経験を積むことにもなる。また、大阪歴史科学協議会や大阪歴史学会近世史部会の委員として、近世史や近世史に限らない幅広い時代・対象の研究に触れる機会や学会の運営に携わる機会もある。近世史ゼミ・近世大坂研究会での共同の学びや以上のような経験は、いずれ研究者として自立していく大きな糧となると考えている。
2023年度M2 谷内田智成)
【付記】本ページ作成にあたって、オープンキャンパス用冊子『日本史コースが分かる』をベースに、「10年の調査研究活動」(近世史部分、『市大日本史』20,2017)を適宜参照し、加筆した。