バセドウ病の核医学治療

1)甲状腺ホルモン合成のしくみと甲状腺生理

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甲状腺は、前頚部にある鳥が羽を広げたような形状で甲状腺ホルモンを産生する臓器です。(図1)
甲状腺の細胞は集まって濾胞(ろほう)という袋を作り、この濾胞がたくさん集まって甲状腺が形成されているといえます。

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甲状腺細胞は、血液中のヨードをエネルギーを使って細胞内に取り込み、濾胞内に貯蔵していきます。
甲状腺細胞は、サイログロブリンという分子量66万の細長い糖タンパクを合成して、これも濾胞に貯蔵していきます。

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濾胞の中では、酵素の働きで、サイログロブリンにヨードが1つ置換されたもの(MIT)2つ置換されたもの(DIT)が作られます。
それが、ペルオキシダーゼと言う酵素により重合して、ヨードが、3~4置換されたものが作られます。

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これらは、再び、甲状腺細胞内に戻され、リソゾーム内で切り離されて甲状腺ホルモンとなります。(図4)まとめると、正常甲状腺組織は①ヨードを取り込む、②サイログロブリンを産生する、③それらから甲状腺ホルモンを合成する、という3つの仕事をしている臓器であるということです。

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体内甲状腺ホルモン濃度の調節(フィードバック機構) 血液中の甲状腺ホルモン濃度は、視床下部で常にモニターされています。 甲状腺ホルモン濃度が低い場合は、視床下部から下垂体前葉に、甲状腺刺激を行うホルモン(甲状腺ホルモン)の分泌を促すホルモン(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)が放出され、その結果、下垂体前葉から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌されます。これが、血流に乗り甲状腺に到達して、甲状腺の表面に存在するTSHのレセプターに結合することにより、甲状腺から甲状腺ホルモンが分泌されます。 甲状腺ホルモン濃度が高い場合は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの放出が少なくなり、TSHの分泌が少なくなることから甲状腺から甲状腺ホルモンの分泌が減少します。

2)

バセドウ病とは

バセドウ病は、甲状腺表面に存在するTSHレセプターを異物であると認識することで、抗TSHレセプター抗体(TRAb)が生体内で合成され、それがTSHレセプター過剰に刺激し、甲状腺が刺激されるため、甲状腺ホルモン産生が著しく増大する病気です。 その結果、体内の甲状腺ホルモン濃度が高まり、代謝が異常に活発になって、肉体、精神に影響を及ぼします。 遺伝、ウイルス関与などいろいろな要因があげられています。

3)

治療

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治療は、薬物療法、外科療法、そしてI-131内用療法です。

①薬物療法

日本では、一般的には最も簡便なメルカゾール、プロパジールといった抗甲状腺薬、ヨウ化カリウムの投与等の薬物療法が行われています。

副作用に無顆粒球症、肝障害、全身掻痒感、発疹などがあり、特に無顆粒球症が続くと、死亡に至る重篤な感染のリスクが高まるので、投与直後は、2週間ごとに血液検査を行い確認します。また、AST、ALTなどの指標が100を越える重篤な肝障害がないかも確認します。
これらの副作用が続く場合は、抗甲状腺剤による薬物療法は中止されるのが一般的です。

ヨウ化カリウムは、甲状腺は体内のヨードの濃度が高くなるとホルモン産生を行わなくなるという性質を利用して、投与されます。
抗甲状腺剤に比べると副作用は少ないですが、効果は低く、効果の持続性も短いといわれています。実際には、使いやすいためよく用いられています。

②外科療法

外科治療は、巨大な甲状腺重量となる場合、重篤なバセドウ病眼症の場合、そして挙児希望で30歳代後半以上の女性に行われます。

③I-131治療

I-131治療は、米国では未治療例から当たり前のように行われていますが、我が国や欧州では、薬物療法で問題が発生し、外科治療を忌避、あるいは導入困難な場合に行われます。
I-131は、放射性同位元素であるヨードで、物理的半減期は約8日、原子炉を稼働させる副産物として取り出されますが、わが国は法律の不備などもあり、ポーランドや南アフリカなど全量外国からの輸入に依存しています。I-131の特徴は、シンチカメラにより視覚化できるガンマ線以外に、体内で飛程距離が2ミリ程度ですが、焼灼力の高いベータ線を放出することです。

I-131治療の原理と方法

バセドウ病患者に治療前に2週間程度の低ヨード食を食べていただき、その後I-131を投与すると、甲状腺組織内にI-131が取り込まれ、放出されるベータ線により、甲状腺組織が焼灼されます。以前は、ある程度甲状腺組織を温存可能なI-131の投与量で治療していましたが、再発することがあり、我々の施設も含め、多くの施設では、外来で投与できる最大量(13.5mCi = 500MBq)を投与し、甲状腺組織を完全に焼灼して、その後は甲状腺ホルモン剤を投与して調整する方法が採られています。

投与後、すぐに甲状腺機能が低下することは少なく、血液検査で2~3カ月経過すると低下しています。ごくまれですが低下しない場合は、再度I-131投与を行うことが多いです。副作用として、甲状腺内から血中に甲状腺ホルモンが大量に漏れ出すクリーゼによる甲状腺中毒症が挙げられます。頻度は多くないものの、きわめて高い甲状腺機能亢進状態となり出現する症状が苛烈であるため、入院加療を必要とします。
一般的には投与数日後に発症することが多いため、当科では出現しても平日に対応可能とするため、月曜日にI-131の投与を行っています。

当科でI-131治療を受けるには?

直接患者様からのご希望で受診は出来ません。現在受診中の医療機関の主治医と相談して、ご紹介いただいております。
先程も言及したクリーゼの問題があり、クリニックなどいざと言う時の入院設備がない医療機関からの場合は、当院骨内分泌内科にご紹介いただいております。