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発想の柔軟性が重要!組み合せ・連携・仕組み化で新たな価値を創造するスマート化

第1部は、情報学研究科教授の阿多先生による講演。まず「スマートとはなにか?」という本講座を理解する上で必要なキーワードの解説から始まりました。一般的に「スマート」といえば、賢い・かっこいい等がイメージされますが、社会で用いられている「スマート○○」とは、情報や通信技術を活用し、合理性・効率性・快適性・柔軟性の高い機能を実現するとともに、その組み合わせにより新たな価値を創造できる拡張性を有することと、阿多先生は話します。

身近にあるエアコンをスマート化した「スマートエアコン」を例に考えてみましょう。リモコン・本体それぞれに通信機能を追加することで、インターネットを通じた遠隔操作ができることに加えて、それぞれ独立した仕組みの開発も可能になります。つまり、より賢いリモコンを開発すれば、本体の機能を変えずに性能のアップデートができます。例えば、人の在室退室を感知したスイッチの切り替えや、仕事中・オフの時間・睡眠中など状況に応じた適正温度の自動管理なども実現できます。

「データを使った課題解決について大切なことは、自分のやりたいことを明確にすること。温度設定に満足している人に『新しい賢いリモコンを開発して』といっても無理な話。温度設定すら面倒くさいと考える人が新たな『コト』を生み出すのです。ちょっとした不満をどのように解消し、欲望を満たすのかを自分の言葉で明確に表現し、どのような手段で実現するのかということに結び付けるのが大切」

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公開講座『スーパーシティ構想で変貌するOSAKAの未来社会図』で講義する阿多先生

究極の面倒くさがりという先生自身の研究室をスマート化した実例も紹介されました。

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阿多先生の研究室のスマート化の様子


「私の研究室のドアには鍵が付いていますが、いちいち開けるのが非常に面倒くさいので、ボタン1つで操作できるスマホアプリにしました。スマホのボタンを押せば、鍵が開いて室内灯がつき、不在から在室表示へと変わります。外出の際もボタン1つで全てが遂行でき、さらに研究室の固定電話が携帯電話に転送されるよう切り替わります。個々の機能はすでに世の中に存在しています。あとはこれらをどう組み合わせてスマート化するか、ということです」

ここでキーとなるのは「通信」「データ」「アプリ」の3つ。通信機能を付けることで外部連携が可能になり、通信により収集したデータを目的に応じて活用できます。これら複数のものを組み合わせて機能させる仕組みを構築する際、それを制御するのがアプリです。

このように単独の機能をスマート化し、複数のモノを連携できるようにすれば、新たな発想に基づく、付加価値の高い機能やサービスを創ることができます。これを従来の「モノづくり」に対して「コトづくり」と阿多先生は呼びます。「コトづくり」に必要な条件は、既成概念にとらわれない自由な発想でアイデアを出し、それを実現可能な形にすることと、世の中のニーズを的確に捉え価値を見出すことです。

大阪公立大学の新キャンパスで実現するスマートユニバーシティ

これらの要件をまちづくりに適用していく施策が「スマートシティ戦略」です。都市のあらゆる機能・サービスをスマート化することで、より便利で快適なまちを実現し、人々のQOL向上を目指します。

その実現において非常に重要なのは、街のデータをどう活用するかという「データ利活用」の観点です。阿多先生はデータを金に例えます。

「データは決して『金塊』ではなく、そのままでは価値がない『金鉱』のようなものです。その中から純度の高いデータを抽出し、形にしていくことが非常に難しい。データの収集や活用については、データを多角的に見る力やデータから意味を考える力など、経験値が必要となります。事前のメリット抽出やコスト把握に課題があり、データを保持している自治体と分析する企業等の利活用の連携がなかなか進んでいないのが実状でした」

大阪府では大阪モデルのスマートシティ実現に向けて、情報基盤やインフラ整備等のいわゆる“社会インフラ”の観点からID連携や市町村間のサービスの標準化を目指し、大阪広域データ連携基盤(ORDEN)の取り組みをスタートさせました。

また、大阪府や府内43市町村の持つ課題の見える化や、企業や行政を繋ぐコーディネート・プロジェクト推進を目的とする、大阪府、各市町村、企業、大学、シビックテックなどにより構成される大阪スマートシティパートナーズフォーラム(OSPF)も20208月に設立されました。OSPFのデータ利活用プロジェクトでは、大阪公立大学がコーディネーターに就任しました。大学を中心に自治体、企業が連携し、地域の課題解決を行います。

 

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大阪広域データ連携基盤(ORDEN)および大阪スマートシティパートナズフォーラム(OSPF)の説明
(出典:大阪スマートシティ戦略ver.2.0 大阪府/大阪スマートシティ戦略 (osaka.lg.jp)

最近よく耳にするメタバースに代表されるサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が一体となり、経済発展や社会的課題の解決を実現する社会(Society5.0)の到来を間近に控え、阿多先生が語る大学の使命とはどのようなことでしょうか。

「コトづくりの肝はプログラムのアプリ開発になっていきます。私たちは、アプリ開発が世の中の仕組みを変えてWell-beingな社会を実現していく、という考え方のことを『アプリ・ネイティブ思考』と呼んでいます。住民と一緒に、身近な課題解決ができる仕組みを考え、社会を変えていく場が今後の大学です」

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2025年開設予定の森之宮キャンパスイメージ図

特に重点を置いているのが、2025年に開学予定の森之宮キャンパスです。森之宮地区は大阪のビジネスエリアの東端、歴史文化エリア、住居エリアの接点に位置し、各ゾーンをつなぐポテンシャルの高い地域です。目指すのは、学生時代の経験がそのまま「事業」となるようなイノベーションの創出です。

産学官、そして住民が気軽に集い、コミュニケーションを通じて身近な社会課題を議論・発見し、ともに解決を探っていくプラットフォームの実現。データ・制御を操作できるプログラム可能なプラットフォームを通じ、実践的に課題解決アイデア(アプリケーション)の構築を学ぶ場としての大学を目指します。



大阪の未来社会の進展において、大学が担う役割が重要です。「とにかく、やってみよう」という精神を持ったアプリ・ネイティブ世代を輩出する教育的役割、社会や未来をデザイン・実装する人々が集まる「場」としての役割、より高度な「スマート化」の実践・実証環境としての研究的役割。このようなさまざまな切り口で、大学が地域や人々と繋がるためのフィールドとなります。大阪スマートシティ戦略ver.2.0においても、森之宮地区のコンセプトは「大学とともに成長するイノベーション・フィールド・シティ」と定義されています。スマートシティのリビングラボ(共創プラットフォーム)として、新しい価値や社会の創造の場として多くの人が集う森之宮キャンパスの開設にご期待ください。

変わりゆくOSKA!スマートシティ戦略とスーパーシティ構想について

2部は大阪市デジタル統括室 スマートシティ推進担当部長 森山 文子氏から、行政担当者として「スマートシティ戦略」や「スーパーシティ構想」についてお話いただきました。

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『スーパーシティ構想で変貌するOSAKAの未来社会図』で講義する森山氏

2025年大阪・関西万博は、最先端技術の活用ができる大きなチャンスです。それを捉えて大阪市域・府域全体で先端技術の利便性を住民が実感でし、QOLの向上を図る取り組みを目指し作成したのが「大阪スマートシティ戦略」です。

府内43市町村をたばねる大阪府は、スマートシティの推進基盤としてデジタル化の基盤づくりと先進取り組みを府域に水平展開する「広域型スマートシティ」を。基礎自治体として直接サービスを提供する立場の大阪市はデジタル技術を先行導入し、住民サービスを高度化させる「都市型スマートシティ」を、府市がそれぞれ推進。連携または役割分担により「世界を牽引するスマートシティの実現」を目指します。

大阪スマートシティ戦略に基づいた事業の事例を、森山氏からご紹介いただきました。

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AIオンデマンド交通の紹介(森山氏 講演資料より)

一つ目は、大阪市北区・福島区と生野区・平野区で行われている「AIオンデマンド交通」の実証実験です。

従来の定時・定路線型ではなく、利用者の予約に対してAIによる最適な運行ルート、配車をリアルタイムで行う乗合輸送サービスです。

二つ目は、大阪市行政オンラインシステムです。スマホやパソコンで行政手続きができ、20208月から段階的に稼働しています。オンライン化が困難なものを除外したすべての行政手続きを対象にした実施(予定含む)は、政令指定都市初の取り組みです。2021年末までの申請件数は、新型コロナウイルス感染症による営業時短協力金や水道使用開始手続き、保育施設の利用申し込みなど約42万件となり、2025年度までにサービスを拡充していく予定です。

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行政オンラインシステムの紹介(森山氏 講演資料より)

このほかにもドローン活用によるインフラの維持管理・測量・災害対応への活用、災害情報一斉配信システム、教育分野におけるデータ可視化などの事業が行われています。

「今は実証フェーズの取り組みも多いですが、これを実証で終わらせず実装に向けて進めてまいります」と、森山氏は力強く話します。

大阪スマートシティ戦略と並行して推進されているのが「スーパーシティ構想」です。「住民が参画し、住民目線で、2030年頃に実現される未来社会を先行実現する」ことを目的とした国家プロジェクトで、20224月に第一号として、全国から大阪市とつくば市が選ばれました。

スーパーシティもスマートシティの一環として、最先端の技術、データやデジタルによる生活の質の向上を狙った施策で、「先端的技術の活用で複数分野に一括したサービス提供」「複数分野の先端的サービスを実現する『データ連携基盤』」「先端的サービスを実現するための規制改革」の3点を特徴とし、大胆にスピーディーに進めていこうというプロジェクトです。

大阪府・市がスーパーシティ構想に手をあげた理由を森山氏はこう説明します。

「大阪が国際都市に肩を並べる大都市であること、大阪にはこれからまちづくりを行うグリーンフィールド(整備されていない未開発の土地)があり新しいことにチャレンジできること、そして大阪府が大阪広域データ連携基盤(ORDEN)構築を予定しているためです。」

大阪におけるスーパーシティのテーマは「データで拡げる“健康といのち”」。うめきた2期と夢洲の2つのグリーンフィールドで3つのプロジェクトを展開します。

 

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大阪のスーパーシティの概要(森山氏 講演資料より)

「夢洲コンストラクション」(2023年~)は、データ連携により車両、人、モノの情報をつなぎ、建設工事現場内外の移動、建設工事及び資材運搬、建設作業員の安全・健康管理の3つの円滑化を推進します。

 

「うめきた2期」(2024年~)はイノベーション施設を核として、緑あふれる融合拠点を実現します。ヒューマンデータとAI分析などによる健康増進プログラムの提供による未病対策や、多様な体験や実証実験を可能とするリアルとデジタルの融合空間の創出などの先端的サービスを提供します。

そして「2025年大阪・関西万博」では、近未来の医療・健康サービス、スマートモビリティ(自動運転車/空飛ぶクルマ)、移動に関する情報の収集、流通の最適化を実現するOSAKAファストパスサービス(仮称)の先端的サービスをはじめ、多くの取り組みが進められます。

「2025年大阪・関西万博」を経て、スマートシティ戦略とスーパーシティ構想が推進され実績を重ねた未来都市大阪では、どのような変革がもたらされるのでしょう。

モビリティの分野では、時間や場所を問わず、人や物が移動できる未来の移動社会の実現を目指します。日常使いの空飛ぶクルマが普及しているかもしれません。ヘルスケアの分野では、データ連携基盤を通じて、医療・健康・介護・スポーツなど多岐にわたるデータをつないだ次世代PHR(パーソナルヘルスレコード)を活用し、個人へ最適化された高度な先端的サービスの提供を目指します。

「民間企業のアイデアを生かせる環境を行政がしっかり整え、産学公民一体となり知恵を絞ることで、未来に向けた暮らし・サービスが生み出せます。大阪が全国に先駆け、未来社会を実現できるような都市になっていければと思っています」と森山氏は今後の抱負を語りました。


「2025年大阪・関西万博」に向けたスーパーシティ構想やスーパーシティ戦略で、大胆かつスピーディーに都市のDXが推進されます。全国に先駆けデジタル化をリードする都市大阪への進化にも期待感が高まります。

プロフィール

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情報学研究科 教授
阿多 信吾

情報学研究科 教授、学長補佐(情報・データ戦略)、情報基盤センター長、スマートシティ研究センター 副センター長。

主な研究分野は、ネットワーク分析と応用、トラヒック制御、ネットワークアーキテクチャ、プロトコル設計、スマートネットワーキング等。情報基盤センター長として、学内ネットワーク、情報システム全般の企画及び構築を行う。また、大阪公立大学スマートシティ・スマートユニバーシティに関する戦略立案にも従事。

研究者詳細

※所属は掲載当時

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大阪市デジタル統括室 スマートシティ推進担当部長

森山 文子

※所属は講演当時

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