所長挨拶

脱炭素社会の実現にむけて、再生可能エネルギーを効率よく利用するための大型蓄電池の需要が高まっています。2019年のノーベル化学賞の受賞対象となったリチウムイオン電池は日本で実用化され、軽量でエネルギー密度が大きいという利点を生かして、ビデオカメラや携帯電話、ノートパソコンなどの小型携帯機器用の電源として広く普及しました。また電気自動車の駆動電源や家庭用定置電源などの大型蓄電池としても利用されてきており、その用途は益々拡大しています。リチウムイオン電池には有機電解液が用いられていますが、これを無機固体電解質に置き換えた電池が全固体電池です。固体電解質は難燃性で流動性がないため、安全性が高く、広い温度域で作動可能な長寿命の電池の実現が期待できます。

このような特長をもつ全固体電池の実用化にむけた研究開発が、現在、世界中で活発に行われています。この電池を実現するためには、新物質の開発とその物性および構造の高度解析、固体―固体界面形成プロセスの構築や全固体電池のメカニズム解明など、基礎から応用までの広範囲にわたる研究を効率よく進めていく必要があります。

大阪公立大学には全固体電池の研究に携わる研究者が多数存在し、世界的に見ても研究を牽引している立場にあります。これまで、本学の研究者は複数の研究科にまたがって、それぞれの専門分野で研究を進めていましたが、研究者個々の強みを生かしながら相互に連携を図ることによって発展的に研究を進展できると考え、20208月に全固体電池研究所を設立しました。

20234月には、本研究所が全国初の全固体電池に関する学術研究を中心においた共同利用・共同研究拠点(全固体電池学術共同研究拠点)として、文部科学省から認定を受けました。この学術研究基盤に加えて、別途、研究所メンバーが発起人となり全固体電池実用化研究会を立ち上げ、会員企業との人材交流を通して産学連携研究の基盤構築にも取り組んできました。

全固体電池研究所では「全固体電池の社会実装に向けた企業連携による研究の推進と高度研究人材の育成に貢献する」という理念を掲げ、全固体電池のイノベーション拠点をめざして活動していきます。

大阪公立大学 全固体電池研究所所長
林 晃敏

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