所長あいさつ

天尾 豊 センター長
天尾 豊 センター長

ほとんどすべての地球生命は太陽の光を利用して生きています。光合成では地球に降り注ぐ太陽光エネルギーを利用して、豊富に存在する水から酸素を、大気中の二酸化炭素から自らの体を維持する炭水化物を合成します。この酸素は呼吸により取り込まれ、炭水化物を燃やして生命活動に必要なエネルギーを生み出し、その有機物を水と二酸化炭素にもどします。すなわち地球の生命活動は、光合成と連携して、理想的に循環する持続可能な世界を作り出しています。

一方これまでの石油エネルギーに代表される化石燃料に依存した社会から、新エネルギーを創製しカーボンニュートラル社会へ移行するためには、二酸化炭素の排出を抑制するだけでは達成できません。二酸化炭素を効率的に回収し、積極的に有価物へ変換するなどの再利用技術も必要です。2015年12月の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定での大胆な二酸化炭素大幅削減目標や2020年10月の日本政府による2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラル宣言など二酸化炭素問題は待ったなしの状態です。実質的に二酸化炭素のリサイクルを実現しながら、太陽光エネルギーや触媒を利用して有価物質を生成する人工光合成の達成は、天然の光合成に学び、模倣し、超越する斬新な技術が必要となります。

大阪公立大学人工光合成研究センターでは、2013年のセンター開所以来精力的に進めてきた光合成・人工光合成に関する基礎研究成果を元に、産官学の連携で人工光合成実現のための応用指向研究を進めてまいります。漠然としていた人工光合成の実用化の具体例が徐々に見えてきました。人工光合成によって二酸化炭素から作られた物質から水素エネルギーを獲得しこれを電力供給につなげる研究、太陽光エネルギーを用いた有価物質を作るための二酸化炭素の利用・資源化に関する研究は飛躍的に進みました。いずれはこれらの技術がごく普通に利用しているような社会の到来を目指します。本センターではこのような社会を実現するため、さらに人工光合成技術を深化させるための研究開発を進めてまいります。