栄養素 (ホウ素) のセンシングと輸送体の制御

栄養素 (ホウ素) のセンシングと輸送体の制御

植物は根で栄養素(ミネラル)を吸収し、体内を運んで利用しています。各ミネラルは植物の成長に必要ですが、多すぎると毒になります。植物は、多種の輸送体 (チャネル・トランスポーター・ポンプ) をさまざまな細胞の特定の膜コンパートメントに適量配置することで効率よくミネラルを運んでいます。

私たちは、モデル植物であるシロイヌナズナを用い、ホウ素 (ホウ酸) のトランスポーターとチャネルを発見し (Takano et al. 2002 Nature; 2006 Plant Cell; スライド1)、それらが細胞の特定の側の細胞膜に偏って局在 (偏在) することや、ホウ酸濃度の上昇に応答して発現抑制されることを明らかにしてきました。 たとえば根の表面に位置する表皮細胞では、ホウ酸チャネルNIP5;1は土壌側, ホウ酸排出型トランスポーターBOR1は中心側の細胞膜に偏在します (Takano et al. 2010 PNAS; スライド2) 。 これにより、根に効率的にホウ酸が取り込まれます。NIP5;1とBOR1の偏在は、連続的なエンドサイトーシスとエキソサイトーシスによって保たれています (Wang et al. 2017 Plant Cell; Yoshinari et al. 2019 Plant Phys. 他) 。 また、根圏のホウ素濃度が高まると、BOR1はエンドサイトーシスによって細胞膜から液胞に輸送され、分解されます (Takano et al. 2005 PNAS 他; スライド3) 。 この過程では、BOR1はホウ酸を感知 (センシング) するセンサーとしても働き、自身の働きを適切に制御できると考えられます (Yoshinari et al. 2021 Plant Cell) 。 これはホウ素の蓄積しすぎによる過剰害を予防するために重要な仕組みです。 ホウ素は特に種子形成に多量に必要であることから、雄蕊や雌蕊における輸送体の局在と働きについても解析しています (Muro et al. 2025 Plant Phys. 他) 。

私たちはこれらの現象の分子メカニズムについて、蛍光タンパク質を利用したトランスポーターやバイオセンサーのライブイメージングなど、"観る"ことを重視した研究を展開しています。私たちの研究は、ミネラル利用効率の高く肥料を削減できる作物や、有害元素の吸収・蓄積を低減した作物の作出につながります。

トランスセプターに
よるホウ素センシング

Yoshinari et al.
The Plant Cell
大阪府大プレスリリース
(2020年12月16日)
植物の生長調節 研究ノート
(2021年12月21日)

ホウ酸チャネルの
偏在メカニズム

Wang et al.
The Plant Cell
大阪府大プレスリリース
​(2017年3月27日)

花粉形成におけるホウ酸トランスポーター

Muro et al.

Plant Physiology

大阪公立大プレスリリース

​(2025年3月26日)

植物における生命金属と
有害金属の動態

(ホウ素、鉄、有害金属)
生命金属科学 研究最前線
ビデオシリーズ4

(2021年8月19日)

私たちは必須ミネラルであるホウ素の輸送メカニズムを解明してきました。ミネラルの輸送機構を理解することは、ミネラルの欠乏や問題を克服し、持続的な農業を実現するために重要です。 ホウ酸輸送体は細胞膜上で偏ることで効率的にホウ酸を輸送します。私たちは極性輸送や選択的エンドサイトーシスなど細胞内輸送メカニズムの解明を目指しています。 ホウ酸トランスポーターBOR1は高濃度のホウ素に応答しエンドサイトーシスされ分解されます。これはホウ酸の運びすぎによる過剰害を予防する仕組みです。私たちは、細胞もしくはトランスポーターそのものがホウ酸濃度を感知するメカニズムを研究しています。カリウムについても研究を進めています。 輸送体を利用して実ならルの欠乏や過剰に強い植物を育てることができます。私たちは、輸送体の改変の効果をシロイヌナズナにおいて試しつつ、カラシナなど作物への応用を進めています。