ダイズの低リン耐性とミネラル含量の向上をめざした研究

ダイズの低リン耐性

 現代のダイズ栽培では、多量のリン肥料を投入しています。リンは鉱物資源であり、産出する国は限られており、日本はほぼ全てを輸入に頼っています。現在、リン鉱石は質の良いものから枯渇に向かっており、肥料価格は高騰しています。一方で、これまでの肥料の多量投入は、リンや窒素の水系への流出による富栄養化を引き起こしてきました。ダイズに限ったことではありませんが、リン肥料の投入の削減は持続的な食料生産と環境保全のため重要な課題です。

日本のダイズ生産では、栽培面積あたりの収量の低さが大きな問題になっています。そこで、農研機構を中心に、タンパク含量など食材としての品質が高い日本のダイズ品種と多収の米国品種を掛け合わせ、新品種の育種が進められています。私たちの目標は、多収・高タンパク含量・耐病性などの重要形質に加え、低リン耐性の形質を持つ品種を育種することで、リン肥料の投入削減に貢献することです。

私たちは、日本・米国・世界のダイズ品種の低リン耐性を評価し、ゲノムワイド関連解析 (Genome wide association study, GWAS) や量的形質遺伝子座 (QTL) 解析により重要な遺伝子領域を特定し、低リン耐性のメカニズムを解明する研究を進めています。

 

ツルマメ低リン耐性野生ダイズ (ツルマメ) の低リン耐性やミネラル含量

ダイズは中国の黄河流域で野生ダイズ (ツルマメ) から栽培化されたと考えられています。栽培化の過程では、ツル性や裂莢性 (さやが割れて種子が飛び出すこと) など栽培に向かない形質を失うとともに、種子が大型化しました。ツルマメは日本の各地を含む東アジアに広く分布しており、ストレス応答などさまざまな面において、栽培ダイズが持たない多様性を持つと考えられます。

そこで私たちは、日本や東アジアの各地から収集されたツルマメ系統について低リン耐性や種子のミネラル含量 (特に鉄や亜鉛) を評価し、ゲノムワイド関連解析(Genome wide association study, GWAS) により重要な遺伝子領域を特定する研究を進めています。

多様なツルマメの持つ低リン耐性や高ミネラル含量に寄与する遺伝子 (の多型) を、交配やゲノム編集を用いてダイズ育種に利用することを目標としています。