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地域生態学研究グループの特徴

健全で持続可能な地域環境の形成を図るためには、地域環境を構成する諸要素(自然的要素、人工的要素)および人間活動(社会、経済、歴史、文化、生活)の相互関係を解明することが重要です。本研究グループでは、地域における人と自然の関わり方を「自然との共生」、「生物文化の継承と発展」、「生活の質(QOL)の向上」といった視点から捉え直し、地域の生物多様性保全と自然資源の持続可能な利用を図り、自然との関わりの中で育まれた文化を継承・発展し、生活の質を向上させる緑地環境を検討することによって、生態系と調和した健全な地域社会を実現するための研究を進めています。

研究テーマ1 自然との共生

地域の生態系は開発や過剰利用、管理放棄などによって劣化し、生物多様性が減少し続けています。そのため、生態系と調和した持続可能な地域社会を形成することが必要です。地域の生態系の現状や課題を把握して、生物多様性に配慮した環境や社会を形成するための研究や、自然資源の最適な利用や管理のあり方を解明し、持続的かつ生態系調和的な利用システムを構築するための研究に取り組んでいます。

研究の取り組み方の例:

●生態系と調和した持続可能な地域社会の形成という観点から、特定の生物種(あるいは生物群)に着目し、主に実地調査(観察、計測など)によって、分布状況や生息環境、人間活動の影響を把握します。得られたデータから、生物種(あるいは生物群)の分布域減少等の問題の原因を分析し、解決策を提案します。

●地域生態系において問題となっている人間活動に着目し、主に実地調査(観察、アンケートなど)によって生態系への影響の大きさや、人々の意識、行動の実態等を把握します。得られたデータから、現状の課題を抽出し、その原因を分析して、解決策を提案します。

●自然資源の持続可能な利用の例として参考になる伝統的事例あるいは先進的事例に着目し、文献調査や実地調査(観察、計測、アンケート、インタビューなど)によって、過去からの変遷や現在の状況を把握します。得られたデータから、現状の課題を抽出し、その原因を分析して、解決策を提案します。

キーワードの例:生物多様性、絶滅危惧種、指標種、自然保全、自然再生、緑化、自然環境問題、地球環境問題、環境配慮行動、バイオマス利用、持続可能な農林業

研究テーマ2 生物文化の継承と発展

人は自然との関わりの中で、衣食住や祭祀、遊び等の生活文化を育み、芸術文化へと昇華させてきました。しかし、地域の自然は変容し、人口減少や高齢化などによって自然資源を活用する知識や技術の継承が困難になっています。生活文化や芸術文化を支えてきた自然資源利用の変遷とその持続可能性の評価を通じて、自然との関わりの中で育まれた文化(生物文化)を継承し、発展させるための研究に取り組んでいます。

研究の取り組み方の例:

●地域の食、祭祀、芸能、工芸、遊びなどの生活文化や、茶道、華道、書道、邦楽などの芸術文化における人と自然の関わりについて、文献調査や実地調査(観察、計測、アンケート、インタビューなど)を行い、過去からの変遷や現在の状況を把握します。得られたデータから、現状の課題を抽出し、その原因を分析して、解決策を提案します。

キーワードの例:生物文化多様性、伝統文化、生態系の文化的サービス、生業、持続可能性、コミュニティ、地域活性化

 

研究テーマ3 生活の質(QOL)の向上

地域の生活環境は、自然環境と建造環境を基盤に、文化・社会・経済などの社会環境との相互作用によって形成されます。地域に住まう人々の生活の質(QOL)を向上させるためには、人の心理・態度・行動のプロセスを理解し、生活環境の特性を実社会の改善へ応用する必要があります。このため、人と環境の相互作用の把握、生活環境の改善に関する研究に取り組んでいます。

研究の取り組み方の例:

●地域環境やコミュニティおける課題(無関心・孤独化など)の原因や実態を探るため、地域住民に対して社会調査(アンケート、インタビュー、行動観察)を行い、洗い出された要因の相互関係を考察します。得られた結果をもとに、現地にて対策を実践し、地域住民の気持ちや行動の変化を促します。

●地域住民の健康増進やコミュニティ活性化と生活環境との相互関係について検証するため疫学調査(大規模アンケート調査、ビッグデータ解析)を行い、社会環境・建造環境・自然環境・生活習慣・生活の質(健康状態など)の相互関係をモデルとして表現し、その関係性をシミュレーションします。これにより、生活の質の向上に寄与する生活環境について提案し、地域計画へ役立てます。

●地域住民の健康増進や行動変容を促す自然環境のあり方に着目するため、対象者を用いた現地実験(時には医学倫理審査を伴う)を行います。例えば、公園における景観構成要素(森林や水辺)、利用形態(散歩や休憩)、利用者の特性(性格や好み)の違いに着目し、利用者の心理・生理に与える効果、特定の行動を誘発する効果について検討します。得られた結果から、地域を豊かにする自然環境のあり方について提案します。

キーワードの例:公園セラピー、園芸療法、森林セラピー、環境教育、心理・生理的効果、ソーシャルキャピタル、シビックプライド、行動変容、ナッジ、健康格差、社会経済格差、生活の質(QOL)