CSV 経営研究プログラムコラム

CSV 経営研究プログラムコラム 

CSVの考え方に関する内容について、プログラムに参加する先生が解説するコラムです。

今回お話いただいたのはプロジェクトリーダーを務める小林哲先生。専門分野であるマーケティングとの関わりを中心に、CSV経営の重要性についてお話いただきました。

マーケティングの視点からCSV経営を考える

マーケティングは、企業の様々な活動の中で販売活動に焦点を当てた学問です。成果となる利益獲得のため、顧客が何を求めているか理解し、その期待に応える製品やサービスを考え、利用可能な経営資源を用いて具現化し、顧客に提供することを目的としています。

したがって、マーケティングは、企業だけが満足するのではなく、企業と顧客が共に満足する状況、つまりWIN-WINの関係を作り出すことにあります。企業は利益を得ることで事業を継続し、顧客は求めているものを手に入れることで自らのニーズを満たすことができる。このバランスを保ち両者の目的を達成することが、マーケティングの鍵となります。

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CSV(Creating Shared Value)という言葉に馴染みのない方が多いかもしれませんが、著名な経営学者のマイケル・ポーター氏が、2011年に、マーク・クラマー氏との共著論文で提唱した概念で、企業が経済的価値と社会的価値を同時に実現する重要性を主張しています。企業が社会的責任を果たすべきというCSR(Corporate Social Responsibility)の発想はすでに存在していました。CSVは、CSRを一歩進め、社会的責任から社会的貢献すなわち事業(経済的価値の創出)の中で社会的価値の創出を目指しています。

実は、これに似た考え方が、マーケティング分野で1980年代に存在しています。コーズリレーテッド・マーケティング(Cause-Related Marketing)がそれです。コーズとは、製品を購入する理由や動機を意味し、「どうせ買うなら意味(理由)のある製品にしよう」という消費者心理に訴えるマーケティングを言います。例えば、クレジットカード会社のアメリカン・エキスプレス社が1983年に行った自由の女神修復キャンペーン(新規入会および使用に応じて一定額を修復キャンペーンに寄付する)などがそれにあたります。

コーズリレーテッド・マーケティングは、社会的貢献をコーズ(理由)として製品やサービスの販売促進を図るものであり、CSV経営の一種だと言えます。近年注目されている「SDGs」「ESG投資」「パーパス経営」なども、経済的価値と社会的価値の両立を目指すものであり、CSV経営の考え方がますます重要になっています。

社会課題の解決のキーになる、CSVの考え

非営利組織や行政などの非営利セクターも同様です。非営利セクターは、社会課題の解決を主目的に事業を行っていますが、それが上手く行かない理由として、持続可能でないこと、つまり成果に対してコストが見合わないことがあげられます。

ここで役に立つのがビジネスで培われたノウハウです。ビジネスで培われた経済的価値創出のノウハウを非営利セクターに適用することで、社会課題解決の持続可能性を高めることができます。非営利セクターも、企業(営利セクター)と同様、CSV経営の考え方が重要となっているのです。

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CSV経営研究プログラムの果たす役割

以上の認識のもと誕生したのが、CSV経営研究プログラムです。大阪公立大学経営学研究科は、明治時代に開設された大阪商業講習所や大阪商科大学の伝統を引き継ぎ、経済界や地域で活躍する有為な人材を数多く輩出してきました。そして、このビジネス教育で培われたノウハウを社会課題解決に活かすため、2018年に公共経営学科を学部に新設しました。CSV経営研究プログラムは、これをさらに進化させ、営利・非営利を問わず、経済的価値と社会的価値の両立を目指す人材を育成する大学院修士課程プログラムです。

 CSV経営が目指す経済的価値と社会的価値の両立は決して簡単ではありません。なぜなら、従来の企業や非営利セクターでは解決できない課題がそこにあるからです。その解決には、より良い社会を自らの力で創り出そうとする強い思いと、それを実現するための新たな方法を考え実現するための「経営革新力」が必要です。本プログラムは、志の高い人の経営革新力を高めることで、現状を打破し、より良い社会を創り出すソーシャルイノベーターの育成を目指しています。

CSV経営研究プログラムを目指す方へ

イノベーションを起こすには、異分野の考え方を理解する必要があります。実務と研究も異分野のひとつ。両方を知ることで皆さんの思考が広がり、課題解決のためのイノベーションが生まれます。研究もひとつではありません。総合知を表明する大阪公立大学には多種多様な研究分野があります。その中には皆さんの課題解決につながる研究がきっとあります。本プログラムを新しいつながりを生み出す「場」として大いに活用してください。