OB医師の体験談

OB医師の体験談

  • 小林正宜先生(葛西医院 院長)

    自分が磨かれた最高の 「ふるさと」

    葛西医院 院長  小林正宜
    出身大学:帝京大学
    卒業年:2009年

    私は2018年3月に父の診療所を継ぐために大阪市立大学医学部附属病院総合診療科(市大総診)を退職し、現在大阪市生野区にある葛西医院(かっさいいいん)という診療所の院長をしております。市大総診とのつながりは2009年に帝京大学を卒業し、同年から大阪市大病院の研修医として研修を開始したときから始まります。その頃の私は総合診療の「そ」の字も知らずに過ごしておりましたが、研修カリキュラムから市大総診に3ヶ月間配属されることになりました。まだまだひよっこの1年目研修医で、右往左往しながら研修していましたが、研修医が主体的に関われるような様々な研修の工夫のお蔭で、総合診療とは何かということを体感しました。
    研修中に将来を左右する出来事があり、将来は父の診療所を継いで地域医療に貢献したいと思うようになり、研修医2年目でも4ヶ月の総合診療研修を選択しました。卒後3年目に自分の専門診療科をどこにするかは悩みに悩みましたが、 ①研修医にも主体的な診療参加を重んじてくれる市大総診の姿勢、②多種多様の症状や多岐にわたる疾患の診療、③なんでも相談できる親しみやすい諸先輩方の存在、そして ④将来希望する道を応援してくれる環境、この4つが決め手となり市大総診の門を叩きました。
    入局してすぐに大学院にも進み、臨床と研究でめまぐるしい日々を過ごしていました 。研究をやりながら臨床もしっかりやらせてもらえたのは、市大総診の懐の深さだったと今になって感じますが、当時はそう思う余裕もなく、がむしゃらに目の前のやるべきことに取り組んでいました。研究結果をバルセロナで開催されたEuropean Society of Cardiologyで発表させて頂いたり、所作を含めて研究にまつわる多くのことを学ぶ機会に出会ったりしながら、医学博士という称号も頂くことができました。一方で臨床でも多種多様な症例に巡り合うことができ、一例一例をとことんまで取り組ませて頂いたお蔭で、臨床力もしっかり身につけることができ、家庭医療専門医、総合内科専門医という専門医も取得できました。病気だけでなく、人を診るという全人的医療を目指した市大総診の理念も自分に染み込んでいます。
    臨床力が身につく大きなポイントは、大学病院にも関わらず入局してすぐに自分の外来枠を持つことができ、自分の外来で診た患者さんの入院精査加療を自分で行い、退院後も自分の外来でフォローできるという 「主治医として最初から最後まで診ることができる」ことだと思います。また、地域医療に進みたいという自分の希望もあり、 家庭医として研鑽するための診療所外来も並行して7年間行いました。そして急変時対応にも強くなりたかったので、それらに並行して救急外来にも長年従事させて頂くことができ、気づけばどっぷり「総合診療医」としてのキャリアを進んでいました。
    市大総診のさらなる特色は 医学教育への取り組みだと思います。「総合医学教育学教室」としての側面も持っていることもあり、学生教育(医学部・看護学部)、研修医教育などに取り組む機会が非常に多くあります。私は元々教育が苦手で、人前で話すことも苦手でしたが、様々な経験を積ませて頂いたお蔭で、教育の多面的な重要性を理解することができ、人前で話すことも得意になり、それがまた臨床でのコミュニケーション力の向上に繋がっています。現在でも大阪市大医学部の講義をさせて頂いたり、自分の診療所で医学生や研修医を受け入れたり、教育に携わる場面を多く持つことができています。
    市大総診時代を振り返ると、入局してから経験した全ての出来事は無駄なことが何一つなく、現在の仕事につながっていると心から感謝しており、自分の選択は間違っていなかったと自信を持って言うことができます。私にとって市大総診は居心地の良い「ふるさと」のような存在で、退職後もしょっちゅう顔を出しています。市大総診の魅力を語り出すと終わりがありませんが、入局を考えている若手の医師がいらっしゃいましたら是非医局説明会などで直接たくさんの魅力をお伝えしたいと思っています。是非「市大総診」で素晴らしいキャリアを歩んでください!

    2021/7/29 葛西医院 院長 小林正宜

  • 衣畑 成紀先生(阪神野田駅前ファミリークリニック 院長)

    素地はここでつくられた

    阪神野田駅前ファミリークリニック
    院長  衣畑 成紀
    出身大学:大阪医科大学
    卒業年:2004年

    私は2019年3月に大阪市立大学医学部附属病院(市大総診)を退職し、地域医療に従事すべく同年6月に大阪市福島区で『阪神野田駅前ファミリークリニック』を開業しました。総合診療・内科・皮膚科・アレルギー科・在宅医療を行っており、研修医の受け入れもしております。

    もともと私は、子供の頃からひどいアトピー性皮膚炎に悩まされていましたが、どこの病院に行ってもよくならないため、それなら、自分で自分を治そうと中学生の時に皮膚科医を志しました。大阪医科大学(現大阪医科薬科大学)医学部を卒業し、国家試験も受かり、いざ皮膚科に入局しようと思っていましたが、入局するまで2年の研修期間で色々な科を回ることになった(スーパーローテート)初代の学年でした。市大病院で先に研修をしていた同級生から「市大総診、色々経験できるからいいよ」との情報を聞き、私も経験をたくさん積んでおきたかったので、研修2年目の最後に市大総診に研修先を変更しました。
    ここの研修では、毎日訴えの違う患者さんが受診され、その都度、調べて知識と経験を増やすことができ、単純作業が嫌で飽き性の自分には心地よく、満足した研修になったのを覚えています。その時に、家族・友人・知人はもとより、色々な人の病気や悩みに耳を傾け、断らずに何でも診られる、自分が診られなければ良い先生につなげることができる医者になることが、自分が求めていた医者像だと確信し、皮膚科医ではなく、総合診療医として歩みはじめました。
    市大総診に入局を決めた私は、一旦ブラジルに渡りましたが、帰国後、市大総診に籍を置きながら、大阪市立総合医療センターの総合診療科、市大総診や各科で研修、福知山市民病院の総合内科、東住吉森本病院の救急外来、菜の花診療所での在宅医療などで総合診療・家庭医療や救急医療を学び、知識・経験・自信をつけ、総合内科専門医・家庭医療専門医も取得しました。
    大学院は、コホートの臨床研究がしたかったため、大阪市立大学大学院の産業医学分野に進み、総合診療の業務をしながら、睡眠と脂質異常症のコホート研究などを行いました。

    入局してよかったこと

    • アットホームで意見を出しやすい雰囲気の医局
      意外と大事です。常にピリピリして、下のものの意見が出にくい、通らない医局は、居心地が悪くてつづけられません。
    • プライマリから稀な疾患まで、幅広い疾患が経験できる
      最低限、自分がしないといけない対応がわかってくるため、怖いとおもう病気がなくなります。外来診療・訪問診療・救急医療が負担なくこなせます。たまに他の先生がわからなかった疾患に診断をつけ治療し、患者さんに感謝されると、俄然やる気がでます。
    • 発表・質問・教えることが自然にできるようになる
      学会発表はもちろん、地域の勉強会や研修会を頼まれても苦にならなくなり、逆に自分の身になると思えるようになります。「質問するために発表を聞く」ことが癖づき、自己成長できます。教え方がわからない医師がいる中、教え方に慣れるため、後進の指導も積極的にできるようになります。
    • 研究ができるようになる
      論文の読み方を習得し、研究の落とし穴が判断できる(批判的吟味)ようになります。MRさんの薬の売り込みも同様です。大学院はどこへ進むかは自由です。大学院に行っていない医師から「大学院なんか行かなくてもよい」と囁かれることがあるかもしれませんが、行った経験のある医師からの意見に耳を傾けることをお勧めします。
    • 診療や教育で、他科の医師との連携が多い
      他科に入局した医師以上に横のつながりができ、わからないこともスペシャリストに相談しやすくなります。医局を離れてもその交友関係は不滅です。

    これから入局を考えている先生へ メッセージ

    • 総合診療は、横の専門
      総合診療は、臓器別診療科のような縦の専門ではなく、幅広く診られるという横の専門です。何でも診られる、診ようとする、診られないときにうまく紹介する能力も大事な専門性です。いくつもの科をまわらないといけない患者さんは、時間もお金も労力も大変なことがあります。
    • ライバルは昨日の自分
      私の座右の銘です。常に能動的に勉強する意欲を持ってください。総合診療は、テリトリーが広いため大変な時もありますが、知識や経験の引き出しが増えて、家族・友人や患者さんに還元できると喜ばれますし、嬉しいものですよ。
    • 進路に迷ったら総合診療へ
      総合診療をやっていれば、どこへでも転科はできますが、特にマイナー科に入ってから内科への転科はしんどいことがあります。やりたいことがあって、そこへ最短ルートで行くのもいいと思いますが、やりたいことを見つける旅にでるのも悪くないと思います。そこで、色々な考えの人や尊敬する人に出会い、刺激をうけ、自分の方向性が急に変わることがあります。私は井の中の蛙より、大海を知っている蛙のほうが好きです。
    • 病気ではなく、病人を診る
      臓器や病気、検査値だけを良くしようとする医師もいますが、その人の心情や社会的な問題にも目をむけられるような医師になり、それをまた後進に伝えていってもらえたら、世の中ちょっぴりハッピーになると思います。医療は人と人との関係の上でできています。AIやロボットにはない、『温かみ』も大切にした診療をお願いします。