発表者

大阪公立大学大学院獣医学研究科 田中 利幸准教授、富張 瑞樹教授、長谷川 貴史教授、大阪府立大学生命環境科学域獣医学類 岩崎 喜子氏(学士課程6年)

概要

本研究グループは、イヌ肝細胞癌(イヌHCC)およびイヌ肝細胞腺腫(イヌHCA)において、ヒトではがん細胞の増殖や周囲の組織への広がりに関与すると考えられているタンパク質であるSLPIの発現量と、CT造影効果※1や病変数、再発・転移との関連を解析しました。

その結果、SLPIの発現量が低い症例ほど肝臓内に複数の病変を有する傾向が確認され、SLPIの発現量が肝臓内多発病変の存在を予測する新たな指標となる可能性が示されました。一方で、CT検査でみられる腫瘍の造影効果との関連は認められませんでした。

本研究成果は、2026年10月2日に国際学術誌「BMC Veterinary Research」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. 外科手術により摘出したイヌHCC(9例)およびイヌHCA(4例)について、SLPIの発現量とCT造影効果、病変数、再発・転移との関連を解析。
  2. イヌHCCでは、SLPIの発現低下が肝臓内病変多発と関連している可能性が示された。
  3. SLPIの発現量がイヌHCCにおける多発病変の存在を予測する新たな指標となる可能性を示唆。
図:イヌ肝細胞癌における多発病変(左)および単一病変(右)の代表的なCT画像

図:イヌ肝細胞癌における多発病変(左)および単一病変(右)の代表的なCT画像

研究者コメント


研究の背景

本研究グループはこれまでに、RNA-seq解析※2により、動脈相CT検査で強い造影効果を示すイヌHCCにおいて、SLPI mRNAが顕著な発現上昇を示すことを報告してきました。一方、ヒトHCCではSLPIの発現低下が予後不良と関連することが報告されていますが、イヌHCCにおいてSLPI発現量がどのような影響を及ぼしているかは、十分に明らかになっていません。

また、イヌHCAは肝細胞由来の良性腫瘍であり、イヌHCCと同様に動脈相CT検査で強い造影効果を示します。そこで本研究ではSLPI発現量が良性・悪性を問わず造影効果に影響を及ぼすのか、あるいは病変数や予後との関連があるのかを明らかにすることを目的としました。

研究内容

本研究では、外科手術により摘出したイヌHCC(9例)と、イヌHCA(4例)および腫瘍辺縁部正常組織を用いてSLPI発現量をmRNAとタンパク質レベルで評価しました。イヌHCCは、動脈相CT検査所見から造影効果を示す症例(3例)と、造影効果を示さない症例(6例)に分類しました。また、イヌHCCおよびイヌHCAはCT画像所見から病変数について評価するとともに、カルテ情報から再発・転移の有無について調査しました。

その結果、造影効果を示さないイヌHCCのうち2例、イヌHCAのうち2例で、SLPIのmRNA発現量とタンパク質発現量との間に不一致が認められました。

さらに、SLPI mRNAの発現量は、造影効果を示すイヌHCC、造影効果を示さないイヌHCC、およびHCAの3群間で有意に異なっていることが示されました。一方、SLPIタンパク質発現比は、3群間で有意差は認められませんでした。これらの結果より、SLPIのタンパク質発現量はイヌHCCおよびイヌHCAにおけるCT造影効果には影響を及ぼさない可能性が示されました。

また、CT画像上で摘出腫瘤以外にも病変が認められた症例は、イヌHCCで5例、イヌHCAで1例であり、イヌHCCでは、SLPI発現比が低い症例において、多発病変が有意に多く認められました。イヌHCAでは、SLPI発現比が低い症例においては有意差が見られなかったものの、多発病変が多い傾向が認められました。一方で、イヌHCCおよびイヌHCAのいずれにおいても、SLPI発現量と再発・転移との間に有意な関連は認められませんでした。

本研究により、イヌHCCでは、SLPI発現低下が肝臓内病変多発と関連している可能性が示されました。

期待される効果・今後の展開

本研究により、SLPIが肝臓内における多発病変の形成を抑制している可能性が示されました。このことから、SLPI発現量の評価により、多発肝病変の存在を予測できる可能性が示唆されました。一方で、本研究には、症例数が少ないことに加え、手術で摘出した組織以外の多発病変の確定診断がなされていないこと、多発病変中の個々の病変のSLPI発現量を評価していないことなど、さらに検討すべき課題があります。今後はこれらの課題を解決しながら、研究を進めていく予定です。

資金情報


用語解説

※1 CT造影効果:造影剤を用いたCT検査で、組織や腫瘍がどの程度明るく写るかを示す所見。

※2 RNA-seq解析:次世代シーケンサーを使用してRNAを読み取り、その配列情報を網羅的に解析する技術。この解析によって、どの遺伝子がどの程度活性化されているのかを把握できる。

掲載誌情報

【発表雑誌】BMC Veterinary Research
【論文名】Association between decreased secretory leukocyte protease inhibitors expression and multifocal lesions
【著者】Haruko Iwasaki, Toshiyuki Tanaka*, Mizuki Tomihari, Takashi Hasegawa
【掲載URL】https://doi.org/10.1186/s12917-026-05981-z

お問い合わせ

【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院獣医学研究科
准教授 田中 利幸(たなか としゆき)
TEL:072-463-545
Eメール:t-tanaka[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

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