発表者
大阪公立大学大学院医学研究科 人工知能学/イノベーションアカデミー共創研究院 植田 大樹教授、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンター 佐藤 淳哉博士研究員
概要
生成AIの一種である大規模言語モデル(LLM)※1の利用は医療現場でも広がっており、薬の選択を支援するツールとしても期待されています。しかし、LLMが推奨する薬に偏りがあるかどうかは、これまで十分に検証されていませんでした。
本研究グループは、5種類のLLMによる約88万件の薬剤推奨の回答を分析しました。その結果、疾患と有効成分※2の組み合わせごとに複数の製品があるにもかかわらず、第1候補として推奨される製品は、平均97.5%のケースで特定の1製品が選ばれていました。また、先発医薬品※3と後発医薬品※4では、先発医薬品が優先される傾向があり、推奨に従った場合には薬剤費が増加する可能性も示されました。本研究結果は、生成AIの医療利用が広がるなか、薬剤推奨の偏りや医療費への影響について、社会に注意を促し、理解を深めることに貢献します。
本研究成果は、2026年10月26日に国際学術誌「Nature Health」にオンライン掲載される予定です。
ポイント
- 5種類のLLM(GPT-5.4、Claude Sonnet 4.6、Gemini 3.1 Flash、Llama 4、MedGemma)による約88万件の薬剤推奨を分析。
- 疾患と有効成分の組み合わせごとに複数の製品があるにもかかわらず、第1候補として推奨される製品は著しく偏っており、平均97.5%のケースで特定の1製品に集中。
- 先発医薬品と後発医薬品では、先発医薬品が優先される傾向があり、LLMの推奨に従った場合には薬剤費が著しく増加する可能性を示唆。

研究者コメント
AIが多くの候補から薬を選んでいるように見えても、同じ製品ばかりを勧める場合があります。医療でAIを活用するには、回答の正確さに加え、AIの回答が偏っていないかにも目を向ける必要があります。患者さんにとって適切な選択を支えるAIの評価と改善につなげたいと考えています。
研究の背景
生成AIの一種である大規模言語モデル(LLM)は、医療従事者の業務支援や、一般の方が健康情報を調べる場面での活用が進んでいます。薬を選ぶ際の支援も期待されていますが、AIによる製品の推奨に偏りがあると、患者に示される選択肢や費用に影響する可能性があります。
また、同じ有効成分を含む薬でも、先発医薬品や後発医薬品など複数の製品があります。これまでの医療AI研究では、人種や性別による回答の偏りが主に調べられてきました。しかし、特定の製品名に推奨が集中するか、実際の処方や費用とどのような違いが生じるかは、十分に検証されていませんでした。
研究内容
本研究では、疾患と有効成分の123通りの組み合わせに、年齢、性別、人種・民族、性的指向・性自認、所得の記載を変えた1,440通りの患者背景を組み合わせ、177,120件の仮想症例を作成しました。そして、5種類のLLM(GPT-5.4、Claude Sonnet 4.6、Gemini 3.1 Flash、Llama 4、MedGemma)に、米国食品医薬品局(FDA)が承認した製品名を最大3つ挙げるよう求め、薬の推奨を含む計883,403件の回答を得て、医師が製品名を整理・確認しました。推奨結果を分析したところ、次のことが明らかになりました。
・特定の製品への集中
各モデルで、疾患と有効成分の組み合わせごとに最も多く第1候補となった製品を調べると、その製品が第1候補に占める割合は平均97.5%でした。承認された候補は1組み合わせ当たり平均5.5製品ありましたが、推奨はごく一部に集中していました。異なるモデル間でも、最多となる製品は高い割合で一致していました。
・実際の処方や費用との違い
推奨される製品の分布は、実際の処方調査データと大きく異なりました。処方量と薬局の平均仕入れ価格を用い、選ばれる製品の割合をLLMの推奨に置き換えて試算すると、分析できた51有効成分のうち38成分(74.5%)で費用が増加しました。対象全体の増加額は年間約5,560万米ドル(1,019%増)と推計されました。これは用量などの仮定に基づく仕入れ費用の試算であり、実際の医療費や患者負担の増加を示したものではありません。
・推奨されやすい製品の特徴
先発医薬品、Googleでの検索件数が多い製品、Wikipediaに専用ページがある製品は、推奨されやすい傾向がありました。
・指示文による変化と確認の必要性
安価な製品や後発医薬品を優先する指示を加えると、一部の製品への集中は残りましたが、最も多く第1候補となる推奨製品は指示に沿う方向に変化しました。
期待される効果・今後の展開
本研究は、医療AIを評価する際に、薬の選択肢が特定の製品に偏っていないか、費用や承認情報を適切に扱えているかという視点の必要性を示しています。信頼できる医薬品情報との照合や医療者による確認を組み合わせることが、適切な製品選択を支えるAIの開発につながると期待されます。今後この研究を発展させ、AIの医療現場での振る舞いを多角的に定量化し、医療現場での公平な導入につなげます。
資金情報
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR2521)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 大規模言語モデル(LLM):大量の文章から言葉の関係や使い方を学習し、質問への回答や文章を生成するAIモデルのこと。
※2 有効成分:薬の作用をもたらす成分のこと。有効成分が同じでも、製品名、製造会社、剤形や価格などが異なる場合がある。
※3 先発医薬品:新しい有効成分などを開発して最初に承認された薬のこと。
※4 後発医薬品:ジェネリック医薬品ともいう。先発医薬品と同じ有効成分を含み、同等の基準を満たして承認される薬のこと。
掲載誌情報
【発表雑誌】Nature Health
【論文名】Large language models show product name convergence in drug recommendations
【著者】Junya Sato, Shannon Walston, Hirotaka Takita, Yasuhito Mitsuyama, Kenichi Saito, Jia Wu, Daiju Ueda(責任著者)
【掲載URL】https://doi.org/10.1038/s44360-026-00205-y(新しいタブで開きます)
お問い合わせ
【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院医学研究科 人工知能学
教授 植田 大樹(うえだ だいじゅ)
TEL:06-6645-3771
Eメール:ai.labo.ocu[at]gmail.com
※[at]を@に変更してください。
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