発表者

大阪公立大学大学院生活科学研究科 都市科学研究室 坪田 大志氏(研究当時:生活科学部学士課程4年)、加登 遼准教授、日本システム技術株式会社 医療ビッグデータ事業本部 未来共創Lab 荒井 健太副主任、山田 雄矢副主任

概要

日本全国で、「ファースト・ラストマイル※1」の移動課題が都市問題となっています。大阪市生野区・平野区では、2021年3月からOsaka Metro Groupのオンデマンドバス※2の社会実験(現在も継続運行)が実施されていました。

交通サービスの便益は、乗車人数や運行コストといった交通分野の指標だけでは捉えきれません。移動の改善は医療・健康など他分野にも波及しうるため(クロスセクター効果※3)、分野を越えた便益の把握が政策判断に欠かせません。

本研究グループは、メディカルビッグデータを用いて、オンデマンドバス導入が医療費に与える影響を分析しました。その結果、オンデマンドバス導入地域では、導入されていなかった場合の推定値(反実仮想※4)と比較して、導入後3年間の一人あたりの累計医療費が約55,700円低く推移する傾向が示されました。

本研究成果は、2026年9月15日に国際学術誌「Transportation Research Interdisciplinary Perspectives」にオンライン掲載されました。

図1:オンデマンドバス

図1:オンデマンドバス

ポイント

  1. 大阪市生野区・平野区のオンデマンドバス社会実験を自然実験※5として捉え、市内22区の一人あたり月間医療費(2017年4月~2024年3月)を合成コントロール法※6で分析した。
  2. 導入後3年間の一人あたりの累積医療費は、導入されていなかった場合の医療費(反実仮想)より約55,700円低い傾向が推計された。

研究者コメント

総合知を結集した都市シンクタンク機能を担う本学は、証拠に基づく政策立案(EBPM)の観点から、まちづくりに対する社会的インパクト評価手法の開発を進めています。本研究は、医療費支出という観点から、まちづくりの社会的インパクトを評価することを可能にした、重要な成果です。

研究の背景

高齢化が進む都市部では、自宅から駅やバス停までの「ファースト・ラストマイル」の移動が課題となっており、その解決策としてオンデマンドバスが注目されています。交通施策の評価は乗車人数や採算といった交通分野の指標にとどまりがちですが、移動環境の変化は住民の受診行動や健康状態を通じて、ヘルスケア・医療分野にも波及しうるものです。本研究グループの先行研究では、JR総持寺駅やJRおおさか東線の新駅開業が、一人当たり医療費の抑制と関連する可能性を報告してきました。さらに、予約に応じて経路を柔軟に変えるオンデマンドバスは、ファースト・ラストマイルの移動を支える手段となる可能性も報告してきました。オンデマンドバスの継続可否を判断するには、鉄道と同様に、交通分野を越えて、ヘルスケア分野に及ぶクロスセクター効果を把握する必要があります。

大阪市生野区・平野区は、高齢化率が高く、ファースト・ラストマイルの移動課題が顕著なエリアです。Osaka Metro Groupは2021年3月30日から両区の一部でオンデマンドバスの社会実験を開始しました。年間の延べ乗車人数は、約5.6万人(2021年度)から約16.4万人(2023年度)へ約3倍に増えています。

研究内容

本研究では、Osaka Metro Groupが2021~2023年度に実施した社会実験を自然実験として捉え、導入区(生野区・平野区)と、分析期間中にオンデマンドバスが運行されなかった大阪市内20区を比較しました。分析には、日本システム技術株式会社が保有する匿名化されたレセプトデータ(メディカルビッグデータREZULT)から、各区の医療機関で受診した一人あたりの月間医療費を用いました。合成コントロール法により、人口構成などが導入区と近くなるよう非導入区を重み付けして合成し、「導入されていなかった場合」の医療費(反実仮想)を推計して、実際の医療費との差分を求めました。

分析の結果、導入後3年間(2021年4月~2024年3月)の累積で、導入された生野区・平野区の一人当たり医療費は反実仮想より約55,704円低く推移する傾向が推計されました。比較対象として用いた非導入区を1区ずつ除いた再推計でも同様の傾向が確認され、結果の一貫性が示されました。この結果は、オンデマンドバスの運行が、一人当たり医療費の抑制と関連しており、市民の健康増進に寄与していた可能性を示しています。

図2:オンデマンドバス導入区の一人当たり医療費の実測値と反実仮想(上)、累積差分(下)

図2:オンデマンドバス導入区の一人当たり医療費の実測値と反実仮想(上)、累積差分(下)

期待される効果・今後の展開

本研究は、オンデマンドバスの便益を交通分野に留まらず、ヘルスケア分野というクロスセクターの指標で評価した初めての試みです。Osaka Metro Groupのオンデマンドバスは大阪市内全24区へ拡大されており、そのうち20区については、社会実験を経て継続の可否が判断される予定です。本研究で得られた知見がヘルスケア分野に波及する便益を含めた総合知のエビデンスとして活用されることが期待されます。今後は、オンデマンドバスをはじめとするスマートシティ施策が、医療費などにもたらす効果を検証していきます。

資金情報

本研究は、旭硝子財団研究助成(サステイナブルな未来への研究助成:建築・都市分野)、大阪公立大学戦略的研究推進事業(OMU-SRPP2025_YR05)、大阪公立大学共創研究グループ形成支援プログラム、JST共創の場形成支援プログラム(JPMJPF2115)の支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 ファースト・ラストマイル:公共交通機関と目的地を結ぶ移動区間のこと。自宅から駅・バス停までの移動(ファーストマイル)と、駅・バス停から目的地までの移動(ラストマイル)を指す。

※2 オンデマンドバス(デマンド型交通、DRT):利用者の予約に応じて運行経路や時刻を柔軟に変える公共交通。Osaka Metro Groupのオンデマンドバスでは、専用アプリ、電話等で予約して利用できる。

※3 クロスセクター効果:ある分野への施策や投資による効果が、他の分野にも波及して便益をもたらすこと。例えば、公共交通の利便性向上により外出機会が増え、健康状態の改善や医療費の抑制につながる効果などを指す。

※4 反実仮想:ある特定のまちづくりが無かった場合における、まちの変化のこと。本研究では、オンデマンドバスが導入されなかった場合の生野区・平野区の医療費の推移。

※5 自然実験:実験的な介入を研究者がコントロールするのではなく、社会的な状況の変化によって生じる状況を利用して、介入と結果の関係を推定する研究デザイン。

※6 合成コントロール法:介入を受けていない複数の地域を重み付けして組み合わせ、介入前の推移が最もよく一致する「合成された比較対象」を作る統計手法。

掲載誌情報

【発表雑誌】Transportation Research Interdisciplinary Perspectives
【論文名】Impact of demand responsive transportation introduction on healthcare expenditures: A natural experiment in Ikuno and Hirano wards, Osaka City
【著者】Daishi Tsubota, Kenta Arai, Yuya Yamada, Haruka Kato
【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.trip.2026.102253(新しいタブで開きます)

関連情報

鉄道新駅開業が医療費削減に影響-メディカルビッグデータから推計-
https://doi.org/10.1016/j.jth.2024.101808(新しいタブで開きます)

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https://doi.org/10.1016/j.trip.2025.101632(新しいタブで開きます)

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お問い合わせ

【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院生活科学研究科
准教授 加登 遼(かとう はるか)
Eメール:haruka-kato[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

【報道に関する問い合わせ先】
広報課
TEL:06-6967-1834