発表者
大阪公立大学大学院医学研究科消化器内科学 細見 周平准教授
概要
クローン病は原因不明の炎症性腸疾患であり、その診断や治療方針の決定には小腸病変の評価が重要です。
本研究グループでは、適切な小腸病変評価の実現に向け、日本の大規模医療データベースを用いて、クローン病患者における小腸カプセル内視鏡検査※1、バルーン内視鏡検査※2、パテンシーカプセル検査※3の利用実態と安全性を解析しました。
その結果、いずれの検査においても、利用は経年的に増加しており、炎症性腸疾患内視鏡診療ガイドラインに沿った小腸評価が実臨床に広がりつつあることが示されました。また、カプセル内視鏡関連の有害事象※4はまれであることも示されました。本成果は、クローン病における安全で適切な小腸内視鏡診療戦略の構築に貢献する知見となり得ます。
本研究成果は、2026年10月6日に国際学術誌「Intestinal Research」にオンライン掲載されました。

ポイント
- 全国463施設のDPC病院※5から集積されたMedical Data Vision(MDV)の医療レセプトデータベース※6を用いて、クローン病患者19,881人を対象に小腸内視鏡診療の利用実態を解析。
- 小腸カプセル内視鏡検査、バルーン内視鏡検査、パテンシーカプセル検査の利用は、経年的に増加しており、段階的な小腸評価の普及が示された。
- カプセル内視鏡関連の有害事象はまれであり、パテンシーカプセル検査を先行した場合には、さらに低頻度であった。
研究者コメント
クローン病の小腸評価には、患者さんの病状や検査目的に応じた適切な検査選択が重要です。本研究で明らかになった実臨床の動向と安全性データが、より安全で質の高い小腸診療を検討するための土台になることを期待しています。
研究の背景
クローン病は、消化管に慢性的な炎症を起こす炎症性腸疾患です。病変は大腸だけでなく小腸にも生じ、狭窄、瘻孔(ろうこう)、膿瘍などにつながることがあります。そのため、症状だけでなく小腸を直接または画像で評価し、病変の範囲や活動性を把握することが、診断や治療選択に欠かせません。
小腸は、通常の上部消化管内視鏡検査や大腸内視鏡検査では観察することが難しい部位です。そこで、小腸を評価するための検査として、小腸カプセル内視鏡検査やバルーン内視鏡検査が用いられます。小腸カプセル内視鏡検査は、患者がカメラ内蔵カプセルを飲み込み、小腸粘膜を低侵襲に観察することができます。一方でバルーン内視鏡検査は、通常より長い内視鏡を用いて、小腸の深部まで挿入し、詳しい観察、生検、狭窄部の拡張などを行うことができます。
ただし、クローン病により小腸に狭窄があると、カプセルが途中にとどまる「カプセル滞留」が起こる可能性があります。このリスクを見極めるため、事前に体内で一定時間後に溶けるパテンシーカプセルを用いて、小腸を通過可能か確認します。2025年に公表された日本の炎症性腸疾患内視鏡診療ガイドラインでは、画像検査やパテンシーカプセル検査を含め、目的と安全性に応じて検査を段階的に選択する考え方が示されています。しかし、これらの検査方法が日本の臨床現場においてどの程度使用され、安全性がどう推移してきたかを大規模データで調べた研究は限られていました。
研究内容
本研究では、全国463施設のDPC病院から集積されたMedical Data Vision(MDV)の医療レセプトデータベースを用いて、既存の診療データを解析する後ろ向きコホート研究を行いました。2008年4月~2022年6月にクローン病の診断記録があり、クローン病治療薬の処方が確認できた19,881人を対象としました。
その結果、2,306人(計4,657件)にバルーン内視鏡検査が行われ、1,837人(計2,679件)に小腸カプセル内視鏡検査が行われていました。また、両検査ともに利用は経年的に増加し、小腸カプセル内視鏡前のパテンシーカプセル検査も2013~2021年に増加していることが明らかとなりました。特に、小児ではカプセル内視鏡検査が主に使用されていることも確認できました。(図2)

図2:年齢階級別検査施行率の年次推移
さらに、統計学的に有意な差は認められなかったものの、小腸カプセル内視鏡後30日以内の有害事象の割合は、パテンシーカプセル先行群で0.88%(17/1,933件)、非先行群で1.47%(11/746件)と、パテンシーカプセルによる小腸開通性の確認の意義を裏付ける結果が得られました。
期待される効果・今後の展開
本研究では、クローン病に対する小腸内視鏡診療が日本でどのように普及してきたのかを、全国規模のデータで示しました。バルーン内視鏡検査、小腸カプセル内視鏡検査、パテンシーカプセル検査の利用拡大を一体として捉えたことで、現在提案されている段階的な小腸評価が、臨床現場に広がりつつあることを裏付ける基礎資料となります。本研究成果は、今後の診療体制の整備や診療ガイドラインの普及を後押しすることが期待されます。
用語解説
※1 小腸カプセル内視鏡検査:カメラを内蔵したカプセルを飲み込み、消化管を移動する間に撮影された画像から小腸粘膜を観察する検査。
※2 バルーン内視鏡検査:通常より長い内視鏡と、バルーンを装着したオーバーチューブという管を用いて、小腸深部まで挿入する検査。観察や生検に加え、狭窄部の拡張などの治療も行える。
※3 パテンシーカプセル検査:小腸カプセル内視鏡とほぼ同じ大きさの崩壊性模擬カプセルを用い、実際の検査前に小腸を安全に通過できるか確認する検査。
※4 有害事象:検査後に生じた好ましくない医学的事象。本研究では、検査後の一定期間内にレセプト上で確認された特定の治療処置を代理指標として定義した。
※5 DPC病院:主に急性期医療を担う病院で、診断群分類(Diagnosis Procedure Combination: DPC)に基づく包括評価制度を採用している医療機関。
※6 医療レセプトデータベース:医療機関が診療報酬を請求するために作成する情報を集積したデータベース。診断名、処方、検査、処置などを大規模に解析できる。
掲載誌情報
【発表雑誌】Intestinal Research
【論文名】Trends and safety of small bowel endoscopy in Crohn’s disease in Japan: a large-scale claims database analysis
【著者】Shuhei Hosomi, Yu Nishida, Tsuyoshi Yanagida, Koji Fujimoto, Rieko Nakata, Akinari Sawada, Hirotsugu Maruyama, Masaki Ominami, Yuji Nadatani, Shusei Fukunaga, Koji Otani, Yasuhiro Fujiwara
【掲載URL】https://doi.org/10.5217/ir.2026.00149(新しいタブで開きます)
お問い合わせ
【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院医学研究科消化器内科学
准教授 細見 周平(ほそみ しゅうへい)
TEL:06-6645-3811
Eメール:shuhosomi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
【報道に関する問い合わせ先】
広報課
TEL:06-6967-1834