発表者

大阪公立大学大学院工学研究科航空宇宙海洋系専攻 本宮 弘氏(博士後期課程3年)、二瓶 泰範准教授

概要

本研究グループは、アマモが繁茂する浅い水域での利用を想定したプロペラガード※1付き四胴型自動航行船※2を対象に、水槽試験※3、潮流シミュレーション※4、実海域試験を組み合わせて航行性能を評価しました。

その結果、水槽試験で得られた船体・プロペラ性能と潮流シミュレーションを組み合わせることで、実海域における航行速度を予測する手法を構築しました。また、実海域試験との比較により、潮流と航行方向がおおむね一致する条件では、実際の航行速度を良好に予測できることを確認しました。

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図1:四胴型自動航行船

本研究成果は、2026年8月27日に国際学術誌「IEEE Journal of Oceanic Engineering」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. 航行速度推定プログラム(VPP:Velocity Prediction Program※5)と潮流シミュレーションを組み合わせ、航行性能シミュレーションを構築した。
  2. プロペラガードによるアマモの巻き込み防止効果を確認するとともに、航行速度への影響を定量化。
  3. 潮流と航行方向がおおむね一致する条件では、実海域における航行速度を良好に予測できることを確認。

研究者コメント

世界的な人口増加に伴い、食料の安定供給は重要な課題となっています。その中で、水産養殖は将来の食料供給を支える役割を担う一方、海洋環境の変化による影響を受けやすい産業でもあります。こうした変化に対応するためには、海洋環境を継続的かつ詳細に把握することが重要です。私たちは、広い水域を自律的に移動しながら、さまざまな目的に応じた活動を行うための自律航行技術の研究を進めています。

研究の背景

養殖場などの沿岸域では、水温や塩分などの水質が場所や時間によって変化します。そのため、養殖生物を安全に育てるためには広い範囲の水質を継続的に観測することが重要です。これまでは、固定式のブイや人による観測が行われてきましたが、近年では一部の地域で自律航行船が導入されており、広い水域を移動しながら高密度に観測することが可能となっています。

本研究グループでは、四胴型自動航行船を開発し、実海域での水質観測に取り組んでいます。また、アマモが繁茂する浅い水域での運用に向け、アマモがプロペラや軸に絡まることを防ぐプロペラガードを開発しました。一方で、プロペラガードを装着した場合の航行性能については十分に検証されていませんでした。

そこで本研究では、水槽試験から得られた船体・プロペラの特性と潮流シミュレーションを組み合わせて航行速度を推定し、その結果を実海域で得られた航行データと比較することで、自動航行船の実海域における航行性能の推定手法の有効性を検証しました。

研究内容

本研究では、実海域における四胴型自動航行船の航行性能を評価するため、水槽試験、数値シミュレーション、実海域試験を組み合わせて検証を行いました。

まず、水槽試験では実物大の一つの船体と、実物の3分の1サイズの四胴模型を用いて、船体に働く抵抗、プロペラの推力、プロペラ付近の流れ、プロペラガードが航行性能に与える影響などを調べました。その結果、プロペラガードを装着すると船体に働く抵抗が増加し、同じプロペラ回転数では推定される航行速度が約25%低下することが分かりました。一方で、プロペラガードは航行性能を単純に低下させるだけではなく、条件によっては、より大きなプロペラ推力を得られる可能性があることも明らかになりました。

次に、水槽試験で得られたデータを用いて、船体に働く抵抗とプロペラによる推進力のつり合いから、船の速度を求める航行速度推定プログラム(VPP:Velocity Prediction Program)を構築しました。さらに、北海道浜中町にある火散布沼の潮流シミュレーションから得られた流速をこの計算に取り入れ、実際の水域での航行速度を推定しました。

最後に、火散布沼で実施した実海域試験のGPSデータと推定結果を比較したところ、潮流の方向と船の進行方向がおおむね一致し、風の影響が小さい条件では、実際の航行速度を良好に推定できることが確認されました。一方、潮流が船の進行方向に対して横向きに作用する条件では推定精度が低下することも明らかになりました。

これらの結果から、水槽試験で得られた船の性能と潮流情報を組み合わせることで、単純な直進状態においては、四胴型自動航行船の実海域における航行速度を予測できることが示されました。

図2:火散布沼(北海道浜中町)

図2:火散布沼(北海道浜中町)

期待される効果・今後の展開

本研究で構築した方法は、静穏な水域や潮流がおおむね航路方向に沿って流れる水域では、航行時間の事前予測や、航路計画の基礎として利用できる可能性があります。

一方で、本研究で用いた航行性能推定は、主に船が直線的に航行する場合を対象としていますが、実際の水域では、横方向から潮流を受けることで船体が流されたり、進行方向に対して斜めに航行したり、進路を維持するために操舵したりする場合があります。

今後は、水槽試験によるデータをより蓄積するとともに、横方向の運動、旋回、斜め方向への航行、操舵の影響などを取り入れた航行性能推定へ発展させる予定です。また、より高精度な潮流シミュレーションを取り入れることで、実海域における航行時間の推定精度向上を目指します。

これらの研究を進めることで、将来的には潮流によって移動時間が異なることを考慮しながら、多数の地点を効率的に巡回する自動航行船の航路計画への応用が期待されます。

資金情報

本研究は、経済産業省中小企業庁 令和2年度戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)および経済産業省中小企業庁 令和8年度成長型中小企業等研究開発支援事業の支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 プロペラガード:アマモなどがプロペラやプロペラ軸に絡み付くことを防止するため、プロペラ付近に取り付ける保護装置。本研究で対象とした火散布沼ではアマモなどが繁茂しているため、自動航行を継続するために使用されている。

※2 四胴型自動航行船(Quadmaran Autonomous Surface Vehicles):4つの船体で構成された小型の自動航行船。本研究で使用した船では、それぞれの船体の向きを変えることができ、直進、旋回、定点保持などの航行が可能。水質センサーを搭載し、複数地点を移動しながら自動的に水質を測定することを目的として開発された。

※3 水槽試験:船体やプロペラの性能を調べるため、水槽内で模型などを用いて行う実験。本研究では、実物大の単一船体と3分の1スケールの四胴模型を組み合わせて試験を行った。

※4 潮流シミュレーション:潮汐などによって水域内に生じる水の流れる方向や速さを、コンピューター上で計算する方法。本研究では、火散布沼の流れを再現したFVCOM(Finite-Volume Community Ocean Model)による計算結果を、船の航行速度推定に利用した。

※5 航行速度推定プログラム(VPP:Velocity Prediction Program):船体に働く水の抵抗や風による抵抗と、プロペラによって発生する推進力とのつり合いを計算し、船が一定状態で航行するときの速度を推定するプログラム。

掲載誌情報

【発表雑誌】IEEE Journal of Oceanic Engineering
【論文名】Simulation and Sea Trial Analysis of Navigation Performance for a Multihull Vessel in Hichirippu Lagoon
【著者】Hiroshi Hongu, Mingyao Ji, Yutaro Tsurumi, Satoshi Nakada, Hiroshi Sakamoto, Norikazu Masuda, and Yasunori Nihei
【掲載URL】https://doi.org/10.1109/JOE.2026.3711866

お問い合わせ

【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院工学研究科
准教授 二瓶 泰範(にへい やすのり)
TEL:072-254-7446
Eメール:nihei[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

【報道に関する問い合わせ先】
広報課
TEL:06-6967-1834