発表者
大阪公立大学大学院理学研究科 伊藤 蓮氏(博士後期課程3年)、名子 明朗氏(博士後期課程3年)、谷川 昇右氏(博士後期課程3年)
概要
本研究グループは、2025年に「ℤ2n-次数付きリー(超)代数※1」を使い、粒子の衝突や散乱を記述する理論に、新たな対称性が許されることを示しました。この対称性は、従来の素粒子理論では扱えない新しい種類の粒子の可能性を示すものですが、それを実現する具体的な理論はこれまで存在していませんでした。
そこで本研究では、「ℤ22-次数付き超対称性※2」を持つ場の古典論※3をつくりました。素粒子の間に働く力を記述する理論を拡張し、「ℤ22-次数付き超対称性」を持つ粒子の運動や相互作用を具体的な数式で表すことに成功しました。
さらに、理論の安定性を解析した結果、不安定性を引き起こす異常な振る舞いがないことを確認しました。これにより、従来のボース粒子・フェルミ粒子※4という分類では捉えられない、理論上あり得る素粒子の種類を広げられる可能性を示しました。
本研究成果は、2026年9月4日に国際学術誌「Nuclear Physics B」にオンライン掲載されました。
ポイント
- 2025年に提案された新しい対称性を実際の理論として実現し、粒子の運動や相互作用を数式で記述することに成功した。
- 光子などのボース粒子と電子などのフェルミ粒子という従来の二分類では捉えられない、新しい入れ替えルールを持つ粒子を扱う理論を構築した。
- 理論の安定性を左右するエネルギーの性質を解析し、不安定性が生じないことを確認。自然界に存在し得る粒子の種類を広げる手掛かりになる可能性を示した。
研究者コメント
私たちは、対称性を手がかりに、「素粒子には、どのような種類があり得るのでしょうか?」という問いに取り組んでいます。本研究の面白さは、対称性の数学的な可能性から一歩進み、新しい性質を持つ場の動きや相互作用を、具体的な式で表せたことにあります。今後、量子論として成り立つかを確かめる必要がありますが、ボース粒子とフェルミ粒子という従来の分類をどこまで広げられるのか、引き続き探っていきたいと考えています。
研究の背景
物質をつくる基本的な粒子である「素粒子」と、その間に働く力は、「相対論的な場の量子論※5」という枠組みで説明されています。理論をつくる際の道しるべが「対称性」です。例えば、実験の場所や向きを変えても同じ物理法則が成り立つことは、対称性の一つです。
ただし、理論に取り入れられる対称性には、一定の条件のもとで制限があります。1967年のColeman–Mandulaの定理は「リー代数」、1975年のHaag–Łopuszański–Sohniusの定理は、それを広げた「リー超代数」という数学を使い、この制限を調べました。二つの定理は、長年、素粒子の理論づくりの土台となってきました。
1975年の定理から50年後の2025年、本研究グループは、さらに広い数学の枠組みである「ℤ2n-次数付きリー(超)代数」を使い、粒子の衝突や散乱を記述する理論に、新たな対称性が許されることを示しました。この新たな対称性が、場の理論の枠組みの中でどのように実現されるのかは未解明であり、その具体的な理論の構築が課題として残されていました。
研究内容
本研究では、「ℤ22-次数付き超対称性」を持つ場の古典論をつくりました。素粒子の間に働く力を記述する理論であるヤン–ミルズ理論を広げ、粒子に対応する場の運動や、互いに及ぼす影響を表す式を導きました。
通常、素粒子はボース粒子とフェルミ粒子に分けられます。この分類には、粒子を入れ替えたときの性質が関係します。一方、本研究で構築した模型には、こうした従来の二分類では捉えきれない新しい入れ替えのルールを持つ、ℤ22-次数付き粒子に対応する場が含まれています。
しかし、このような新しい粒子を導入すると、理論が不安定になる可能性があります。従来の粒子の分類は、1940年のスピン–統計定理※6によって支えられており、新たな入れ替えルールが場の量子論の基本的な条件と両立するかは重要な課題でした。
そこで本研究では、理論の安定性を左右するエネルギーの性質を詳しく解析しました。運動の式に現れるエネルギーの符号を調べたところ、符号の異常による不安定性がないことを確認しました。これにより、新しいルールを持つ場を、相互作用を持つ安定な古典模型の中で実現できることを示しました。
図:通常の超対称性(左)は、ボース粒子とフェルミ粒子を結び付ける。これを拡張したℤ22-次数付き超対称性(右)は、ボース粒子、二種類のフェルミ粒子(A・B)、エキゾチックボース粒子を結び付ける。エキゾチックボース粒子は、フェルミ粒子との交換ルールが通常のボース粒子とは異なる。両向き矢印は対称性による関係、00・01・10・11は分類ラベルを表す。
期待される効果・今後の展開
今後は、量子的な効果を取り入れる「量子化」を行い、場の量子論の基本的な条件と矛盾が生じないかを調べる予定です。矛盾が生じないことが確認できれば、スピン–統計定理をより広い枠組みへ発展させ、理論上あり得る素粒子の種類を広げられる可能性があります。本研究成果は、新粒子の発見ではなく、「自然界にはどのような粒子が存在し得るのか」を探るための理論的な一歩です。
資金情報
本研究は、科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING、課題番号JPMJSP2139)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 ℤ2n-次数付きリー(超)代数:対称性を記述する数学の枠組みである。リー代数やリー超代数をさらに広げ、0か1の値を取るラベルをn個組み合わせて、要素を分類する。例えばn=2の場合は、00、01、10、11の四つに分ける。このラベルに応じて、計算の順序を入れ替えたときに符号が変わるかどうかを定める。
※2 ℤ22-次数付き超対称性:通常の超対称性は、ボース粒子とフェルミ粒子を結び付ける対称性である。ℤ22-次数付き超対称性は、その仕組みを、二つのラベルによる四つの区分を使って広げたものである。これにより、通常のボース粒子・フェルミ粒子の二分類では捉えきれない交換関係を持つ場を扱う。
※3 場の古典論:場の古典論は、量子的な効果を考慮する前の段階で、場の運動や、場どうしが及ぼし合う影響を記述する理論である。そこから量子的な効果を取り入れた理論を組み立てる手続きを「量子化」という。古典論として成り立つ模型でも、量子化した後に矛盾が生じないかは、別に確かめる必要がある。
※4 ボース粒子・フェルミ粒子:同じ種類の粒子を入れ替えたときの、量子状態の性質による分類である。光の粒子である光子はボース粒子、電子はフェルミ粒子の例である。
※5 相対論的な場の量子論:特殊相対性理論と、ミクロな世界を扱う量子力学を組み合わせた理論である。「場」とは、電場や磁場のように、空間の各点に広がる物理量のことである。場の量子論では、粒子を場の振動や励起として捉え、粒子の運動や、その間に働く力を記述する。
※6 スピン–統計定理:粒子が持つ、回転に関係した性質「スピン」と、同種粒子を入れ替えたときの性質「統計性」を結び付ける定理である。スピンは、粒子が小さな球のように実際に自転していることを意味するものではない。この定理は、因果律を保つことやエネルギーに関する条件などのもとで、スピンが0、1、2などの整数ならボース粒子、1/2、3/2などの半整数ならフェルミ粒子になることを示す。
掲載誌情報
【発表雑誌】Nuclear Physics B
【論文名】On generalized statistics and stability in ℤ22-graded classical supersymmetric Yang–Mills theory
【著者】Ren Ito, Akio Nago, Shou Tanigawa
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.nuclphysb.2026.117654
お問い合わせ
【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院理学研究科
教授 会沢 成彦(あいざわ なるひこ)
TEL:06-6605-2649
Eメール:aizawa[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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