発表者
大阪公立大学大学院生活科学研究科都市科学研究室 加登 遼准教授
概要
高齢化に伴う医療費の増加が社会問題となる中、中高年者のウォーキングなど身体活動の促進は、健康寿命の延伸と医療費抑制の両面から重視されています。しかし、従来の研究では、「歩数が増えるにつれて医療費がどのように変化するのか」という関係の“かたち”は、十分に明らかになっていませんでした。
本研究では、大阪府の健康アプリ「アスマイル※1」の歩数データと、国民健康保険・後期高齢者医療制度の医療費データを連結した40歳以上の大阪府民20,950人を対象に、一般化加法モデル(GAM)※2を用いて、年齢と1日の歩数別に、その後6カ月間の総医療費※3を推計しました。
その結果、推計された半年間の医療費は、「歩数が多いほど一律に低い」という直線的な関係ではなく、1日約2,500歩で最も高く、そこから歩数が多いほど低くなり、約11,000歩前後から横ばいになる“かたち”であることを明らかにしました。また、歩数・年齢・過去の医療費などから推計するモデルの精度は、高齢層(41.8%)が中年層(22.7%)を上回りました。
本研究成果は、2026年8月3日に国際学術誌「SSM - Population Health」にオンライン掲載されました。
ポイント
- 大阪府の健康アプリ「アスマイル」の歩数データと医療費データを連結した約2万人の大規模データを用い、統計モデル(GAM)で、年齢と1日の歩数別に、その後半年間の医療費を推計した。
- 推計された半年間の医療費は、1日約2,500歩で最も高く(約27,000円)、歩数が多いほど低くなり、約11,000歩(17,170円)前後からは横ばいだった。
- 歩数・年齢・過去の医療費などから、その後の医療費を推計するモデルの精度は、高齢層(65歳以上、41.8%)が、中年層(40~64歳、22.7%)を大きく上回った。
研究者コメント
総合知を結集した都市シンクタンク機能を担う本学は、証拠に基づく政策立案(EBPM)の観点から、まちづくりに対する社会的インパクト評価手法の開発を進めています。本研究で得られた、年齢と歩数別の総医療費の推計曲線は、歩きたくなるまちづくり(ウォーカビリティ)を医療費の観点から探索的に試算する、社会的インパクト評価の土台となる重要な成果です。
研究の背景
日本の国民医療費は48兆円を超え、増加傾向が続いています。医療費が急増する中高年期の身体活動促進は、健康寿命と医療費の両面で重要な政策課題です。しかし、歩数と医療費がどのような“かたち”で関係しているのかは、十分に明らかになっていませんでした。そこで本研究では、スマートフォンアプリによって大規模に蓄積される歩数データを医療費データと連結することで、年齢と歩数別に、半年間の総医療費を推計し、この“かたち”を描き出せると考え、解析を行いました。
研究内容
本研究は、健康アプリ「アスマイル」の歩数と、国民健康保険・後期高齢者医療制度の医療費を個人が特定できない形で連結し、2020~2023年にアプリを継続利用した40歳以上の大阪府民20,950人(延べ338,706件の月次データ)を分析しました。一般化加法モデル(GAM)を用いて、年齢、性別、BMI、健診受診、過去半年の医療費、コロナ禍の緊急事態宣言期間の影響を調整して、各月の平均歩数別に、その後半年間の総医療費を推計しました。
推計の結果、歩数と医療費の関係は直線ではありませんでした。半年間の医療費は1日約2,500歩で最も高く(約27,000円)、歩数が多いほど低くなりますが、その差は歩数の少ない範囲ほど大きく、約11,000歩(17,170円)前後からは横ばいでした。年齢と歩数から推計した総医療費を立体的に可視化したところ、高齢かつ歩数の少ない領域で医療費が突出し、歩数が多いほど急激に低く、約11,000歩付近で平坦となることが示されました(図)。一方、中年層の面は全体に低く平坦でした。年齢層別に推計しても、この“かたち”は両世代で共通していました(最も低くなる歩数は中年層11,317歩、高齢層10,612歩)。また、総医療費を推計するモデルの精度は、高齢層(41.8%)が中年層(22.7%)を大きく上回りました。
図:年齢と1日の歩数(月平均)別に推計した、その後6カ月間の医療費。
期待される効果・今後の展開
本研究が示した年齢と歩数別の医療費の推計曲線は、身体活動促進策を医療費の観点から探索的に評価する手がかりとなります。本研究では、この推計値を誰でも利用できるよう、ウェブツール「Steps and Healthcare Expenditure Estimator」を開発し、公開しました。今後は、歩数の変化を本研究の推計曲線に当てはめることで、まちづくり施策と医療費との関係性を探索的に試算する社会的インパクト評価へと発展させることを目指します。
■Steps and Healthcare Expenditure Estimator
https://harukakato-omu.github.io/steps-healthcare-cost-gam/(新しいタブで開きます)
対象:40~74歳。ただし、本研究の推計は、歩数を増やした場合の効果を示すものではありません。
資金情報
本研究は、公益財団法人大林財団研究助成、公益財団法人日立財団、大阪公立大学共創研究グループ形成支援プログラム、JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)(JPMJPF2115)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 アスマイル:大阪府が提供する公式の健康づくりアプリ。スマートフォンのセンサーやウェアラブル機器から歩数などの健康行動を自動記録する。本研究は、大阪府健康づくり支援プラットフォーム整備等事業により、個人を特定できない形でデータの二次利用を行った。
※2 一般化加法モデル(GAM):説明変数と結果との関係を、直線ではなく滑らかな曲線として柔軟に推定する統計手法。「歩数が増えるほど医療費が一定の割合で減る」といった仮定を置かずに、関係の“かたち”をデータから描き出すことができる。
※3 総医療費:本研究の医療費は、保険者負担分と自己負担分を合わせた10割相当の医療費で、入院・外来・歯科・調剤を含む。
掲載誌情報
【発表雑誌】SSM - Population Health
【論文名】Non-linear association between mHealth-measured daily steps and subsequent healthcare expenditures among long-term app users in Osaka, Japan
【著者】Haruka Kato
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.ssmph.2026.101958(新しいタブで開きます)
関連情報
~ヘルスケアアプリでヘルシーニュータウンへ~
歩いて貯めたポイントで電車に乗れる新機能はユーザーの歩数を増加
https://doi.org/10.1016/j.jth.2025.102126(新しいタブで開きます)
お問い合わせ
【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院生活科学研究科
准教授 加登 遼(かとう はるか)
Eメール:haruka-kato@omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
【報道に関する問い合わせ先】
広報課
TEL:06-6967-1834