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電波望遠鏡とは

 望遠鏡は、宇宙からの電波を受け取って計算処理することで、宇宙の情報を明らかにする望遠鏡です。観測天文学では、遠くの暗い天体を観測するために、大きな望遠鏡が必要となります。また望遠鏡の分解能は、望遠鏡の口径に比例し、観測波長に反比例します。電波は可視光に比べて波長が長いために分解能が低く、電波望遠鏡の口径は光学望遠鏡の数倍から数十倍も巨大なものが必要となります。しかし、アンテナが大きくなればなるほど、その重量に耐えうる構造が求められるのはもちろん、狙った方向にアンテナを動かすことが困難になるなど、技術面・コスト面の問題から際限なく大きくできるわけでもありません。全方向可動式電波望遠鏡で最大のものは口径100mで、ドイツとアメリカにあります。鏡面が地上に固定されている形で最大のものは、自然のくぼ地を利用した直径500mFAST望遠鏡(中国)です。(図1)。

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図1 FAST望遠鏡
出典 中国科学院国家天文台 中国科学院国家天文台

電波望遠鏡は信号を波のまま観測できるため、干渉計というタイプの電波望遠鏡を作ることができます。これは複数のアンテナで検出した信号間の干渉を利用することで、一台の電波望遠鏡を構成する技術です。これにより、単一の電波望遠鏡では不可能な高い解像度や大集光力を実現することができます。また干渉計は、さらにアンテナを足していくことで、より良い望遠鏡に改善することも可能です。

SKA (Square Kilometre Array)計画

SKAの正式名称は「スクエア・キロメートル・アレイ(Square Kilometre Array)」で、最終的に1㎢の集光面積を持つ、世界最大の電波望遠鏡を建設する国際大型計画です。SKA計画は2030年までに世界16カ国が2,000億円以上を出資し、世界最大規模の次世代電波望遠鏡を建設、運用します(2023  年8月時点で日本は公式メンバーではなくオブザーバーステータスで参加)。SKA-Low (50-350MHz)はオーストラリアのアウトバックに、SKA-Mid  (350MHz-15GHz)は南アフリカのカルー砂漠に建設予定で、どちらも多数の素子アンテナを組み合わせて使用する電波干渉計です。携帯電話、テレビ、ラジオなどからの電波ノイズを避けるために、人里から離れた砂漠地帯を建設地に選んでいます。

SKA望遠鏡では、非常に広範囲の周波数を受信するため、二つのタイプのアンテナが必要となります。予算規模の都合で計画は2期に分かれており、第1期(SKA1)のうち、SKA1-Lowでは対数周期双極子アンテナ約13万基を最長距離74kmの範囲に、SKA1-Midはパラボラアンテナ約200基を最長距離150kmの範囲に配置します。

2308_omuom_asayama_2 SKA-Lowのイメージ(提供:SKAO)

2308_omuom_asayama_3 SKA-Midのイメージ(提供:SKAO)

ICTの発展がもたらす天文学のパラダイムシフト

SKA計画は、これまでにない数のアンテナを広範囲に配置し、それに必要な信号処理装置や、砂漠の中を⻑距離信号伝送するシステム、スーパーコンピューターセンターにより構成されています。望遠鏡サイトからデータ処理施設まで、数百㎞の距離を平均毎秒8テラビットのデータが転送されます。データはサイエンス・データ・プロセッサー(SDP)と呼ばれる高性能スーパーコンピューターで処理されますが、その処理速度は〜135PFlops(注)となります。さらにSKA天文台は年間700ペタバイトのデータをアーカイブします。

(注) PFlops:ペタフロップス。コンピュータの処理速度をあらわす単位の一つで、秒間に実行できる浮動小数点演算の回数を1,000兆回単位で表したもの。科学技術計算などにおけるコンピュータや演算装置の性能指標とされる。



SKAICTの発達、つまり膨大な量の情報を扱い→転送し(速度)→計算処理し(能力)→蓄積すること(容量)が可能となったことで実現できたと言えます。SKA計画は、最先端デバイス、超⾼速コンピューティング、ビックデータICTIoTなど、⾼品質で挑戦的な技術を活⽤します。そのため、別名ソフトウエア・テレスコープとも呼ばれています。

またSKA計画では、環境負荷の低い発電送電システムや遠隔制御など、天⽂学と関係性の低い産業分野の技術も利用します。SKA天文台とそのパートナーは、2030年までにすべての人にとってより良く、より持続可能な未来を実現するという国連の持続可能な開発目標(SDGs)の多くに寄与することを目指して、グローバルな課題解決に取り組んでいます。SKA望遠鏡の建設は2021年に始まったばかりですが、能力やスキルの構築、イノベーションの創出、雇用の創出、経済の活性化、新世代の科学者やエンジニアの育成など、すでにSDGsに具体的かつ目に見える形で貢献しています。

SKAが観測を行うメートル波・センチメートル波の観測は、宇宙電波の発見、中性水素輝線の発見、クェーサーの発見、パルサーの発見(1974ノーベル物理学賞)、宇宙マイクロ波背景放射の発見(1978 ノーベル物理学賞)、そして近年は瞬発電波バースト(FRB)の発見など、天文学上の偉大な発見に数多く貢献しています。SKA1は大視野、高感度、高分解能、広帯域などの優れた性能を集約し、従来より10倍向上した感度と分解能広視野、多モード同時処理設備から100倍の掃天観測能力が予定されています。2020年以降に設置される世界の大型電波望遠鏡の中で、SKA望遠鏡だけが低周波(1GHz以下)の電磁波を受信することができ、この能力を利用して多彩な科学目標(宇宙再電離、宇宙論と銀河進化、重力理論、宇宙磁場、宇宙生命、突発天体など)が掲げられています。

SKAに関する日本語の情報は、例えば以下の資料で確認できます。

1平方キロメートル電波望遠鏡(第1期 https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t286-3-2-78.pdf

世界最先端の研究チームでSystem Scientistとしてのやり甲斐

イギリスのSKA天文台本部でSystem Scientistとして従事している浅山氏。System Scientistは、SKA建設時における科学評価試験の設計・提案、また試験観測結果の解析評価を通じて、SKAの両望遠鏡が要求仕様を満たし科学的成果を発揮できることを検証します。浅山氏はサイエンスとエンジニアリングの架け橋となるような立場で、世界各国の研究機関に在籍するさまざまな分野の研究者・技術者とともに議論を進めています。

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オーストラリア、南アフリカおよびメンバー国を繋いでのオンライン会議

SKA天文台本部は国際色豊かな環境で、140名以上のスタッフの中で日本人はただ一人。「さなざまな国籍や文化、生活習慣、また専門性をもった人たちの中で、日本語訛りの英語で議論に参加しています」と浅山氏は話します。

日本の研究機関からSKAという新しい環境へ飛び込んだ動機は、「“今”はじまるプロジェクトだから。今までにない技術・規模のプロジェクトの中で予想もできない経験ができることを楽しみに活動しています。人間の想像は想像の範疇を超えませんが、自然界ではもっとすごいことが起きているに違いない。ガリレオ・ガリレイが初めて望遠鏡で宇宙を見たことによって地球が太陽の周りをまわっていることが分かったように、新しい技術によって、新しい事象が解明される。そういった科学の醍醐味をSKAで体現できたらと思っています」 

SKA1の建設完了は2029年頃。SKA望遠鏡を用いた観測により、これまで我々が知り得なかった宇宙の真実が明らかになる日は、すぐそこまで来ているのかもしれません。

プロフィール

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SKA System Scientist
浅山 信一郎

大阪府立大学大学院 理学研究科 物質科学専攻 博士後期課程修了。

2004年 、国立天文台に入職。2009年から チリ共和国・アンデスの標高5,000mの高地にて「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ天文台)」の建設に従事。国立天文台チリ観測所所長を経て、2021年SKA天文台へ入職。現在に至る。

※所属は掲載当時

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