研究紹介 WE米ってどんなお米?

毎日食べるものだからこそ、健康に役立てたい――そんな思いから、私たちは日本の伝統的な食材である「米」に着目してきました。

その名は『WE米』

学術的にはイネ(Oryza sativa L.)の wx/ae 二重変異体米と呼ばれます。九州大学の佐藤光名誉教授が、古くから近畿地方(播州地方)で栽培されてきた在来品種「金南風(キンマゼ)」をもとに開発したイネ品種で、遺伝子組換技術を使わず、従来の育種手法により作り出されました。

WE米_概念図_改_200KB

私たちのグループは、WE米のデンプン構造に関する基礎研究から出発し、生活習慣病の予防に役立つ食品素材としての可能性に着目して、美味しく日常の食生活に取り入れる方法を探る応用研究へと発展させてきました。

ここでは、WE米の科学的な特徴と健康機能を、できるだけわかりやすく解説したいと思います。

WE米の誕生

WE米の原点となったのは、「金南風(キンマゼ)」という、古くから播州地方(現在の兵庫県西部)を中心に近畿地方で栽培されてきたお米です。九州大学の佐藤光名誉教授がこの品種をもとに、遺伝子組換えではない従来の育種法を用いて作り出したのがWE米です(Satoh and Omura, 1979)。

このお米には「wx(ワキシー)」と「ae(エーイー)」という、お米のなかのデンプンづくりに関わる2つの遺伝子が関係しています。そのため、学術的には「wx/ae(ワキシーエーイー)米」と呼ばれます。これらの遺伝子がはたらくことで、できあがったお米に含まれるデンプンが、通常の米とは大きく異なる特徴をもつようになりました。その特徴こそが、次に紹介する「レジスタントスターチ」です。

WE米の最大の特徴:レジスタントスターチが圧倒的に多い

レジスタントスターチとは?

通常の米のデンプンは、食べた後に小腸で消化され、糖として吸収されます。一方、WE米には、消化されにくいデンプンである「レジスタントスターチ(難消化性デンプン)」が多く含まれています。

レジスタントスターチは、化学的にはデンプンですが、ヒトの小腸で消化されにくく、大腸まで到達します。そのため、栄養学的には食物繊維として扱われる難消化性炭水化物の一つです(Kubo et al.,2010)。

では、レジスタントスターチが大腸にまで届くとどんなメリットがあるのでしょうか。

大腸に届いたレジスタントスターチは、腸内細菌によって利用され、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸を生み出します。これらは腸の細胞のエネルギー源となり、腸内環境の維持に関わる成分として注目されています。

WE米の栄養成分:通常米との比較(玄米100g当たり)

260608_WE米栄養成分比較表2013中村より

※1 食物繊維はプロスキー法で測定。同法はRSを食物繊維として十分に捕捉できないため、実際のWE米の食物繊維量はこの値より高い可能性があります。
※2 RSはレジスタントスターチ測定キット(日本バイオコン)で別途分析。構造上はデンプンですが、ヒトの小腸では消化・吸収されないため、現在の国際的な定義では食物繊維の一種に分類されます。
※3 γ-オリザノールはHPLC法(フェルラ酸シクロアルテニルを標準品)で分析。血中コレステロール・中性脂肪の低下作用が報告されています。
出典:Nakamura et al., 2013(乾燥重量あたり、対照:コシヒカリ)

(値は一例です。収穫年度・栽培条件により変動あり)

WE米の特徴としては、デンプン(レジスタントスターチ)が通常米の7倍以上、食物繊維としても、2倍以上含まれています。また、一覧をみると脂質も多く含まれていることがわかります。脂質と聞くと「太りやすいのでは?」と心配になるかもしれませんが、玄米の脂質には米ぬか由来のγ-オリザノールやビタミンE類など、健康機能との関わりが研究されている成分も豊富に含まれています。

WE米は、デンプンのユニークさに加えて、玄米ならではの栄養成分も豊富なお米なのです。

WE米の食味・食感

WE米は、そのままでも、また焙煎しても、通常の白米とは異なる独特の風味・食感をもちます。下の表に、その特徴をまとめました。

260610_WE米風味特徴表

*)Takemitsu et al., 2026

実は、WE米は、通常のお米と比べてかたく、そのまま炊いてもやわらかくなりにくいという性質があります。これは、消化されにくいデンプン(レジスタントスターチ)を多く含むという特徴の裏返しでもあります。

そのため、ふだんの食卓では白米に少量を混ぜて雑穀米のように炊く方法が手軽です。また私たちは、WE米を焙煎して粉にした「焙煎粉」としての活用も研究しています。粉にすることで、パンやお菓子、シリアルなど幅広い食品に取り入れやすくなります。うれしいことに、焙煎してもWE米のレジスタントスターチは保たれる(むしろ増える場合もある)ため、機能性を保ったまま、香ばしくおいしく楽しむことができます。

また、焙煎によって生まれる香ばしい香りの正体は、主に「ピラジン類」と呼ばれる成分(メイラード反応によって生成)です。私たちのグループは現在も、この香気成分の解明と食品への応用研究を進めています。

WE米の健康機能

WE米は、私たちの体にうれしいはたらきをすることが、これまでの研究で少しずつわかってきました。ここでは、動物とヒトを対象にした2つの研究を簡単にご紹介します。

ひとつめは、糖尿病になりやすいマウスを使った研究です。

焙煎したWE米の玄米を16週間にわたって与えたところ、血糖値を調整するインスリンが効きやすい状態が保たれ、血液中の中性脂肪も低く抑えられました。これには、WE米のデンプンが大腸でゆっくりと発酵し、体によいはたらきをする成分(短鎖脂肪酸)を生み出すことが関わっていると考えられています(Matsumoto et al., 2016)。

ふたつめは、健康な男性に協力してもらったヒトの研究です。

WE米の焙煎粉を毎日とり続けたところ、4週間で血液中のコレステロールや中性脂肪が下がる傾向がみられました。特別な食事制限をせず、いつもの食事に少し加えるだけでこうした変化が確認されたことは、WE米の可能性を感じさせる結果です(Nakamura et al., 2013)。

これらの研究は、WE米が「毎日の食事に無理なく取り入れられ、生活習慣病の予防が期待されるお米」であることを示しています。

※ 各研究の詳しい内容(試験方法・数値・参考文献)は、別ページでご紹介します → [詳しくはこちら(Coming soon]

社会実装:

多機能スーパー玄米として商品化

WE米は、学術研究の成果が実際の商品として社会に実装された、産学連携の成功例でもあります。JA北大阪(北大阪農業協同組合、大阪府吹田市)は大阪公立大学との共同研究を通じてWE米の産地化に取り組み、商品化を実現しました。

「農協の生活習慣米 ういまい」

「農協のスーパーすぎるごはん」

「レンジで出来たて!WE米蒸しパン」

WE米を無加工玄米のまま包装した商品「農協の生活習慣米 ういまい」の他にも、さまざまな商品をラインナップしています。

「研究室で生まれた知見を、消費者へ」という産学連携の流れが実現されており、WE米は単なる研究対象を超えて、実際に日本の農業と食卓に貢献する食品素材となっています。

各商品はこちら

WE米とこれからの研究

WE米(wx/ae 二重変異体米)は、日本で作出された独自のイネ品種です。通常の米とは異なるデンプン構造をもち、レジスタントスターチを多く含むことが大きな特徴です。

これまでの動物試験や小規模なヒト試験では、血中脂質やインスリン感受性など、代謝に関わる指標への有益な影響が報告されています。ただし、これらの結果は病気の治療効果を示すものではなく、ヒトでの機能性については今後も検証を重ねていく必要があります。

一方で、焙煎処理により香ばしいナッツ様の香りが生じるなど、食品素材としての魅力も明らかになりつつあります。私たちのグループでは、WE米の科学的根拠をさらに積み上げるとともに、焙煎粉、米粉パン、シリアルなど、日常の食卓に取り入れやすい形での応用を進めています。

主な参考文献・資料

Kubo A., Akdogan G., Nakaya M., Shojo A., Suzuki S., Satoh H., Kitamura S. (2010) Structure, physical, and digestive properties of starch from wx ae double-mutant rice. J. Agric. Food Chem., 58, 4463–4469.

Matsumoto K. et al. (2016) Resistant starch-rich wx/ae brown rice prevents insulin resistance and hypertriglyceridaemia in type 2 diabetic NSY mice. Journal of Functional Foods, 23, 556–564.

Nakamura M. et al. (2013) wx/ae米の長期経口摂取時における血中脂質代謝に与える影響. 日本栄養・食糧学会誌, 66(1), 35–40.

Satoh H., Omura T. (1979) Induction of mutation by the treatment of fertilized egg cell with N-methyl-N-nitrosourea in rice. J. Fac. Agric., Kyushu Univ., 24, 165–174.

Takemitsu H., Kotaniguchi M., Kabashima F., Kitamura S. (2026) Comprehensive analysis of roasting-induced pyrazines in wx ae brown rice revealed by GC×GC-TOF–MS. Journal of Food Science and Technology. https://doi.org/10.1007/s13197-026-06657-0

中屋誠, 松本健司, 北村進一 (2016) wx/ae二重変異体米およびその成分の脂質代謝改善効果に関する研究. 応用糖質科学, 6(3), 176–179.

協力(敬称略)