研究テーマ

概要

 生態学的生理学の伝統をもつ当研究グループは,これまで生態学者と対話のできる生理学を目指してきました.現在も,それぞれの対象動物の野外での生活を常に念頭において,生物の多様性に着目しながら生物機能の研究をするという比較生理学の立場から研究を進めています.

 昼と夜は一日に一回巡ってきます.これに伴って温度や湿度といった非生物学的環境要因と,餌植物の質的・量的変化や捕食者の出現といった生物学的環境要因が24時間周期で変動します.さらに,一年に一回季節が巡ってきます.暑い夏,寒い冬だけではなく,雨の多い季節や乾燥した季節があります.この季節変化に伴ってさまざまな生物学的・非生物学的な要因が周期的に変動します.地球上の生物はこの周期的な環境変化を予測し対応しなければ,生き延びて遺伝子を残すことが出来ません.私たちは,動物が環境変動をどのように予測し,どのように対応しているのかについて,個体,細胞,遺伝子のさまざまなレベルで解析し,その全体像を明らかにしようとしています.

 研究対象の多くはカメムシ,ハエ,コオロギ,ハチ,シロアリといった昆虫ですが,他にも甲殻類のカブトエビやホウネンエビ,蛛形類のナミハダニ,軟体動物のヨーロッパモノアラガイなどを扱ってきました.

 研究課題の1つは,季節適応において重要な役割を果たしている光周性の神経及び分子機構の解明です.光周性とは生きものが日長(1日のうちの明るい時間と暗い時間の長さの割合)に反応する性質です.現在はハエ類,カメムシ類を中心に,光入力系,日長測定系,内分泌出力系から光周性機構の解析を進めています.

 もう1つの課題は,昆虫がオスメス間の関係にとどまらない,社会といった関係の中でどのように(How, Why)して活動のオンオフをコントロールして生活しているのかを解明することです.一日周期の活動のオンオフは体内時計の遺伝子発現制御によって実現されています.私たちは,本課題について主に社会性昆虫(ハチ・アリなど)を用いて取り組んでいます.

 私たちは生物リズムの形成機構や環境適応機構を明らかにすることで,昆虫たちの野外での生きざまを総合的に理解したいと考えています.

研究室の歴史 

 当研究室の歴史は,1949年,大阪市立大学(新制)理工学部・生物学科が設立された時に遡ります(理工学部は1959年に理学部と工学部に分離).当時の研究室名は「動物生理生態学講座」で,初代教授は大沢済氏.後には,京都大学霊長類研究所の所長も務められました.第2代教授は佃弘子氏.温度生理学をご専門とされ,キンギョやグッピーを対象として実験されました.第3代教授は沼田英治氏.カメムシをはじめ,様々な昆虫類の野外で「タイミング」(時間設定)がどのようにして決定されるのかを,生態学,生理学の視点で研究されました.第4代教授は志賀向子氏.昆虫類の季節適応機構を比較神経生物学的な視点で研究されました.現在は,大阪大学大学院理学研究科教授として,精力的に研究を進められています.

研究のキーワード

 これまでの研究テーマのキーワードを以下に列挙します.詳細は業績リストをご覧ください.
 光周性,休眠,光受容器,視物質,概日時計,概潮汐時計,日長測定,光周測時,内分泌,細胞周期,幼若ホルモン(JH),エクジステロイド,分子機構,神経機構,孵化,羽化,低温耐性,高温耐性,乾燥耐性,日周リズム,周期性,昆虫,潮汐リズム, RNAi,遺伝子発現,アクアポリン,低温保存, 個体間相互作用, 時計遺伝子

研究対象の動物たち

昆虫綱:ハエ目

 ナミニクバエ,シリアカニクバエ,ヒロズキンバエ,タマネギバエ,ノハラカオジロショウジョウバエ,ナンキョクユスリカ など

昆虫綱:カメムシ目

 ホソヘリカメムシ,チャバネアオカメムシ,ナガメ,タガメ,サシガメ,カスミカメ など

昆虫綱:バッタ目

 マダラスズ,タンボコオロギ など

昆虫綱:ハチ目

 セイヨウミツバチ,ニホンミツバチ,キョウソヤドリコバチ など

昆虫綱:ゴキブリ目

 ヤマトシロアリ など

クモ綱:

 ナミハダニ,オオヒメグモ など

腹足綱

 チャコウラナメクジ,ヨーロッパモノアラガイ など