無機化学研究グループ - 応用化学科

応用化学科

無機化学
研究グループ

  • 林 晃敏 教授
  • 今井 奎太朗さん 物質化学系学類応用化学課程 4年

全固体電池を実現する
新物質を探索・開発。

無機化学研究グループ 林 晃敏 教授

全固体電池に関する多数の研究者が集結する本学は、世界的にも研究をリードしています。2023年に全国初の全固体電池学術共同研究拠点として認可された全固体電池研究所の所長でもある林教授にお話を伺いました。

全固体電池への大きな突破口は、硫化物の固体電解質。

現行の電池は、電極が固体で電解質が液体です。電解質を固体にした全固体リチウムイオン電池は、難燃性・耐久性など多くのメリットがあり、EV化の流れからも実用化は目前といわれています。私は、非晶質(ガラス)に着目した機能性材料として、固体電解質材料の探索や全固体エネルギーデバイスの開発に取り組んでいます。

電極と電解質の双方が固体の場合、界面が濡れずイオンの伝導が難しいという問題点があります。これを克服するのが硫化物です。酸化物と異なり、粒子が密着して界面を作りやすく、イオン伝導時の電気抵抗も酸化物より小さくなります。私の学生時代を含め、約30年で研究が急速に進み、全固体電池実用化への足がかりとなりました。

次々世代電池を担う、資源リスクの少ないナトリウム。

期待が集まる全固体リチウムイオン電池ですが、リチウムは埋蔵量が少なく偏在しているため、安定供給が難しい物質です。そこで、資源リスクの少ないナトリウムにいち早く注目。硫化物の結晶化ガラスを使った固体電解質を開発してナトリウムイオンの高速移動を確認。2019年にはナトリウムイオンとしては世界最速で、リチウムイオンよりも高い伝導性をもつ硫化物の固体電解質を発見しました。

全固体ナトリウムイオン電池が製品として実用化するには、高速充電や耐久性の問題など、クリアすべき課題は山積しています。また、リチウムよりも「重たい」というナトリウムの宿命があり、これは重量あたりの電池エネルギーでみるとデメリットになります。しかし、資源の豊富さ・コストの低さ・伝導率の高さなど、全固体リチウムイオン電池を超える次の電池として、大きな可能性を確信しています。

活発なコミュニケーションが、研究を前進させる。

自分が高校生の頃、将来研究者になるとは全く想像もしていませんでした。大学入学後に固体の中をイオンが伝導することに興味を持ち、夢中で研究するうちに現在に至ります。1990年代当時は、その研究が電池に繋がることも、全く予想していませんでした。注目され出したのはこの十数年です。これも研究の面白さかもしれません。

研究を前向きに継続していくためには、研究室のメンバーとの信頼関係がとても重要です。月次報告会や打ち上げなど、時には真剣に、時にはざっくばらんに、お互いの考えや思いを話し合える機会を大切にしています。今研究している材料が、世界初の発見になるかもしれません。一緒に、社会を豊かにする研究に挑戦しましょう。

自分らしい学びのスタイルを
獲得しました。

物質化学系学類応用化学課程 4年 今井 奎太朗さん

全固体電池用の正極材料の開発に挑む。

私の研究室のテーマは、機能性無機材料の研究です。その中で私が担っているのは、硫化モリブデンの新機能開拓と構造解析です。硫化モリブデンの機能の一つとして、全固体電池の正極材料が考えられます。硫化物の固体電解質と組み合わせて電池を組み、電池容量を向上させる研究に取り組んでいます。また、今後は硫化モリブデンの水素発生触媒としての可能性も調べていく予定です。

構造解析では、非晶質である多硫化モリブデンの構造の解明をめざしています。異なる合成法で多硫化モリブデンを作り、それぞれの構造にどのような違いが見られるか、また構造の特色に応じてどのような機能に活かせるかを摸索しています。

好きな化学のために、苦手な物理も克服。

応用化学科に入学すれば、嫌いな物理をしないで好きな化学だけを思い切り学べると思っていました。けれども、入学後最初の講義内容は、電子の円運動といった物理分野でした。物理からは逃れられないと察し、巻き返しを図るために懸命に学びました。その結果、電子の軌道と物質の安定性についての理解も深まりました。

好きな化学分野と密接に結びついていると、あれだけ苦手意識を持っていた物理が苦にならず、むしろ楽しみながら学ぶことができました。この経験から、好きな分野をベースに縦に知識を深め、必要に応じて横への知識を広げる学習スタイルを確立。現在は、電池を縦軸に、必要があれば物理・生物・数学を横軸に学んでいます。

博士課程に進み、機能性無機材料の研究を深めたい。

高校生の頃に、吉野彰氏がリチウムイオン電池研究でノーベル化学賞を受賞したニュースに感動したこともあって、林先生の研究室に興味を持ちました。林研究室所属の部活動の先輩に相談して研究室を訪問し、研究レベルの高さを知り、自分も学びたいと思いました。

研究室は、学部生から博士まで学生数23名の大所帯。先輩方はとても親切に指導してくださり、林先生も気軽に声をかけてくださるので、今は研究が楽しくてたまりません。まだ明確な将来の進路は決めていませんが、博士課程に進み、徹底的に究めるつもりです。そして、物事を批判的に考え、自分なりの解釈を見つけて行動し、周囲を幸せにできる人間になりたいです。

MESSAGE 受験生へのメッセージ

すべてのものやしくみを作るのに必要な技術や知識を学ぶのが工学部。専門分野だけでなく、他分野との関連性や応用性を理解することが重要です。探究が好きな人、身近な現象について理解したい人、お待ちしています!