機能分子化学研究グループ - 化学バイオ工学科

化学バイオ工学科

機能分子化学
研究グループ

  • 佐藤 絵理子 教授
  • 香庄 揮一さん 工学研究科 物質化学生命系専攻 博士前期課程 1年
  • 坂下 史樹さん 工学研究科 物質化学生命系専攻 博士前期課程 1年

0から1を。
社会が求める高分子材料を創出。

機能分子化学研究グループ 佐藤 絵理子 教授

日用品から宇宙開発まで、あらゆるシーンで活用される機能性高分子。付加価値の高い高分子の設計から、その新機能を活かすオリジナル材料の創出まで、一連のプロセスを研究室で担う佐藤教授にお話を伺いました。

きれいに剥がせる「非分解型易解体性接着剤」を開発。

接着剤は、家庭用から電子材料・自動車・住宅・航空・宇宙関連まで、広く使われています。金属ボルト等を用いる接合より軽く、塗り広げて応力を均一に分散でき、異種材料を接合できる等の長所があります。一方、一度接着すると剥がしにくく、異種材料の分別回収や不良部品の交換が困難という短所があります。狙ったタイミングで接着力を下げる「易解体性接着剤」の開発は活発ですが、硬化型接着剤を被着体に残さず剥がすことはできませんでした。硬化型接着剤の接着力は高いため、きれいに剥がせる技術への需要は今後益々高まると考えられます。

そこで私の研究室では、解体時に糊を残さず簡単に剥がせる硬化型接着剤を2020年に開発。80℃で加熱すると10MPa以上の引張せん断強度で接着し、解体時には180℃の加熱で接着強度が低下して界面剥離します。接着剤は解体時に分解しないため、糊が残らずリサイクルがしやすく、VOC※1も発生しません。

※1 VOC……揮発性有機化合物の総称。大気汚染防止法で規制されている。

弱点を逆手に取り、実験から新たなヒントを得て。

接着剤が重合(硬化)する際に体積が減少することを「硬化収縮」といいます。硬化収縮は接着強度の低下を引き起こすため、接着剤にとって避けたい現象です。しかし、硬化収縮をうまく利用すれば、解体時の剥がしやすさに繋がるのではと、逆転の発想で挑んだのが、非分解型の易解体性接着剤開発のスタートでした。

研究を進める中で、剥がしやすさの要因がもうひとつ見えてきました。接着剤と金属製被着体の線膨張係数※2差です。加熱して常温に戻す際に線膨張係数の大きな接着剤の方が縮み方が大きいため、被着体との界面にひずみが発生し接着力が低下します。線膨張係数差を活用し、解体時の接着強度を接着時の10%まで低下させることにも成功しています。

※2 線膨張係数……温度上昇による物体の長さや体積が膨張する割合を温度当たりで示したもの

大学で学ぶ化学は、「なぜ?」を考えたい人に最適。

この接着剤は、デュアル硬化性ハイパーブランチポリマーと硬化剤を組み合わせたもの。めざす接着剤の条件を満たす機能性高分子の設計に始まり、合成法の開発、合成した材料の接着試験、弱点の改善と性能アップのための新たな分子設計までトータルに取り組めるのは、私の研究室の強みのひとつです。

化学者として研究生活を送っていますが、私が高校生の頃は、暗記の比重が大きな化学よりも、理屈を考える物理や数学の方が好きでした。ところが大学での化学は「なぜこうなるか?」「なぜこの実験でこんな結果が出たのか」を考えることの連続。化学が好きな人はもちろん、数学や物理が好きな人もとても楽しめる分野だと思います。自分で考えられる人はどんな分野でも活躍できます。私と一緒に、考える力を磨きましょう。

作りたいものを自ら作る。
それが高分子の魅力。

工学研究科 物質化学生命系専攻 博士前期課程 1年 香庄 揮一さん

加熱により接着し、さらなる高温で剥がれる接着剤を研究。

私が取り組んでいるのは、資源リサイクル等に有効な「簡単に剥がれる接着剤」の研究です。「簡単に剥がれる」には様々なアプローチの方法がありますが、私が担うのは、加熱すると硬化して接着し、さらなる高温加熱で分解する易解体性接着材料の設計。先輩方から研究成果を引き継ぎ、新しい設計を加え性能アップを行っています。

簡単に剥がれる仕組みは、原料であるアントラセン光二量体の熱解離反応。あらかじめ紫外線照射して形成された二量体が、高温加熱で分解するプロセスを利用しています。先行研究では、硬化温度が高く、接着時に熱解離が起こってしまうことが課題でした。私が硬化反応性の高い化合物を設計・合成し、硬化温度を下げることに成功。今後の接着試験が楽しみです。

※二量体……2つの分子が結合して新しい1つの分子を形成した状態。アントラセンは紫外線照射で二量化する(光二量化反応)

先生の数や設備の充実度を調べ、本学を選択。

父が化学メーカーの技術職ということもあり、子どもの頃から化学は身近な存在でした。化学系への進学は決めていましたが、地元の大学か本学かで悩みました。オープンキャンパスやWebサイトで情報を集めた結果、実験設備が充実しており、化学系の先生が多くひとつの学科を有する本学工学部への進学を決めました。

高校までの化学では、反応の理由を考えることも教わることもないため、「知らない反応はわからない」状態でした。けれども入学後に受けた授業を通して、反応が進行する理由を考える重要性を理解。初めて見る反応でも「考えればわかる」になり、思考の自由度や知識の汎用性がアップ。化学に対する根本的な姿勢が変わりました。

「知りたい」だけでなく、「使えるか」も重要。

自分の作りたいものを作ることができる高分子の世界に興味があり、佐藤先生の研究室を見学。気づいたのは、佐藤先生は常に研究室にいらっしゃるということ。長いキャリアを持つ先生にいつでも相談できる環境は心強いと思いました。実際に所属してみると、真面目だけれど窮屈さのない空気感が、自分にぴったりだと感じます。

工学部での研究は、その後の実用を想定する能力が問われます。メカニズムの追究はとても大切ですが、製品として使うのに適合する条件をめざすことも大切だと思います。現在、初の学会発表を控えていますが、これも成長の機会とし、将来は化学メーカーで現在の研究内容を活かせる高分子や接着剤系の研究者になりたいです。

MESSAGE 受験生へのメッセージ

受験問題は、才能を問うわけではなく、学んだことを確認するためのもの。だから地道に反復すれば大丈夫。大学で自分の強みを活かしてほしいです。試験日に最大限の力を発揮できるように、生活リズムに気をつけて!

めざすのは、課題解決の
糸口を見出せる研究者。

工学研究科 物質化学生命系専攻 博士前期課程 1年 坂下 史樹さん

熱でも酸でも分解するポリマーの合成を研究。

私の研究テーマは、熱と酸のいずれの刺激でも分解するポリマーの合成。始まりは全く別の研究でした。ある万能型モノマーの合成を試みましたが微量しか作れず悩んでいたのです。しかし、その過程で熱や酸で分解する性質があるモノマーが合成できることが判明。これを活かせないかと、現在の研究へと方向転換を図りました。

現時点では、150℃の高温、酸によって分解するという大枠の部分は成功しました。けれども、まだ高分子と呼べるレベルの数まで分子が繋がらず、数個のみ繋がったオリゴマー状態です。また、分解する温度や酸濃度を明確に制御するには至っていません。トライ&エラーの繰り返しで先は長いですが、いつか完成させたいです。

化学×バイオで視野を広げ、実験操作で経験値アップ。

中学の自由研究で「ペーパークロマトグラフィーを使った油性ペンの色素の分離」を行うなど、化学好きな傾向がありました。さらに、高校での化学の授業が楽しく、工学系の中でも機械や情報よりも学問イメージが明確になりました。都心部という立地、化学とバイオの両方を学べるバイオ工学科があることから本学を選びました。

入学後は、化学とバイオの両方の知識が身につき視野が広がりました。また、初めて見る多種多様な実験装置の操作法をひとつずつ修得でき、楽しみながら学べました。4年次に、学術と応用をバランス良く見通すことができると感じ、佐藤先生の研究室へ。振り返ると、自分で考える姿勢はこの時から培われていったと思います。

繰り返す実験と活発な議論。研究室は成長の場。

実験では、新しい試みをするとうまくいかないことがほとんど。失敗が続くと、気が滅入ってしまうこともあります。けれども、なぜこうなるのか、どう改善すべきかを分析することこそ研究であり、やりがいを感じています。研究室での先輩や後輩との活発な議論を通じて、論理的思考力や問題解決能力を高めていきたいです。

将来は化学系企業での研究職を希望しており、現在、就職活動をスタートさせたところです。できれば現在の研究の延長となるような、新しい機能性高分子材料の創出に関わり、それがどんな形で世の中に出るのかを見つめていきたいです。多様な社会の問題に対して、解決の糸口を見出せる研究者をめざしています。

MESSAGE 受験生へのメッセージ

一生のうちで受験勉強だけに打ち込む期間というのはほとんどありません。一番の目的は大学合格ですが、自分の成長にも繋がるとても貴重な時間だと思います。頑張って乗り越えてください。