0から1を。
社会が求める高分子材料を創出。
日用品から宇宙開発まで、あらゆるシーンで活用される機能性高分子。付加価値の高い高分子の設計から、その新機能を活かすオリジナル材料の創出まで、一連のプロセスを研究室で担う佐藤教授にお話を伺いました。
きれいに剥がせる「非分解型易解体性接着剤」を開発。
接着剤は、家庭用から電子材料・自動車・住宅・航空・宇宙関連まで、広く使われています。金属ボルト等を用いる接合より軽く、塗り広げて応力を均一に分散でき、異種材料を接合できる等の長所があります。一方、一度接着すると剥がしにくく、異種材料の分別回収や不良部品の交換が困難という短所があります。狙ったタイミングで接着力を下げる「易解体性接着剤」の開発は活発ですが、硬化型接着剤を被着体に残さず剥がすことはできませんでした。硬化型接着剤の接着力は高いため、きれいに剥がせる技術への需要は今後益々高まると考えられます。
そこで私の研究室では、解体時に糊を残さず簡単に剥がせる硬化型接着剤を2020年に開発。80℃で加熱すると10MPa以上の引張せん断強度で接着し、解体時には180℃の加熱で接着強度が低下して界面剥離します。接着剤は解体時に分解しないため、糊が残らずリサイクルがしやすく、VOC※1も発生しません。
※1 VOC……揮発性有機化合物の総称。大気汚染防止法で規制されている。弱点を逆手に取り、実験から新たなヒントを得て。
接着剤が重合(硬化)する際に体積が減少することを「硬化収縮」といいます。硬化収縮は接着強度の低下を引き起こすため、接着剤にとって避けたい現象です。しかし、硬化収縮をうまく利用すれば、解体時の剥がしやすさに繋がるのではと、逆転の発想で挑んだのが、非分解型の易解体性接着剤開発のスタートでした。
研究を進める中で、剥がしやすさの要因がもうひとつ見えてきました。接着剤と金属製被着体の線膨張係数※2差です。加熱して常温に戻す際に線膨張係数の大きな接着剤の方が縮み方が大きいため、被着体との界面にひずみが発生し接着力が低下します。線膨張係数差を活用し、解体時の接着強度を接着時の10%まで低下させることにも成功しています。
※2 線膨張係数……温度上昇による物体の長さや体積が膨張する割合を温度当たりで示したもの大学で学ぶ化学は、「なぜ?」を考えたい人に最適。
この接着剤は、デュアル硬化性ハイパーブランチポリマーと硬化剤を組み合わせたもの。めざす接着剤の条件を満たす機能性高分子の設計に始まり、合成法の開発、合成した材料の接着試験、弱点の改善と性能アップのための新たな分子設計までトータルに取り組めるのは、私の研究室の強みのひとつです。
化学者として研究生活を送っていますが、私が高校生の頃は、暗記の比重が大きな化学よりも、理屈を考える物理や数学の方が好きでした。ところが大学での化学は「なぜこうなるか?」「なぜこの実験でこんな結果が出たのか」を考えることの連続。化学が好きな人はもちろん、数学や物理が好きな人もとても楽しめる分野だと思います。自分で考えられる人はどんな分野でも活躍できます。私と一緒に、考える力を磨きましょう。