人間と海が共生するための
イノベーションを。
陸より広大で、宇宙より未知の部分が多い海。海は、持続可能社会構築のための高いポテンシャルを有する場所です。その海を対象に、海と人類が調和・共生するための様々な研究に取り組む中谷教授にお話を伺いました。
深海の生態系を、画像モニタリングで明らかに。
深海の熱水鉱床※1には工業原料となる金属が豊富にあるため、その開発が望まれていますが、その付近には海洋生物も多数生息しています。開発による環境場へのダメージを最小限に留めるには、生態系の把握が重要です。しかし、海洋生物の種類や数を実測するのは非常に難しいのが実状です。そこで私の研究室では、深海底の撮影画像から種類ごとの生物の個体数を直接推定するシステムを開発しました。
個体数の推定はAIが行います。実際の海底画像を教師データとして、AIが深層学習します。しかし、深海底画像データは非常に少なく十分な教師データが得られません。そこで、深海底環境の画像と生物画像のマージ画像※2をAIで作成し、それを教師データに組み入れて学習頻度を上げました。これにより高確度での推定が実現し、広域の深海生態系の把握に有効活用できるようになりました。
※1 熱水鉱床……マグマ等で熱された海水が冷却される過程で各種金属が沈殿したもの。 ※2 マージ画像……2枚以上の画像を1枚に合成した画像企業と共同でゼロエミッション船を評価。
持続可能社会に向けてGHG※3削減への動きが強まっていますが、国際海運も例外ではなく、IMO※4の掲げる目標は「2050年までに排出量ゼロ」。この流れを受けゼロエミッション船の開発が進んでいます。しかし、この「ゼロ」の範囲は船の運航中限定で、燃料である水素やアンモニア、船体の製造プロセスでの排出量は含まれていません。
そこで、エンジン・造船企業との共同研究として、燃料の種類別に製造や廃棄も含んだGHG排出量とコストを試算し、その関係の評価に取り組んでいます。LCA※5を用いて検討の範囲を広げた時に、実現可能なコストで、より多くGHG削減に繋がるのは化石燃料船かゼロエミッション船か、海運の未来のためにも慎重に評価を進めているところです。
※3 GHG……温室効果ガス。 ※4 IMO……国際海事機関。国連の専門機関のひとつであり,国際海運の安全と保安、環境の基準を設定する。 ※5 LCA……ライフサイクルアセスメント。資源採取から廃棄・リサイクルまで製品やサービスのライフサイクル全体の環境負荷を評価する手法海を傷つけず、その恵みを活用するために。
今回ご紹介したのは、研究グループの研究の一部分です。「海を測る」「持続可能な海の利用方法」「環境影響予測・評価」の大きなカテゴリーのもと、海底から海面までの海洋空間全てを対象として、人類の持続可能な発展のための研究を行っています。
もともと流体力学に興味がありましたが、「海は宇宙より未知であり、開発の余地のあるフロンティア」だと聞いて、この世界に飛び込みました。この分野を専門に学べるのは全国で8大学のみです。環境との調和を意識し、海洋を有効利用するには新たなテクノロジーが不可欠です。海洋資源エネルギー工学・海洋環境工学等を軸として視野を広げ、一緒に海のイノベーションを創造していきましょう。