物質が秘める
未知の性質を探る。
日常的に利用される様々な電子デバイス。その性能は部品に使われている物質の性質が担っています。私たちの生活がより豊かになるような未知の性質を示す物質の探索と創出を目指す木村准教授にお話を伺いました。
一方向にしか光を通さない物質の探究
私の研究は、未知の機能を持つ物質の探索と創出です。物質の機能を予測し、その物質を実際に設計・合成します。そして、合成した物質を精密測定し機能を実証するという一連のプロセスで研究に取り組んでいます。最近では、光の入射方向が左か右によって透過光の強度に差が生じる光ダイオード効果に興味を持っており、光通信に使われる波長帯域で巨大な光ダイオード効果を示す物質を発見しました。この効果が最大になると、光は一方向にのみ透過します。
光通信において、光が一方向にのみ進むことにはメリットがあります。レーザー光源に反射光が戻ってしまうと、損傷や不安定化を引き起こすからです。現在はファラデーアイソレータと呼ばれる光学素子によって光の進行方向を制御していますが、今回の研究結果は、コンパクトで光強度ロスの少ないデバイスの開発につながる可能性を秘めています。
「対称性の破れ」から物質の不思議に迫る。
一部の磁性体が光ダイオード効果を示すことは知られていましたが、光通信波長帯では大きな効果が得られていませんでした。今回、リチウムイオン電池の研究で知られた物質でもあるLiNiPO4に注目し、単結晶を合成して透過光強度を調べた結果、入射方向の左右によって透過光強度が大きく異なることを実証しました。
この現象の鍵となるのが「対称性の破れ」です。例えば、鏡映しの関係にある左手と右手は、掌を上に向けた状態では重ね合わせることができないので、鏡映対称性が破れているということになります。物質中には多様な「対称性の破れ」が存在しますが、今回は「空間反転対称性の破れ」と「時間反転対称性の破れ」が同時に生じることで光ダイオード効果が得られました。光ダイオード効果に限らず、「対称性の破れ」は、私の研究室で未知の性質を探究する上での鍵となっています。
教科書に載るような画期的な発見をめざして。
画期的な発見をするためには、研究室に所属する学生さんの力が不可欠です。学生さんには、対称性の概念を含め、研究を進める上での重要な事柄を輪読や日々の議論を通して学んでもらっています。また、関連する研究の動向を知ることも大変重要ですので、最新の学術論文を輪読する試みも始めたところです。
モノや現象のしくみを知りたいという気持ちが、私の研究の原点です。小学生の頃は、台風が発生すると新聞の気象図をスクラップして自分なりに分析していました。地道に挑戦を続け、いつか教科書に載るような新しい物質や物理法則を発見したい。それが私の研究者としての大きな目標です。