ナノワールドで起こる
現象を見つけ、解き明かす。
原子や素粒子を扱う量子の世界は、私たちの世界の物理法則は通用しません。この極小世界の観察には高いエネルギーが必要になります。エネルギー照射でナノワールドの謎解明に挑む堀教授にお話を伺いました。
高エネルギー照射による物性変化のメカニズムを探る。
放射線・超音波・可視光線などの量子化されたエネルギーを物質に照射すると、目に見える世界とは異なる様々な反応が起きます。私の研究室では、これらの反応を利用した物質の加工や合成、また反応のメカニズムを解明するための研究を行っています。
これまでに、金属に重イオンと呼ばれる粒子線を照射すると、金属の硬さを変えたり、磁石や触媒の性質を付加できる条件や材料があることを明らかにしました。また、金属イオンを溶かし込んだ水やガラスの中に粒子線を照射すると、金属ナノ粒子を合成できることも発見。放射線の照射=材料の劣化と認識されていましたが、劣化を変化と捉え直し、物性の制御への応用へ繋げたいと考えています。
学外の大型加速器施設を使った「出張実験」も。
物性の制御により、強い合金や特定の光を吸収するガラス等、様々な機能性材料の創製が考えられます。また、水素社会に向けて原子空孔※2に水素を注入した「水素吸蔵合金」の材料を探索中です。さらに、原子空孔を陽電子消滅測定法※2で測定するために、陽電子※3を作るしくみも開発。金属疲労の非破壊検査への応用も考えられます。
こうしたエネルギービーム照射を行う際には、学内のみならず学外のSPring-8(兵庫)・KEK(つくば)・UVSOR(愛知)等の大型放射光施設やQST(群馬)・JAEA(茨城)等での加速器装置を利用しています。施設のビームラインに、自作の装置を取り付けて物性評価を行うこともあります。このように、理学的に物事を追究する面があるのも本研究室の特色です。
※1 原子空孔……結晶の格子点で、あるべき原子が存在しない空間。 ※2 陽電子消滅測定法……陽電子発生時に放出されるガンマ線と、電子と陽電子が合体して消滅(=対消滅)する際に発生するガンマ線の時間差やエネルギーを測定する技術。空孔が多いほど陽電子の寿命は長くなり、ガンマ線エネルギー分布が変わる。 ※3 陽電子……電子と同じ重さを持ち、電子とは逆の正の電荷を持つ素粒子の一種。研究の本質を示す、故小柴昌俊博士からの言葉。
「君たちと、私たちのしていることは同じ」。ノーベル物理学賞受賞者・故小柴昌俊先生から、生前にいただいた言葉です。私たちは陽電子を使って材料を、小柴先生はニュートリノを使って地球を調べていますが、スケールが異なるだけで、その原理はほぼ同じです。「それを学生の皆さんに面白いと感じてもらうのがあなた達の使命だ」との激励も受け、研究室運営の礎としています。
研究者の最大のモチベーションは、研究を「面白い」「楽しい」と感じること。けれど、研究を心から楽しいと感じる瞬間は、難しい実験を乗り越えた後にやってくることも事実です。楽しむ姿勢を持ち、自由に自分らしい研究をしたい方の来訪をお待ちしています。