臨床腫瘍学

基本情報

臓器器官病態内科学講座 臨床腫瘍学

代表者 川口 知哉教授(兼任)

臨床腫瘍学講座は、政府策定のがん対策推進基本計画から2012年に文部科学省の採択事業「がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン」に基づいて作られた講座です。
日々進歩しているがん薬物療法の新規薬剤および治療法の開発に従事することは臨床腫瘍学の重要な役割の一つです。 臨床試験への参加を積極的に行い、エビデンス創出の担い手になるよう日夜診療と研究に従事しております。 また、臨床試験を立案できる人材を作るための教育整備を目指しています。キャンサーボードについては、化学療法センター を中心に実施し、肺がん、乳がん、消化器がん、原発不明がん等の対応を協議しています。 地域がん診療連携拠点病院としての役割を担い、看護師、薬剤師等との多職種に渡る 臨床試験推進の中核になるべく日々努力をしております。
また、医学部の特性を生かしたtranslational researchにも取り組んでおり、臨床検体を用いた薬剤耐性機序の解明など肺がんの病態と病因の解明に分子生物学的手法を用いた研究等を行い、臨床にフィードバックできる研究をしています。

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場所
学舎 7階
連絡先
TEL:06-6645-3793 MAIL:gr-med-omu.oncol@omu.ac.jp

 

教育方針

学部教育

  • がんは、国民の2人に1人が罹患し3人に一人が死亡する我が国の死因第1位の疾患で、現在の高齢社会において国民の生命及び健康にとって重大な問題となっています。政府もがん対策に大きな予算を投じて様々な取り組みを行っています。臨床腫瘍学講座は、関連の教室とも協力を行い、がん医療における技術や知識の習得を目標に学部学生や大学院教育の指導をしております。学部学生の授業では、がんの基礎生物学、病理学、疫学、がんのインフォームドコンセント、標準的治療について講義をしています。
  • がんプロフェッショナル養成プランの大学院生には、がん医療に携わる専門的な知識・技能を有する専門医として育成し、地域がん診療連携拠点病院として高度ながん医療を提供出来るだけでなく、診療支援を行う医師の派遣に積極的に取り組み、地域医療を充実させる人材に育成することを目標にしています。

臨床教育(研修医の育成)

当講座には、がん薬物療法専門医をはじめ、日本内科学会、日本呼吸器学会、日本緩和医療学会などの認定医、専門医、指導医が在籍しており、認定医、専門医を目指す研修医の皆様の症例報告や学会発表を指導・支援しています。附属病院の他の関連診療科との連携体制を整えることで、一定期間、造血器腫瘍、肺がん、大腸がん、乳がん、胃がん、肝臓がんなど、臓器横断的に多種多様な症例経験を積むことができるようになっています。臓器横断的にがん薬物療法を修得し、さらに集学的治療を用いた治療方針の立案も出来ることを前提に、患者の社会背景にも配慮した質の高いがん医療を実践すること、診療科・職種横断的チームのなかで多職種のリーダーシップを発揮することや、がん治療に関するコンサルテーションやセカンドオピニオンに適切に対応する技術を学ぶことが出来ます。

研究指導

  • 研究を志す方は、大学院に進学して医学博士号の取得を目指していただくことが可能です。臨床試験の立案や実施について丁寧に指導します。また、当教室のみならず関連教室の教員にも協力いただいて、基礎的あるいは臨床的な研究を支援し、学会発表や論文執筆を指導いたします。臨床で貴重な治療経験や希な経過を呈した症例におけるケースレポート作成をして、英文投稿も積極的に行う指導もしています。
  • さらに、海外への留学を希望される場合は、カリフォルニア大学デービス校(米国、デービス)などの施設を紹介させていただくことも可能です。

研究について

概要

  • 当講座では、臨床研究と基礎研究を行なっています。
  • 臨床研究では、臨床試験への積極的な関わりに力を入れています。当講座が中心になり臨床試験を立案した多施設臨床試験を実施しています。現在、当講座が計画・実施している臨床試験は、下記の主な研究内容を参考にしてください。
  • また、JCOGやWJOGの中心施設として多くの試験に参加しており、治験にも力を入れています。
  • 基礎研究では、肺がんの病因と病態を解明すべく分子生物学的も行っております。カリフォルニア大学デービス校(米国、デービス)、ベスイスラエル・メディカルセンター(米国、ボストン)とも共同研究を一部実施しています。国際的な視野に立った研究を目指しています。

教室を代表する業績

  •  EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対する標準治療のひとつであるエルロチニブとラムシルマブの併用療法は、臨床試験では出血リスクの懸念から脳転移が組み入れ除外でした。しかし、進行肺癌は脳転移を有する症例が多いにも関わらず血管新生阻害薬の安全性が確立していません。そこで、新規血管新生阻害薬であるラムシルマブとEGFR阻害剤であるオシメルチニブ、またはエルロチニブ併用療法の脳転移を有するEGFR遺伝子変異陽性肺腺癌対する安全性と有効性を評価する医師主導臨床試験を実施しました。結果は論文発表しました。現在は試験で得られた血漿検体や生検検体を用いたバイオマーカーの附随研究を行っています。
  • EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対する標準治療はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬であり、一方で免疫チェックポイント阻害薬の効果は乏しいとされています。その理由として、一般に免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待されるPD-L1高発現・CD8陽性リンパ球高浸潤の免疫微小環境が備わっている腫瘍がEGFR遺伝子変異陽性肺癌症例には少ないことが考えられます。しかし、反対にそのような免疫微小環境を備えた腫瘍においてはEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に初期耐性例であることが多いことを見出しました。結果はCancer Science 2019;110:3244-54に発表しました。
  • 『喫煙者、非喫煙者の肺癌病因に関する分子疫学的研究:JME試験』は、SWOG0424(米国の多施設分子疫学研究)のコンセプトを取り入れつつ発展させた、本邦の前向き多施設共同の分子疫学研究ですが、この研究を通じて、肺がんにおいては、喫煙、受動喫煙は引き続き重要な環境因子であることを示し、さらに肥満度の影響もMutational spectrumに影響を与えることを証明しました。将来的にSWOG0424との共同解析が計画されています。

主な研究内容

現在の主な研究テーマ

COPD合併肺癌に関する分子疫学研究

肺癌死の減少には予防が重要であり、発癌メカニズムの解析が必要です。非喫煙者肺がんと喫煙者肺がんのそれぞれに違うアプローチで研究を進めています。非喫煙者肺がんについては受動喫煙にも注目し、網羅的遺伝子解析との関連を調査しています。
一方、喫煙者肺がんについては、喫煙が関与する疾患であるCOPDとの関連に注目しています。これまでに、COPD肺がん患者を対象とした解析で、PIK3CA遺伝子変異が本集団において有意に高頻度で認められ、また、COPDの重症度と有意に関連することを報告しました。PIK3CAの関与する経路は細胞増殖・分化、タンパク合成、アポトーシスなどに関与しているとされています。COPD肺がん患者を対象とした本経路の解析により、肺癌の発症メカニズムおよび、COPDとの関係を明らかにする研究を実施しています。

脳転移を有するEGFR遺伝子変異陽性肺癌に対するEGFR-TKIとラムシルマブ併用の第I相試験 (医師主導治験)

EGFR遺伝子変異を有する進行肺腺癌の治療はEGFR阻害剤単剤が標準治療です。しかしながら多くの患者は、治療経過中に薬剤耐性となり再発します。耐性克服研究においてEGFR阻害剤と血管新生阻害薬を併用する治療法が複数の臨床試験で開発され良好な治療成績を示しています。しかし血管新生阻害剤を併用した臨床試験は脳転移症例を除外して実施していたので、血管新生阻害薬の脳転移に対する安全性や有効性が確立していません。脳転移に対する治療戦略は臨床において重要な課題です。そこで新規血管新生阻害薬であるラムシルマブとEGFR阻害剤であるオシメルチニブ、またはエルロチニブ併用療法の脳転移を有するEGFR遺伝子変異陽性肺腺癌対する安全性と有効性を評価する臨床試験を実施しました。また、治験で得られた血漿や腫瘍検体を用いて脳転移症例の薬剤抵抗性や治療反応性について、附随研究を行っています。

EGFR 遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者における digital PCR 法を用いた EGFR チロシンキナーゼ阻害薬 投与前後の T790M 発現と治療効果の関連性を検討する後ろ向き観察研究

EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者に対し、アファチニブ無効後にオシメルチニブを用いた逐次療法を行う方が、オシメルチニブを初回治療で行うより生存期間を延長させるかどうかのデータがないため、clinical questionである。
主にアファチニブを初回治療で使用した検体を用いてEGFR-TKI投与前後のT790Mの発現頻度をdigital PCR法で測定し、治療効果とT790Mの発現頻度の相関を明らかにすることで、アファチニブとオシメルチニブを用いた逐次治療の有効性を検討する研究を実施しています。

胸水合併EGFR遺伝子変異陽性進行再発非扁平上皮非小細胞肺癌に対する
エルロチニブ+ラムシルマブの単群第II相試験-RELAY-Effusion-

肺癌は年間罹患数が3番目に多く、死亡数は最も多い予後不良の疾患です。EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対して、EGFR阻害剤は細胞障害性抗がん剤より高い治療効果を示し、それにより予後が改善したことで現在、EGFR阻害剤単剤は標準治療の一つとなっています。しかしながらEGFR阻害剤でも予後不良な集団が存在します。悪性胸水合併症例はその一つです。悪性胸水合併肺癌は胸水中や血液中のVEGF (血管内皮細胞増殖因子)濃度が高く、VEGFが癌細胞の薬剤耐性に寄与するため、悪性胸水非合併例と比較して治療効果や予後が不良です。このような集団に対してEGFR阻害剤単剤による治療は十分でなく、新たな治療開発が必要であると考え、EGFR阻害剤であるエルロチニブと血管新生阻害剤ラムシルマブの併用療法による有効性を検証するため、多施設共同の第II相試験を計画、立案し、現在17施設で臨床研究を行っています。

進行期肺腺癌患者におけるTTF-1発現と免疫チェックポイント阻害剤の治療効果との関連性

TTF-1は多くの肺腺癌で検出される蛋白ですが、TTF-1が免疫療法に及ぼす影響については分かっていません。そこで、私たちはTTF-1の発現と免疫チェックポイント阻害剤の治療効果との関連性を明らかにするために多施設後ろ向き研究を実施しました。大阪公立大学、石切生喜病院、ベルランド総合病院で2015年12月~2020年7月の間に免疫チェックポイント阻害剤の単剤治療を受けた進行期肺腺癌患者さんにおけるTTF-1発現と治療効果との関連性を検討したところ、TTF-1を発現している肺腺癌の方では免疫チェックポイント阻害剤単剤治療の効果がTTF-1を発現していない方よりも高い事が分かりました。TTF-1は肺癌診療で日常的に測定されている蛋白であるため、この研究結果は患者さんの治療方針の決定に役立てることが出来ると考えます。

Estrogen Receptorと発癌についての分子疫学的研究

非小細胞肺癌の約4人に1人は非喫煙者でそのほとんどが女性であることから女性ホルモンが非小細胞肺癌の発生に関わる可能性が示唆されていますが、報告が少なく詳細は明らかとはなっていません。非小細胞肺癌患者さんの手術検体を用いてEstrogen Receptor、がん遺伝子解析を行い、また臨床データ、環境因子を統合して統計解析し、Estrogen Receptorが非小細胞肺癌の発癌へ及ぼす影響を分子疫学的に解析する研究を行っています。

臨床への取り組み

臨床腫瘍学の診療は主に化学療法センターが中心ですが、関連診療科の病棟も使用して入院化学療法も実施しています。
外来化学療法は、専門の医師以外に看護師、薬剤師、MSW、事務職員など協同で抗がん剤治療を行っています。化学療法センターは化学療法委員会を運営し、病院全体の薬物療法が安全かつ適切に実施される事を目的に院内におけるがん治療の中心的役割を担っています。
院内の化学療法レジメン検討委員会で新規治療レジメン (スケジュール)の承認、化学療法センターの円滑な運営活動や免疫チェックポイント阻害剤による有害事象の院内連携構築などの役割を担っています。治療レジメンは承認されたもののみ施行可能で、実際の抗がん剤投与判断の可否や施行にあたっては電子カルテ上で行われチームの医師、薬剤師、看護師らが一人ひとりの患者についてさらにチェックを重ねています。このように十分なチェック機能が働くシステムになっており、治療を受ける患者の安全性確保および質の高い化学療法を提供することを目的としています。また、外科や放射線治療科の医師らと呼吸器腫瘍や大腸がん等のキャンサーボードにも参加し、集学的治療における治療方針決定にも関わっております。
また、がん薬物療法専門医養成をはじめ、がん専門看護師、がん専門薬剤師の育成という教育の面でも大学病院の中で重要な役割を果たしています。さらに、化学療法において地域連携クリティカルパスにより地域の基幹病院とのがん化学療法の連携をはかっています。
緩和ケア専従医を中心に院内外に緩和ケアを提供しており、さらに2022年4月より緩和ケアセンター開設に伴い活動範囲を広げていく予定です。

スタッフ

教授 川口 知哉
准教授 金田 裕靖
講師 中尾 吉孝、澤 兼士
病院講師 谷 陽子

 

参考写真

Clinical Oncology1

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