病因診断科学
基本情報
健康長寿医科学講座 病因診断科学
代表者 樋口 真人教授
【設立と目的】
病因診断科学は、認知症などの神経変性疾患の病態解明および診断バイオマーカー開発を主な目的として、2023年4月に開設されました。脳内で進行する変性疾患のメカニズムを分子・細胞レベルから明らかにし、その知見に基づいた新たな診断法の確立に取り組むことで、認知症をできるだけ早期に発見し、適切な治療を導入することを目標としています。
【大阪健康長寿医科学センターとの関係】
大阪健康長寿医科学センター(大阪長寿)は、健康寿命の延伸と認知症克服を目指す先進的かつ学際的な研究拠点であり、2027年5月に開設が予定されています。本研究室は、そのセンターにおける基幹講座の一つとして開設に先立ち設置され、認知症研究の主軸を担います。センター内で、病院と研究所の連携により、基礎研究から臨床応用まで一貫した研究開発環境の構築に寄与し、社会へ還元できる成果創出を目指しています。
【共同講座との連携とトランスレーショナルリサーチ】
本研究室と対をなす「神経疾患制御学」講座が設置されており、こちらは認知症の治療法開発を主目的としています。双方の講座が緊密に連携し、トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)を強力に推進することで、基礎科学の知見を新たな診断法・治療法へと結びつけています。この協働体制により、認知症の病態解明から治療法開発までシームレスにつなぐ研究プロジェクトを展開し、将来的な疾患克服への道筋を切り拓いています。また、国内外の共同研究機関とも密に協力し、大阪長寿の拠点としての役割を具現化します。
- 場所
- 学舎 17階
- 連絡先
- TEL:06-6645-3911(or3912) MAIL:t22651k@omu.ac.jp
教育方針
学部教育
病因診断科学における学部教育では、神経病理学や分子生物学を統合した視点から、疾患の成り立ちと診断・治療法を理解する力を養うことを重視しています。臨床に直結する知識と論理的思考を育む教育を通じて、次世代の医療人材の育成に貢献します。
研究指導
大学院生・若手研究者の研究指導においては、自ら問いを立て、仮説を構築し、実験によってその検証を行う力を育むことを目指しています。 研究を通じて得られる知見や技術を、臨床応用ひいては社会実装につなげる視点も重視しています。
研究について
概要
本研究室の主な研究テーマは以下の通りです。
1.認知症の病態メカニズムに関する深部理解
認知症の病態メカニズムを分子・細胞レベルで深く解明することに注力しています。アルツハイマー病をはじめとする認知症の脳内変化を分子レベル・機能レベルで詳細に解析し、疾患の進行メカニズムや発症要因を明らかにします。
2.病態メカニズムに基づく診断バイオマーカーの開発および新規治療標的の探索
病態メカニズムに基づく診断バイオマーカーの開発および新規治療標的の探索を行っています。特に、診断バイオマーカー開発の分野では次の技術開発に取り組んでいます。
- 病態分子を可視化する光・MRI・PETイメージング技術の開発
- 病態分子を体液中で捉える超高感度・迅速・低コスト測定法の開発
これらの研究を通じて、認知症病態のさらなる解明と革新的な診断技術の創出を図り、治療法の開発へ役立てることを目指しています。研究室全体で基礎から臨床応用・実用化まで一貫した取り組みを推進し、健康寿命の延伸と認知症の克服に貢献します。
教室を代表する業績
2025年
- Higuchi M. Tagai K. Takahata K. Endo H. Advances in imaging of protein aggregates in the brain. Nat Rev Neurol 2025
- Kurose S. Moriguchi S. Kubota M. Tagai K. Momota Y. Ichihashi M. Sano Y. Endo H. Hirata K. Kataoka Y. Goto R. Mashima Y. Yamamoto Y. Suzuki H. Nakajima S. Mizutani M. Sano T. Kawamura K. Zhang M.-R. Tatebe H. Tokuda T. Onaya M. Mimura M. Sahara N. Takahashi H. Uchida H. Takao M. Meyer J.H. Higuchi M. Takahata K. Diverse tau pathologies in late-life mood disorders revealed by PET and autopsy assays. Alzheimers Dement 2025
2024年
- Tagai K. Tatebe H. Matsuura S. Hong Z. Kokubo N. Matsuoka K. Endo H. Oyama A. Hirata K. Shinotoh H. Kataoka Y. Matsumoto H. Oya M. Kurose S. Takahata K. Ichihashi M. Kubota M. Seki C. Shimada H. Takado Y. Kawamura K. Zhang MR. Soeda Y. Takashima A. Higuchi M. Tokuda T. A novel plasma p-tau181 assay as a specific biomarker of tau pathology in Alzheimer's disease. Transl Neurodegener. 2024.
- Endo H. Ono M. Takado Y. Matsuoka K. Takahashi M. Tagai K. Kataoka Y. Hirata K. Takahata K. Seki C. Kokubo N. Fujinaga M. Mori W. Nagai Y. Mimura K. Kumata K. Kikuchi T. Shimozawa A. Mishra SK. Yamaguchi Y. Shimizu H. Kakita A. Takuwa H. Shinotoh H. Shimada H. Kimura Y. Ichise M. Suhara T. Minamimoto T. Sahara N. Kawamura K. Zhang MR. Hasegawa M. Higuchi M. Imaging α-synuclein pathologies in animal models and patients with Parkinson's and related diseases. Neuron. 2024
2022年
- Uemura MT. Robinson JL. Cousins KAQ. Tropea TF. Kargilis DC. McBride JD. Suh E. Xie SX. Xu Y. Porta S. Uemura N. Van Deerlin VM. Wolk DA. Irwin DJ. Brunden KR. Lee VM. Lee EB. Trojanowski JQ. Distinct characteristics of limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy in Lewy body disease. Acta Neuropathol. 2022
- Ono M. Komatsu M. Ji B. Takado Y. Shimojo M. Minamihisamatsu T. Warabi E. Yanagawa T. Matsumoto G. Aoki I. Kanaan NM. Suhara T. Sahara N. Higuchi M. Central role for p62/SQSTM1 in the elimination of toxic tau species in a mouse model of tauopathy Aging Cell. 2022
主な研究内容
現在の主な研究テーマ
脳血管およびグリア病態からセノインフラメーションへの進展という概念に基づく、認知症の病態解明と早期診断・治療戦略の構築
認知症の原因とされる主要な病理タンパク質(アミロイドβ、タウ、αシヌクレイン、TDP-43など)は、本来の生理的機能を逸脱し、異常に重合・凝集・蓄積することで神経細胞に障害をもたらします。さらに、これらの凝集体は神経細胞間を伝播し、脳内で病態を拡大させ、疾患の進行に深く関与します。
私たちはこの進行過程における重要な要素として、炎症と細胞老化の連関による「セノインフラメーション=セネッセンス(老化)+インフラメーション(炎症)」の概念を提唱しています。本来は脳環境を維持する「守護者」として働くグリア細胞や脳の境界領域の細胞が、何らかのきっかけで「破壊者」へと機能転換し、病的タンパク質の凝集や神経障害を誘発すると考えられます。私たちはこの現象を検証し、そのスイッチング機構のメカニズム解明に取り組んでいます。
特に、タウ病変が生じる認知症モデル動物で、脳の「インターフェース」である血管とその周囲の細胞のダイナミックな変化が、病態の進行に大きな影響を及ぼすことを見出しています。これを手がかりとして、脳内「セノインフラメーション」を制御する鍵分子の同定を試みています。
将来的には、これらの鍵分子や関連物質を標的として、認知症の超早期診断マーカーならびに病態進行のマーカーの開発や、新たな疾患修飾療法の創出につなげることを目指しています。
脳内タンパク質凝集体および神経炎症を捉える新規PETトレーサーの開発と応用
認知症病態の解明と早期診断に向けて、病理学的標的を可視化する新たなPET(ポジトロン断層撮影)トレーサーの開発を、量子科学技術研究開発機構(QST)と連携して進めています。
本研究では、脳内のタンパク質凝集体や神経炎症に関連する新規分子を標的としたPETトレーサーの開発・応用により、認知症の超早期診断、鑑別診断、治療・予防介入のタイミングの最適化を目指しています。
製薬企業や関西圏をはじめとする全国の研究機関・医療機関と連携し、PETトレーサー開発、臨床試験、実用化を進めるとともに、この技術を用いて治療薬の開発を促進します。
認知症性疾患・神経変性疾患の体液バイオマーカーの開発と検証
認知症の超早期診断を実現するため、血液などの体液バイオマーカーの開発は、国際的にも注目される研究領域です。
当教室のスタッフはこれまでに、血液中のタウタンパク質およびその断片、TDP-43などを測定可能なアッセイ系を世界に先駆けて開発してきました。
私たちのバイオマーカー研究の大きな特長は、PETトレーサー開発と連動している点にあります。つまり、PET画像により脳内病態が明確に確認された患者の体液試料(血液・髄液)を用いて、バイオマーカーの正確な検証が可能であるという、他施設にはない大きなアドバンテージを有しています。
今後は、この強みを活かし、より多項目にわたる血液バイオマーカーの開発・検証を推進していきます。
臨床への取り組み
当教室は病院における診療に直接的には関わっていませんが、数多くの大学・研究所・関連病院、ならびに製薬企業・検査企業と連携し、臨床研究や臨床試験に取り組んでいます。これらのプロジェクトには医師を含む多分野の人材が必要となります。
スタッフ
教授 | 樋口 真人 |
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特任教授 | 柴田 利彦 |
特任教授 | 徳田 隆彦 |
准教授 | 水間 広 |
講師 | 上村 麻衣子 |
特任研究員 | 西原 明美 |
秘書 | 高木 和美 |