血液腫瘍制御学

基本情報

臓器器官病態内科学講座 血液腫瘍制御学

代表者 中前 博久教授

血液腫瘍制御学講座におきましては、造血器悪性腫瘍を中心に、診療、臨床研究、ならびに基礎研究を幅広く展開しております。
診療部門である血液内科・造血細胞移植科におきましては、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの造血器悪性腫瘍に対する診断と治療に注力しており、特に、厚生労働大臣より指定を受けた造血幹細胞移植推進拠点病院として、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植を含む多様な造血細胞移植を、各種血液疾患に対して積極的に実施しております。また、造血細胞移植に関しては、多職種から成る移植サポートチームが結集し、各患者さまに最適化された包括的なケアを提供する体制を整えております。
加えて、移植後シクロホスファミドを用いたHLA適合および不適合移植、さらにキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法といった最先端医療の導入にも取り組んでおります。あわせて、厚生労働科学研究や新規治療薬の国際共同治験にも積極的に参画し、革新的な医療の発展に寄与しております。
研究活動におきましても、治療成績のさらなる向上を目指し、造血細胞移植法の最適化、移植関連合併症の発症機序の解明、予測・予防・早期診断法の開発、ならびに新規治療法の確立に関する研究を多角的に推進しております。また、CAR-T細胞療法に関する研究にも注力し、臨床研究と基礎研究の両面から先進的な成果を目指しております。

グループ 9367

 

場所
学舎 10階
連絡先
TEL:06-6645-3881 MAIL:hirohisa(at)omu.ac.jp
*(at) は @ に置き換えて下さい。

 

教育方針

学部教育

  • 講義(座学):
    本講座では、血液疾患の診断および治療に関する包括的な知識と技能の修得を目指し、臨床検査医学、血液疾患の分子病態学、最新の薬物治療、さらには造血細胞移植法に至るまで、非常に広範な領域を網羅した体系的な講義を行っております。講義には、当講座の教員に加え、各分野の外部専門家を招聘し、より実践的かつ先進的な視点を取り入れた内容を提供しております。さらに、受動的な学修にとどまらず、実臨床に基づいた事例を用いた臨床推論形式の課題に取り組む双方向型授業を積極的に取り入れており、知識の深化のみならず、思考力・判断力・応用力の涵養にも力を注いでおります。
  • 実習:
    臨床実習においては、外来診療および病棟実習を通じて血液疾患患者を実際に担当していただきます。クリニカル・クラークシップの枠組みのもと、教員をはじめ、チューター、大学院生、研究医など多職種の指導陣の下で、学生の自主性と主体性を尊重した実習を行っております。受講者は医療チームの一員として能動的に診療に参加し、講義および書籍で得た知識を臨床の現場で実際に応用することで、疾患の理解を深めるとともに、患者との信頼関係の構築や医療倫理の涵養といった、臨床医として不可欠な資質を実地に体得することを目指します。また、中心静脈カテーテル挿入術など、研修医レベルで求められる基本的な診療手技の修得も目標に掲げ、より高度な医療実践能力の育成を図っております。また、血液疾患という難治性疾患を有する患者と長期的かつ密接に関わることを通じて、治療の困難さに直面する一方で、その中にある希望や達成感、そして血液診療の本質的なやりがいを肌で感じ取っていただくことを重要な学びの一環と位置づけております。

 

臨床教育(研修医の育成)

  • 血液疾患に対する化学療法を中心とした標準的治療症例については、十分な経験と見識を備えた上級医とともに診療にあたる体制をとっております。受け持ち患者に関しては、病棟カンファレンスにおいて、活発な議論を通じて、診断の精緻化、病態の深い理解、ならびに適切な検査・治療方針の策定を行っております。これにより、血液内科医として不可欠な臨床思考プロセス、すなわち論理的推論、エビデンスに基づく意思決定、患者中心のアプローチなどを体系的に習得することを重視しております。
    一定の経験と臨床的熟練を積んだ後には、より高度な専門的知識と判断力を要する造血細胞移植症例を担当していただき、重篤な合併症の対応や複雑な意思決定を通じて、臨床問題解決能力のさらなる向上を図ってまいります。これらのプロセスは、血液内科医としての成長を促す極めて重要な教育機会であると捉えております。
    加えて、上級医の丁寧な指導のもと、中心静脈カテーテル挿入術、骨髄穿刺、腰椎穿刺、さらには心臓および腹部超音波検査といった、内科診療における基本的かつ重要な手技を数多く経験することにより、早期に実地診療において自立可能な診療能力の習得を目指しております。
    さらに、他診療科からのコンサルテーション依頼症例に対しては、共観医として積極的に関与することで、血液内科の枠を超えた全人的かつ包括的な内科診療の理解を深め、多角的かつ柔軟な臨床判断力を育成しております。これにより、血液内科医としての専門性と同時に、幅広い視野と総合的な内科的対応力を兼ね備えた医師の育成を目指しています。
  • 当科は厚生労働大臣より指定を受けた造血幹細胞移植推進拠点病院として、専門性の高い医療人材の育成にも尽力しております。日本造血・免疫細胞療法学会をはじめとする関連学会が認定する専門医、認定看護師、移植コーディネーター(HCTC)に対する指導・研修体制を整備しているほか、管理栄養士や薬剤師といった医療従事者に対しても、移植医療に関する体系的かつ実践的な教育を実施しております。
    こうした多職種にわたる教育的取り組みを通じて、チーム医療の質的向上と持続的発展を支えております。

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研究指導

文部科学省の補助事業である「がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン」に基づく大学院課程においては、受講生が単なるがん診療の実践者にとどまらず、より高次の専門性を有する人材として成長できるよう指導を行っております。すなわち、がん専門医、血液専門医、ならびに造血細胞移植認定医としての高度な臨床技能の修得に加え、臨床研究における科学的思考と倫理的視座を養い、自ら研究課題を設定し、研究計画の立案、デザイン、実施、データ解析、研究成果の論文化といった一連のプロセスを主体的に遂行できる能力の養成を重視しています。最終的には、将来、独立した「がん臨床研究の指導者」として、学術的にも社会的にも貢献し得る人材の育成を目指し、包括的かつ実践的な教育指導に努めております。

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研究について

概要

造血器悪性腫瘍の根治および患者の生活の質(QOL)の飛躍的な向上を目指し、当科では常に臨床の最前線に立脚した研究を推進しております。具体的には、より安全かつ有効な新規造血細胞移植法の確立、同種造血細胞移植に伴う合併症の予防・早期診断・治療法の開発、疾患特異的な免疫機構の解明など、多岐にわたる課題に取り組んでいます。こうした研究は、基礎医学と臨床医学の双方の視点から柔軟かつ有機的に展開しており、真に実臨床に貢献し得る成果の創出を目指しております。
とりわけ当科では、独自に設置した「血液腫瘍臨床研究センター」において、経験豊富な専門スタッフによる臨床研究支援体制を整備し、倫理的・科学的観点から高水準の臨床研究を多数遂行してまいりました。また、厚生労働科学研究など、我が国の医療の未来を担う多施設共同研究にも積極的に参画しており、国内外の研究ネットワークの中核としての役割も果たしております。

教室を代表する業績

  • Moriguchi M, et al. Comparison of HLA-haploidentical donors with post-transplant cyclophosphamide versus HLA-matched unrelated donors in peripheral blood stem cell transplantation for acute myeloid leukaemia. Br J Haematol. 2024;205(6):2376-2386.
  • Nagasaki J, et al. T cells with high BCL-2 expression induced by venetoclax impact anti-leukemic immunity "graft-versus-leukemia effects". Blood Cancer J. 2024 ;14(1):79.
  • Ido K, et al. Effect of peptide-binding motif on survival of HLA-haploidentical transplantation with post-transplant cyclophosphamide. Br J Haematol. 2024;205(3):1077-1096.
  • Nakamae H, et al. A Prospective Study of an HLA-Haploidentical Peripheral Blood Stem Cell Transplantation Regimen Based on Modification of the Dose of Posttransplant Cyclophosphamide for Poor Prognosis or Refractory Hematological Malignancies. Cell Transplant. 2022 Jan-Dec;31
  • Nakamae H, et al. A phase II study of post-transplant cyclophosphamide combined with tacrolimus for GVHD prophylaxis after HLA-matched related/unrelated allogeneic hematopoietic stem cell transplantation. Int J Hematol. 2022;115(1):77-86.
  • Sakatoku K, et al. Immunomodulatory and direct activities of ropeginterferon alfa-2b on cancer cells in mouse models of leukemia. Cancer Sci. 2022 Apr 20
  • Ido K, et al. Effect of Donor NKG2D Polymorphism on Relapse after Haploidentical Transplantation with Post-Transplantation Cyclophosphamide. Transplant Cell Ther. 2022, 28:20.el-20.e10.
  • Okamura H, et al. Early Elevation of Complement Factor Ba Is a Predictive Biomaker for Transplant-Associated Thrombotic Microangiopathy. Front Immunol. 2021, 12:695037.
  • Okamura H, et al. Interactive Web Application for Plotting Personalized Prognosis Prediction Curves in Allogeneic Hematopoietic Cell Transplantation Using Machine Learning. Transplantation. 2021, 105:1090-1096.
  • Okamura H, et al. A noninvasive diagnostic approach using per-rectal portal scintigraphy for sinusoidal obstruction syndrome after allogeneic hematopoietic cell transplantation. Bone Marrow Transplant. 2020;55(2):470-472.
  • Ido K, et al. Donor KIR2DS1-Mediated Decreased Relapse and Improved Survival Depending on Remission Status at HLA-Haploidentical Transplantation with Post-Transplantation Cyclophosphamide. Biol Blood Marrow Transplant. 2020;26(4):723-733.
  • Nishimoto M, et al. Clinical Impacts of Using Serum IL-6 Level as an Indicator of Cytokine Release Syndrome after HLA-Haploidentical Transplantation with Post-Transplantation Cyclophosphamide. Biol Blood Marrow Transplant. 2019, 25:2061-2069.
  • Nishimoto M, et al. Drug interactions and safety profiles with concomitant use of caspofungin and calcineurin inhibitors in allogeneic haematopoietic cell transplantation. Br J Clin Pharmacol. 2017 ;83:2000-2007.
  • Nakane T, et al. Use of mycophenolate mofetil and a calcineurin inhibitor in allogeneic hematopoietic stem-cell transplantation from HLA-matched siblings or unrelated volunteer donors: Japanese multicenter phase II trials. Int J Hematol. 2017;105(4):485-496.
  • Nishimoto M, et al. Response-guided therapy for steroid-refractory acute GVHD starting with very-low-dose antithymocyte globulin. Exp Hematol. 2015, 43:177-179.
  • Nishimoto M, et al. Efficacy and safety of intra-arterial steroid infusions in patients with steroid-resistant gastrointestinal acute graft-versus-host disease. Exp Hematol.2015, 43:995-1000
  • Nakamae H, et al. HLA haplo-identical peripheral blood stem cell transplantation using reduced dose of post-transplantation cyclophosphamide for poor prognosis or refractory leukemia and myelodysplastic syndrome. Exp Hematol. 2015, 43:921-929.e1
  • Nishimoto M, et al. Feasibility of umbilical cord blood transplantation with a myeloablative, reduced toxicity-conditioning regimen. Bone Marrow Transplant. 2014, 49:980-981
  • Nishimoto M, et al. Risk factors affecting cardiac left-ventricular hypertrophy and systolic and diastolic function in the chronic phase of allogeneic hematopoietic cell transplantation. Bone Marrow Transplant. 2013,48:581-562
  • Okamura H, et al. Use of per Rectal Portal Scintigraphy to Detect Portal Hypertension in Sinusoidal Obstructive Syndrome following Unrelated Cord Blood Transplantation. Acta Haematol. 2013, 130:83-86
  • Koh H, et al. Factors that contribute to long-term survival in patients with leukemia not in remission at allogeneic hematopoietic cell transplantation. J Exp Clin Cancer ResHematol. 2011, 10;30-36
  • Nakane T, et al. Reduced-intensity conditioning by fludarabine/busulfan without additional irradiation or T-cell depletion leads to low non-relapse mortality in unrelated bone marrow transplantation. Int J Hematol. 2011,93:509-516
  • Nakane T, et al. Prognostic value of serum surfactant protein D level prior to transplant for the development of bronchiolitis obliterans syndrome and idiopathic pneumonia syndrome following allogeneic hematopoietic stem cell transplantation. Bone Marrow Transplant. 2008, 42:43-49
  • Nakamae H, et al. Risk factor analysis for thrombotic microangiopathy after reduced intensity or myeloablative allogeneic hematopoietic stem cell transplantation. Am J Hematol. 2006, 81:525-531
  • Nakamae H, et al. Notable effects of angiotensin II receptor blocker, Valsartan, on acute cardiotoxic changes following standard chemotherapy with cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, and prednisolone. Cancer. 2005, 104:2492-2498
  • Nakamae H, et al. QT dispersion as a predictor of acute heart failure after high-dose cyclophosphamide. Lancet. 2000, 355(9206):805-806

主な研究内容

現在の主な研究テーマ

新規移植法の開発

血縁ドナーから適切なドナーが見つかる確率はおよそ20%程度で、移植適応のある多くの血液疾患患者は骨髄バンクでドナーコーディネートを行うことになりますが、ドナー選定までの日数に時間がかかるため、移植の好機を逸してしまうケースが少なからずありました。
このような現状から、ドナープールの拡大のための研究に期待が寄せられてきたため、当科では移植後大量のシクロホスファミド(PTCy)を用いた、血縁HLA半合致同種末梢血幹細胞移植を国内ではじめて導入して、前向き介入臨床研究として取り組んできました。これにより、PTCyを用いることでHLAが不一致の移植においても良好な生着が得られ、移植後の免疫再構築も良好であること、また、慢性GVHDの発症率が低く、移植後の生活の質(QOL)の向上にもつながる可能性があることを明らかにしました。加えて、PTCy法を用いて、HLA一致の血縁・非血縁ドナーからの移植も安全に行うことができることが分かりました。引き続き、臨床研究によって、PTCyの作用機序の解明に精力的に取りくんでいます。さらに当科では、HLA不一致の非血縁者ドナーからの移植でも、PTCyを用いて安全に移植することができる方法を考察し、現在、その有効性を明らかにするための臨床研究を行っています。

移植後合併症克服のための研究

・同種造血細胞移植後の急性移植片対宿主病(急性GVHD)や原疾患の再発は重要な合併症であり、移植後の生存率に大きくかかわります。移植予後改善のための取り組みとしてGVHDによる治療関連死亡を減少させることや、再発のリスクを正確に予測することは意義のあるアプローチです。こうした背景を元に我々は以下の臨床研究を遂行しています。

・移植後再発患者における免疫細胞プロファイリングを解明する研究
難治性血液悪性腫瘍に対して同種造血細胞移植は唯一の根治療法ですが、その最大の治療失敗要因は現病の再発です。細胞免疫療法である同種造血細胞移植において、移植後に再発した際における、体内の免疫細胞の動態を調べることは移植後再発のメカニズム解明に役立ち、また、再発に対する新しい治療方法や新規治療薬の開発につながると考えています。そのため、移植後再発患者の免疫動態を継時的に調べる研究を行い、新たな治療方針の確立を目指しています。

・機械学習アルゴリズムを用いた患者個別の移植法の最適化に関する研究
蓄積された過去の移植診療データを機械学習モデルに学習させることで、これから移植を行う個々の患者条件に応じて、患者個別に最適な移植方法(前処置・ドナー・GVHD予防法の選択など)を推奨するアルゴリズムを開発し、機械学習やAIが移植予後改善に寄与できるか否か、を検討する研究に取り組んでいます。

・移植合併症早期発見のための造血細胞移植AIモバイルアプリケーションの開発
造血細胞移植後の外来患者に、自身のスマートフォンなどから移植専用モバイルアプリケーションを通じて日々の健康状態を入力してもらうことで、移植合併症を早期発見し、早期治療が可能となるAIアプリケーションの開発を、弊学情報学研究科と共に取り組んでいます。

・HLA半合致移植とそのドナー選択における組織適合性に関する研究
当科は本邦でいち早く、PTCyを用いたGVHD予防法を導入し、ハプロ移植を行ってきました。ハプロ移植では、患者の両親や子供を含む親族がドナーとなりうるため、ドナー候補者が複数現れることも珍しくありません。一方で、どの候補者に実際のドナーになっていただくことが、移植後の生存率を最も改善させるのかは明らかにされていません。そこで、我々はHLA、KIR、NKG2Dといった組織適合性に関連した分子を患者とドナーの両方で解析することで、腫瘍再発や非再発死亡と関連のある因子を同定する研究を行ってきました。現在、これらの知見をもとに、最適なドナーを選択すためのアルゴリズムを検証するための前向き臨床研究を実施しています。

・移植後慢性期における心機能評価および心機能障害リスク因子の研究
移植において、新規薬剤や移植法、支持療法の発展に伴い、移植適応が拡大してきましたが、慢性期における合併症に関しては、成人においてまだ十分に評価されてません。心機能障害は移植治療に関連した抗がん剤や放射線照射、免疫抑制剤により誘発される可能性がありますが、慢性期における影響を分析した研究は限られています。近年、移植後大量シクロホスファミドを用いたHLA半合致移植療法が世界的にも急速に拡大していますが、シクロホスファミドは短期的には用量依存的に心筋傷害を引き起こすことが知られており、長期的な心機能への影響について解明することを目的とし前向き臨床研究を実施しています。

・移植後のワクチンで予防可能な疾患に対する最適なワクチン接種法の研究
移植後はドナーによる免疫再構築が起こる過程において、獲得免疫の消失、低下による免疫不全状態となるため、麻疹・風疹・ムンプスなどワクチンで予防可能な疾患に対するワクチンの予防接種が推奨されています。ただ、患者ごとにより、ウイルス抗体価の推移は異なっており、抗体価低下の因子については十分なデータがありません。また、ワクチン接種のタイミングや接種方法についても確立されていません。そこで我々は移植後のウイルス抗体価の評価やワクチン接種後の抗体価上昇、免疫細胞への影響などについて検証する前向き臨床研究を実施しています。

移植後再発抑制に関する研究

・同種造血細胞移植 (allo-HCT) は血液腫瘍に有効な治療ですが、早期再発も多く長期奏功の本態解明が急がれます。我々は不明点が多いAllo-HCT後の移植片対白血病(GVL)効果に着目してBCL-2阻害薬が奏功したallo-HCT後再発白血病患者の免疫細胞を解析し、ドナー由来BCL-2高発現CD8陽性T細胞が腫瘍特異的で強い細胞傷害活性を有し、GVL効果の中心を担っている可能性を示しました。さらにこれらのBCL-2高発現T細胞は長期GVL効果の維持に関与すると考えられたため、現在それらの検証を行なっています。本研究はGVL効果の本体解明、新規バイオマーカー開発や次世代細胞療法への応用が期待されます。 

・CD4陽性T細胞の腫瘍免疫における機能的意義と制御機構の解明に関する研究
移植における抗腫瘍作用は移植片により惹起される移植片対白血病/リンパ腫効果によってもたらされ、従来、CD8陽性T細胞やNK細胞がその中心的役割を担っていると考えられてきました。しかし、移植後に再発した急性白血病細胞ではMHC class-IIの発現が低下していることや、遺伝子改変キメラ抗原受容体T細胞(Chimeric Antigen Receptor T, CAR-T)療法の長期奏功にCD4陽性T細胞が重要であることなどから、MHC class-IIを介した細胞傷害性CD4陽性T細胞による抗腫瘍作用は長期的な移植片対白血病/リンパ腫効果の維持に重要な役割を果たしている可能性があります。そこで我々は移植後の抗腫瘍免疫応答をCD4陽性T細胞に着目して解析を行い、CD4陽性T細胞によって惹起されるCD8陽性T細胞、NK細胞、B細胞に起因する抗腫瘍作用や、細胞傷害性CD4陽性T細胞が引き起こす抗腫瘍免疫応答の本態を解明するために前向き臨床研究を行っています。

エピジェネティック変化による腫瘍増殖機構への影響を解明する研究

近年、腫瘍細胞におけるエピジェネティックな変化が予後に影響することが報告されているが、急性白血病・骨髄異形成症候群(MDS, myelodysplastic syndrome)においても同様に治療反応性や予後に影響を及ぼす可能性があると考えられています。しかし、その詳細なデータはまだ十分に存在しません。FMS-like tyrosine kinase 3 (FLT3)変異は急性骨髄性白血病(AML, acute myeloid leukemia)の約25~40%に見られるドライバー変異で、化学療法に抵抗性となることや化学療法後に再発を来しやすいことが知られております。FLT3のシグナル伝達を阻害するFLT3阻害剤が開発され、臨床においても使用可能ですが、その治療効果は限定的であり、FLT3阻害剤に対する不応性や抵抗性となる機序の解明が急がれます。そこで我々は千葉大学との共同研究のもと、FLT3変異を有するAMLにおける治療抵抗性のメカニズムを明らかにすることを目指し、エピジェネティックな制御に着目した解析を進めています。

マウスモデルを利用した基礎研究

臨床の現場において直面する課題や疑問を真に解決するためには、臨床情報の解析に基づく臨床研究のみでは限界があることも少なくありません。こうした複雑な病態の本質に迫り、その根源的なメカニズムを解明するために、我々は以下に示すようなマウス移植モデルなどを用いた基礎研究にも積極的に取り組んでおります。

・ハプロ移植における免疫学的なメカニズムを解明する研究
臨床で用いるハプロ移植を評価できるモデルとして、B6D2F1マウスの骨髄・脾臓細胞をB6マウスへ移植するマウスモデルを確立しました。このモデルを用いて、ホストおよびドナー由来の免疫担当細胞の活性化、免疫再構築がGVHD発症等にどのように関与しているかを解析し、検討を行っています。

・移植後白血病再発に関わる免疫抑制因子の探索
造血細胞移植後の生存率は数十年の単位で改善してきています。しかし移植不成功の最大の原因は依然腫瘍再発であり、再発に対する介入治療の開発は喫緊の課題です。新規に開発された長期作用型のロペグインターフェロンは、骨髄増殖性腫瘍の治療において有望な結果を示しており、我々はロペグインターフェロンの直接的な腫瘍増殖抑制効果および免疫調節作用の両方から、その抗腫瘍作用機序を明らかにしました。オリジナルの白血病株を用いた予備実験で、移植後ドナーT細胞の不活化の原因となる宿主由来の因子の存在を見出しました。本研究の目的は、この因子を同定することを第一とします。さらにロペグインターフェロン投与によって、ドナーT細胞の免疫疲弊を解除し、白血病再発を抑制可能であるかを検証します。

多発性骨髄腫および関連疾患に関する研究

以前より、多発性骨髄腫は治癒困難な疾患として認識されてきましたが、2000年代以降から新規薬剤が複数登場し、長期生存する患者さんが大きく増加しました。しかし、薬剤への抵抗性を認めた患者さんでは、治療法の選択に難渋することも少なくありません。当科は関西骨髄腫フォーラムの幹事施設として関西圏の複数の施設と連携して多発性骨髄腫および関連疾患に関する疫学・治療成績・予後に関する研究に取り組んでおり、特に、治療成績向上を目的とした種々の臨床研究・治験を関連施設と連携して実施しており、新規薬剤の最適な使用方法を模索しています。

トランスレーショナルリサーチによるCAR-T細胞療法後の再発メカニズムの解明

CAR-T細胞療法はその有効性が証明され、血液悪性腫瘍に対する治療として広く使用されていますが、治療後に再発する患者さんも多く、再発メカニズムの解明が急がれます。我々はCAR-T細胞療法後の再発メカニズムを探索するために、CAR-T細胞療法をおこなった悪性リンパ腫患者さんの組織検体や血液検体をフローサイトメトリーや免疫染色で詳しく分析し、再発を引き起こす悪性リンパ腫の因子を複数同定しました。これらの臨床検体から同定した因子が再発を引き起こすメカニズムを検証するために、これらの因子を遺伝子導入した細胞株を用いてin vivo, in vitroのモデルでの基礎的な検証を行なっています。さらに本検証結果をもとに新規のCAR-T細胞を作成し、その治療効果を検証します。本研究により新規再発メカニズムを解明することで、CAR-T細胞治療の新規バイオマーカーや次世代CAR-T療法の開発につながると考えられます。

臨床への取り組み

血液内科・造血細胞移植科では、造血幹細胞移植推進拠点病院として各種血液疾患に対する標準的な血縁および非血縁ドナーからの造血細胞移植術(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)に加えて、HLA半合致(ハプロ)移植、HLA不適合移植に重点を置いています。
一方、他の疾患や治療にも十分に対応できるように、専門医師による関連病院ネットワークを構築しています。 当科では、科学的根拠に基づく標準的な治療を基盤としつつ、治療成績のさらなる向上をめざして、最先端の研究的治療や新規薬剤の国際共同治験、厚生労働科学研究をはじめとする国内外の研究機関との共同研究、ならびに当施設独自の探索的治療にも積極的に取り組んでおります。また、造血細胞移植においては、医師・看護師・薬剤師・HCTC等、多職種から構成される移植サポートチームが連携し、それぞれの患者さまの状態に最も即した、きめ細やかなケアを提供しております。

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スタッフ

教授 中前 博久
講師 中嶋 康博、西本 光孝
病院講師

長崎 譲慈、久野 雅智、井戸 健太郎
堀内 美令、中舎 洋輔、森口 慎