医化学

基本情報

分子生体医学講座 医化学

代表者 徳永 文稔教授

生化学教室は、昭和49年に第一と第二に分かれ、生化学教室の教授であった森澤成司先生が引き続き初代の第一生化学教室を主宰されました。その後、井上正康教授在任中(平成4年〜23年)に大学院重点化に伴い、第一生化学から分子病態学と名称変更されました。平成28年4月から徳永文稔教授が着任し、分子病態学を主宰しましたが、令和4年4月に大阪公立大学となったことを機に医化学へ名称変更しました。  

現在、医化学講座ではユビキチン系を主とする時空間特異的な翻訳後修飾の生化学・分子細胞生物学的解析と、その生理機能解析、疾患との関わりの解明を目指しています。特に、私たちが発見したLUBACユビキチンリガーゼによるユビキチンのN末端を介した新規「直鎖状ユビキチン鎖」は、炎症・免疫制御に重要なNF-κBシグナル制御に必須であることが明らかになってきました。LUBAC機能破綻によるNF-κBシグナルの脆弱性は、癌(多くの臓器における癌や血液の癌)、炎症性疾患(炎症性大腸炎、肝炎・肝硬変)、自己免疫疾患(関節リウマチ、SLE)、神経変性疾患(筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病)、生活習慣病(肥満、糖尿病)などに関わることが知られており、創薬標的としても高く注目されています。私たちは、LUBACによる直鎖状ユビキチン鎖生成が制御する細胞の生と死の制御機構、炎症・免疫応答への寄与、遺伝子欠損マウスを用いた個体レベルでの表現型解析、疾患との関連と治療薬開発を目指しています。

Fuminori Tokunaga

 

場所
学舎 16階
連絡先
TEL:06-6645-3720 MAIL:ftokunaga@omu.ac.jp

 

教育方針

学部教育

医化学講座は、1年生の「遺伝と遺伝子」及び「細胞生物学」講義、2年生の「遺伝医学」講義と「医学研究推進コース2(分子系実習・遺伝子コース)」、3年生の「医学研究推進コース3(修業実習)」を担当します。1年次の講義では、高校時に生物を履修していない学生も多いため、基礎生物的内容を中心に、医学における関連性を講義します。2年次講義では、臨床遺伝学における基礎・臨床の垂直統合を目指します。また、実習では、近年目覚ましい進展を遂げている分子生物学の重要性について理解を深めるように教育します。

 

臨床教育(研修医の育成)

該当はありません。

研究指導

大学院生においては、主に生化学・分子細胞生物学的手法を用いた最先端実験解析技術の指導を行い、その習得・実践を通して基礎医学研究を推進するとともに研究成果を国内外の学会や英語原著論文として発表できるように指導します。さらに、国内外で先導的な役割を果たす研究者との交流を深め、基礎医学研究の重要性を認識するよう活性化します。他大学からの大学院修士課程学生の参画も大いに歓迎し、基礎医学実験が習得できるよう指導します。また、学部学生においても、研究意欲の高い学生の研究室参画を歓迎し、論文講読や基礎的実験手技の指導を行い、将来的な基礎医学研究者育成を目指します。

研究について

概要

炎症、免疫制御に重要なNF-κBシグナル経路のユビキチン修飾を介した時空間特異的制御の基礎医化学的解析と各種疾患との関連を研究しています。

教室を代表する業績

  • Oikawa, D., Sato, Y., Ohtake, F., Komakura, K., Hanada, K., Sugawara, K., Terawaki, S., Mizukami, Y., Phuong, H. T., Iio, K., Obika, S., Fukushi, M., Irie, T., Tsuruta, D., Sakamoto, S., Tanaka, K., Saeki, Y., Fukai, S., and Tokunaga, F. (2020) Molecular bases for HOIPINs-mediated inhibition of LUBAC and innate immune responses. Commun Biol 3, 163
  • Oikawa, D., Hatanaka, N., Suzuki, T., and Tokunaga, F. (2020) Cellular and Mathematical Analyses of LUBAC Involvement in T Cell Receptor-Mediated NF-κB Activation Pathway. Front Immunol 11, 601926
  • Nakazawa, S., Oikawa, D., Ishii, R., Ayaki, T., Takahashi, H., Takeda, H., Ishitani, R., Kamei, K., Takeyoshi, I., Kawakami, H., Iwai, K., Hatada, I., Sawasaki, T., Ito, H., Nureki, O., and Tokunaga, F. (2016) Linear ubiquitination is involved in the pathogenesis of optineurin-associated amyotrophic lateral sclerosis. Nat Commun 7, 12547
  • Tokunaga, F., Nakagawa, T., Nakahara, M., Saeki, Y., Taniguchi, M., Sakata, S., Tanaka, K., Nakano, H., and Iwai, K. (2011) SHARPIN is a component of the NF-κB-activating linear ubiquitin chain assembly complex. Nature 471, 633-636
  • Tokunaga, F., Sakata, S., Saeki, Y., Satomi, Y., Kirisako, T., Kamei, K., Nakagawa, T., Kato, M., Murata, S., Yamaoka, S., Yamamoto, M., Akira, S., Takao, T., Tanaka, K., and Iwai, K. (2009) Involvement of linear polyubiquitylation of NEMO in NF-κB activation. Nat Cell Biol 11, 123-132

 

主な研究内容

現在の主な研究テーマ

直鎖状ユビキチン化を介した炎症・免疫シグナル制御と疾患の解明

NF-κBシグナルは、炎症応答や自然・獲得免疫において中枢的な役割を果たすシグナル伝達経路です。当研究室では、ユビキチンのN末端Metを介してユビキチンが連結した「直鎖状ポリユビキチン鎖」を特異的に生成するユビキチンリガーゼ(LUBAC)を発見し、炎症性サイトカイン刺激時に伴うNF-κB経路活性化にLUBACが必須であることを見出してきました。現在、LUBACが関与する自然・獲得免疫応答、MAPキナーゼ活性化経路、インターフェロン産生経路、細胞死を中心に基礎研究を進め、その破綻によって引き起こされるB細胞リンパ腫、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、肝炎、皮膚疾患なとの連関を明らかにします。

 

新規NF-κBシグナル制御因子の同定と機能解析

LUBACが生成する直鎖状ユビキチン鎖は、特異的タンパク質を集積させる足場として働きます。したがって、直鎖状ユビキチン鎖結合タンパク質は、炎症・免疫シグナルの制御因子として機能する可能性があり、当研究室では新規直鎖状ユビキチン結合タンパク質の同定を進めるとともに、それらの細胞機能解析を行っています。また、LUBACに結合してその機能を増強または減弱させるユビキチンリガーゼを各1種同定しており、その細胞機能解析やノックアウトマウスを用いた研究から、ユビキチンリガーゼのクロストークが炎症・免疫を制御するという新たなパラダイムを拓きつつあります。

創薬を目指したNF-κBシグナル制御性化合物の探索と生理機能解析

LUBACによる直鎖状ユビキチン鎖生成を介したNF-κB活性化は、細胞の生存や各種疾患との連関も深いため、重要な創薬標的の一つです。当研究室では、LUBACのユビキチンリガーゼとしての活性阻害剤(HOIPINs)を独創的に開発しました。現在さらに、直鎖状ユビキチン鎖とその結合タンパク質間の相互作用を抑制する化合物、タンパク質感相互作用阻害剤のスクリーニングを進めています。

脱ユビキチン化酵素の炎症・免疫制御における役割

ヒトでは100種の脱ユビキチン化酵素が存在し、ユビキチンリガーゼによって生成されたユビキチン鎖を分解することで負の制御を司りますが、当研究室ではこれらの脱ユビキチン化酵素cDNAライブラリーを独自に調製しており、炎症・免疫制御に関わる脱ユビキチン化酵素の同定を行っています。さらに、脱ユビキチン化酵素を標的とした化合物開発を通して、疾患治療を目指した創薬を視野に入れた研究を行っています。

分類不能型免疫不全症原因遺伝子の解析

分類不能型免疫不全症(Common Variable Immunodeficiency, CVID)は、複数サブクラスの抗体産生が不全になるため、易感染など免疫不全症を呈する難病であり、これまでに幾つかの原因遺伝子が同定されているものの、詳細な発症メカニズムは不明です。当研究室では、そのうちの1種について炎症・免疫応答、インターフェロン産生経路、アポトーシス、オートファジーとの関連を細胞レベルで解析するとともに、ノックアウトマウスの表現型解析を進めています。これによってCVIDの発症機構を解明し、新規創薬標的の同定を目指します。

スタッフ

教授 徳永 文稔
准教授 及川 大輔
助教 清水 康平
助教 翁 良徳

 

参考写真

Medical Biochemistry