寄生虫学
基本情報
都市医学講座 寄生虫学
代表者 城戸 康年教授(兼務)
寄生虫学分野は、1947年の医学専門学校時代に初代・田中英雄先生により生物学講座として開設されたことに始まります。同年には、大阪市立医科大学予科の公衆衛生学第3講座として衛生動物を扱う教室が誕生し、公衆衛生学医動物学教室と称されました。1955年の学制改革により大阪市立大学医学部医動物学教室となり、1972年には第2代・高田季久教授へと引き継がれ、1992年まで衛生動物学および原虫学の分野で日本の寄生虫学を牽引してきました。その後、ウイルス学講座の小倉壽教授による兼任の時期を経て、2010年に金子明教授が着任し、バヌアツやアフリカ等の流行地におけるマラリア撲滅を目指した国際的研究を中心に大きな発展を遂げました。
2022年の大阪公立大学への大学統合と同時に、城戸康年がウイルス学講座(兼寄生虫学講座)教授を拝命し、現在は両講座の教育および研究を一体的に統括しています。当分野では、伝統ある流行地での分子疫学研究や病原体の解析、トランスレーショナルリサーチを継続するとともに、旧来より行ってきた臨床現場からの寄生虫症に関するコンサルテーションにも積極的に対応しています。私たちは旧来の学問的枠組みを超え、ラボとフィールドを縦横無尽に駆け巡る「外交力ある」医師・研究者の育成に尽力してまいります。

- 場所
- 学舎 15階
- 連絡先
- TEL:06-6645-3761
- HP
教育方針
学部教育
生命や進化の深淵をのぞみ、世界の健康課題や公正に挑む
複雑な生活環を持ち、宿主や環境と密接に関わる寄生虫学は、病原体・人間・社会が織りなす生命の物語を読み解く学問です。病原体の向こうに広がる生態系の理を深く理解し、マラリアや顧みられない熱帯病(NTDs)という世界の不条理に挑む意志と、事象の根源を問う探究心を育みます。研究室配属の期間には、流行地のフィールドという理屈を超えた現実の中に学生を誘います。そこで目にする社会課題の重層的な構造を学ぶ経験は、将来どのような道に進もうとも揺らぐことのない、医師としての確固たる視座を形作ります。
臨床教育(研修医の育成)
該当なし
研究指導
世界が求める越境の知へ、ラボの精密とフィールドの躍動を
私たちは、既成の学問領域を越境し、多彩なアプローチを融合させることで、未踏の研究フロンティアを切り拓きます。
ラボには世界各地から志を同じくする若き才能が集い、多様な文化や価値観が交差するコスモポリタンな中で、互いの知性を刺激し合っています。緻密なデータサイエンスや実験を遂行するラボと、グローバル感染症の流行地の最前線フィールドを縦横無尽に奔り、多角的な視座から課題の本質に迫りたいと思っています。
研究について
概要
私たちは、世界三大感染症の一つであるマラリア、および顧みられない熱帯病(NTDs)の中でも甚大な被害をもたらすシャーガス病やアフリカトリパノソーマ症を主な対象としています。
コンゴ民主共和国や中米・エルサルバドルをはじめとする流行地での分子疫学研究により感染動態の真実を捉え、そこから得られた知見を新しい解析技術をを用いて深掘りします。病原体の巧妙な生存戦略や、宿主との精緻な相互作用を解明することで、次世代の診断法の確立や治療薬の開発を目指すトランスレーショナルリサーチを展開しています。現場で直面する課題をサイエンスの力で解決し、地球規模の健康課題の克服に挑みます。
教室を代表する業績
- Kalenda, N. K., et al. (2023). "Usefulness of seasonal malaria chemoprevention in the Sahel." Lancet Infect Dis 23(3): 269–270.
- Kayiba, N. K., et al. (2023). "The landscape of drug resistance in Plasmodium falciparum malaria in the Democratic Republic of Congo: a mapping systematic review." Trop Med Health 51(1): 64.
- Kayiba, N. K., et al. (2024). "Malaria infection among adults residing in a highly endemic region from the Democratic Republic of the Congo." Malar J 23(1): 82.
コンゴ民主共和国におけるマラリア研究
世界最大のマラリア流行国の一つであるコンゴ民主共和国(DRC)を中心に、排除に向けた多角的な研究を展開しています。これらの一連の成果は、従来の対策では見過ごされてきた「盲点」を浮き彫りにし、次世代の公衆衛生戦略を提案するものです。
マラリア対策の多くは、重症化リスクの高い小児や妊婦に重点が置かれてきました。しかし、DRCの高度流行地における調査では、マラリアが減少傾向にある現在でも、成人の60%以上にマラリア原虫が検出され、そのほとんどが無症候性であることが明らかになりました。これら「隠れた感染者」は、自覚症状がないまま蚊を介して原虫を供給し続ける主要な伝播リザーバーとなり、成人層を含めた新たな介入戦略が不可欠であることを提唱しています。
マラリア原虫の薬剤耐性はマラリア対策の中心的課題です。私たちはDRC全土における過去20年間の分子疫学データを網羅的に解析しました。その結果、かつての主力薬であったクロロキンに対する耐性(PfCRT変異)が減少傾向にある一方で、予防投与に用いられるSP剤への耐性(PfDHPS等)が広域に定着している現状を可視化しました。この全国規模の遺伝的ランドスケープの解明は、地域ごとに最適化された薬剤選択と、将来的なアルテミシニン耐性出現の監視に重要な基盤を提供しています。
- Michimuko-Nagahara, Y., et al. (2025). "Natural Reservoir of Trypanosoma cruzi Found in Triatomines Targeting Humans: Results from Nation-wide Vector Surveillance in El Salvador." Jma j 8(2): 432–443.
- Rodríguez, M. S., et al. (2022). "Re-emerging threat of Trypanosoma cruzi vector transmission in El Salvador, update from 2018 to 2020." Infect Dis Poverty 11(1): 89.
- Candray-Medina, K. S., et al. (2023). "Differential cardiomyocyte transcriptomic remodeling during in vitro Trypanosoma cruzi infection using laboratory strains provides implications on pathogenic host responses." Trop Med Health 51(1): 68.
シャーガス病の流行動態と心筋病態の解明
2018〜2020年の中米・エルサルバドルでの全国調査により、主要な媒介虫であるサシガメの生息状況とTrypanosoma cruzi感染率(約10%)を報告しました。かつて制圧されたと考えられていた伝播リスクが依然として高いことを示し、監視体制の再構築を促しました。さらに、次世代シーケンサー(NGS)を用いた吸血源解析を実施したところ、サシガメの約67%がヒトから吸血していることを突き止め、野生動物からヒトへの能動的な伝播サイクルが維持されていることを科学的に証明しました。
分子疫学研究のみならず、シャーガス心筋症を模倣する細胞モデルの構築を通した病態解明研究を進めています。異なる遺伝的特性を持つT. cruzi株(中南米と言っても、地域により病態の首座となる臓器が異なり、地域により病原性が異なります)が心筋細胞に与える影響を、トランスクリプトーム解析により比較しました。酸化ストレスや肥大関連経路の活性化が共通の病態基盤であることを解明し、重症化メカニズムの一端を明らかにしました。
- Shiba, T., et al. (2013). "Structure of the trypanosome cyanide-insensitive alternative oxidase." Proc Natl Acad Sci U S A 110(12): 4580–4585.
- Saimoto, H., et al. (2013). "Pharmacophore identification of ascofuranone, potent inhibitor of cyanide-insensitive alternative oxidase of Trypanosoma brucei." J Biochem 153(3): 267–273.
- Kido, Y., et al. (2010). "Purification and kinetic characterization of recombinant alternative oxidase from Trypanosoma brucei brucei." Biochim Biophys Acta 1797(4): 443–450.
エネルギー代謝を標的とした創薬研究
Trypanosoma bruceiの末端酸化酵素であるTrypanosoma Alternative Oxidase (TAO)が有望な薬剤標的になる得ることを端緒にして、その生化学的解析を実施し、立体構造解析に基づいた合理的な創薬研究を飛躍的に前進させ、医薬品開発研究の基盤を確立した研究となりました。同時に、TAO阻害剤であるアスコフラノン誘導体を合成し、構造活性相関研究を行い、より優れた医薬品候補物質の設計指針となりました。これらの非臨床試験段階での有効性を明らかにし、臨床試験を目指した薬剤開発研究を進めてきました。
その他
- Musyoka, K., et al. (2024). "Genetic variation present in the CYP3A4 gene in Ni-Vanuatu and Kenyan populations in malaria endemicity." Drug Metab Pharmacokinet 57: 101029.
- Okai, T., et al. (2024). "Plasmodium falciparum with pfhrp2 and pfhrp3 gene deletions in asymptomatic malaria infections in the Lake Victoria region, Kenya." Trop Med Health 52(1): 94.
- Omondi, P., et al. (2024). "Non-random distribution of Plasmodium Species infections and associated clinical features in children in the lake Victoria region, Kenya, 2012-2018." Trop Med Health 52(1): 52.
- Sekine, S., et al. (2024). "Tracing the origins of Plasmodium vivax resurgence after malaria elimination on Aneityum Island in Vanuatu." Commun Med (Lond) 4(1): 91.
主な研究内容
現在の主な研究テーマ
マラリア母子感染コホート研究
アフリカ諸国では周産期死亡率が日本の500倍以上に達しており、その最大の要因の一つがマラリアです。私たちはコンゴ民主共和国を筆頭にして、ナイジェリア、ケニアを含むアフリカ3か国において母子感染症コホートを構築し、胎盤にマラリア原虫が感染する「胎盤マラリア」などのマラリア疾病負荷の新しい側面の解明に取り組んでいます。従来は否定されていた「マラリア原虫の胎盤通過」の実証や、小児期の重症マラリアの病態解明に関する研究、薬剤耐性マラリアに関する研究を展開し、持続的な国際研究ネットワークの強化を通じて、グローバルな母子保健課題の解決を目指しています。
シャーガス病の流行動態と心筋病態の解明
中南米における代表的なNeglected Tropical Disease (NTD)であるシャーガス病に対し、環境・動物・ヒトを一体として捉えるワンヘルスアプローチと、分子生物学的な病態解析を両輪で進めています。エルサルバドルにおける大規模なベクター(サシガメ)調査では、次世代シーケンサーを用いた吸血源解析により、ヒトへの能動的な伝播リスクが依然としてあり得ることを示しました。また、心筋細胞モデルを用いたトランスクリプトーム解析等により、感染する原虫株の遺伝的特性が心筋の酸化ストレスや代謝異常に与える影響等について研究を進めています。ベクター監視の再構築から、致死的な合併症であるシャーガス心筋症の病態解明まで、多角的な視点で挑んでいます。
エネルギー代謝を標的とした創薬研究
アフリカトリパノソーマ症の根絶を目指し、ヒトには存在せず寄生虫の生存に不可欠なエネルギー代謝経路を標的とした創薬研究を展開してきました。私たちは、トリパノソーマ特有の末端酸化酵素であるAlternative oxidase (AOX)の分子レベルでの解析に基づき、強力かつ選択的な阻害剤であるアスコフラノン誘導体を用いた、新規治療薬の開発を進めてきました。分子レベルでの研究から、実際の医薬品開発へと繋げるトランスレーショナルリサーチを推進しています。その他、トリパノソーマの進化的特性に着目し、独特なオルガネラの新機能についての基礎研究も実施している。
スタッフ
| 教授 | 城戸 康年(兼務) |
|---|---|
| 准教授 | 中釜 悠 |
| 助教 | TSHIBANGU KABAMBA EVARISTE |
参考写真


