病態生理学

基本情報

分子生体医学講座 病態生理学

代表者 大谷 直子教授

私たちの研究テーマ:発がんのしくみを探り予防法を開発する。

近年、我が国では2人に1人が、がんに罹患することが統計学的に示されています。 そのため、発がんの仕組みを十分に理解し、予防法・治療法を開発することは非常に重要です。 私たちは、がん細胞周囲に存在しがん細胞を育てやすくする「がん微小環境」における細胞群や生体内物質の変化に着目して研究しています。特に、組織微小環境を構成する線維芽細胞で、細胞老化にともなう「SASP(senescence-associated secretory phenotype)」という現象が生じ、発がん促進的ながん微小環境に変化する現象に注目しています。また、肥満に伴い腸内細菌叢が大きく変化し、腸から吸収された腸内細菌代謝物や関連物質が肝臓、そして全身の病態に影響を及ぼすこともわかってきました。当研究室では最近増加している肥満にともなう肝臓がんを中心に、遺伝子改変マウスを用いた個体レベルの実験ならびに分子細胞生物学的アプローチ、そして臨床サンプルを用いて、総合的に病態の分子メカニズムを解明すると同時に、効果的な発がん予防法の開発を目指しています。

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場所
学舎 15階
連絡先
TEL:06-6645-3711 MAIL:ohtani.naoko@omu.ac.jp

 

教育方針

学部教育

  • 医学生講義(1回生):基礎医学研究推進コースの講義を担当しています。
  • 医学生講義(2回生):消化器系コース、血液コース、内分泌・代謝コース、腎・泌尿器・生殖器コースの講義を担当しています。
  • 生理学実習(2回生):機能系実習を行っています。
  • 3回生の修業実習生を受け入れています。

 

臨床教育(研修医の育成)

臨床教育そのものではありませんが、基礎医学者がヒトを対象とした健康科学や介入試験を進める際には、必ず、倫理指針や実際の臨床試験・治験登録が必要になりますので、そのような臨床試験の倫理的観点の教育体制等を考慮しています。

研究指導

  • 大学院生や若手研究員に対しては、研究実践マニュアルや、試験デザイン、データ採取、データの取り扱い・解析、論文作成・投稿に至る詳細な資料を作成し、研究が適切に実践できるような環境を整えるとともに、研究テーマに対して自らがよく考え、解決できるように指導しています。
  • さらに、教室教員、研究員、大学院生、学生を対象とした論文抄読会や勉強会を開催し、研究者の育成に取り組んでいます。国内外での共同研究先への短期・長期留学や研究滞在を奨励しています。

研究について

概要

私たちは、がん細胞周囲に存在しがん細胞を育てやすくする「がん微小環境」における細胞群や生体内物質の変化に着目して研究しています。特に、組織微小環境を構成する線維芽細胞で、細胞老化にともなう「SASP(senescence-associated secretory phenotype)」という現象が生じ、発がん促進的ながん微小環境に変化する現象に注目しています。また、肥満に伴い腸内細菌叢が大きく変化し、腸から吸収された腸内細菌代謝物や関連物質が肝臓、そして全身の病態に影響を及ぼすこともわかってきました。当研究室では最近増加している肥満にともなう肝臓がんを中心に、遺伝子改変マウスを用いた個体レベルの実験ならびに分子細胞生物学的アプローチ、そして臨床サンプルを用いて、総合的に病態の分子メカニズムを解明すると同時に、効果的な発がん予防法の開発を目指しています。

教室を代表する業績

  • Yamagishi R, Kamachi F, Nakamura M, Yamazaki S, Kamiya T, Takasugi M, Cheng Y, Nonaka Y, Yukawa-Muto Y, Thuy LTT, Harada Y, Arai T, Loo TM, Yoshimoto S, Ando T, Nakajima M, Taguchi H, Ishikawa T, Akiba H, Miyake S, Kubo M, Iwakura Y, Fukuda S, Chen WY, Kawada N, Rudensky A, Nakae S, Hara E, Ohtani N. Gasdermin D-mediated release of IL-33 from senescent hepatic stellate cells promotes obesity-associated hepatocellular carcinoma Sci Immunol. 2022 Jun 24;7(72):eabl7209.doi: 10.1126/sciimmunol.abl7209.
  • Yukawa-Muto Y, Kamiya T, Fujii H, Mori H, Toyoda A, Sato I, Konishi Y, Hirayama A, Hara E, Fukuda S, Kawada N, Ohtani N. Distinct responsiveness to rifaximin in patients with hepatic encephalopathy depends on functional gut microbial species. Hepatol Commun. 2022 Apr 16. doi: 10.1002/hep4.1954.
  • Takada N, Takasugi M, Nonaka Y, Kamiya T, Takemura K, Satoh J, Ito S, Fujimoto K, Uematsu S, Yoshida K, Morita T, Nakamura H, Uezumi A, Ohtani N.
    Galectin-3 promotes the adipogenic differentiation of PDGFRα+ cells and ectopic fat formation in regenerating muscle
    Development. 2022 Feb 1;149(3):dev199443.doi: 10.1242/dev.199443
  • Wakita M, Takahashi A, Sano O, Loo TM, Imai Y, Narukawa M, Iwata H, Matsudaira T, Kawamoto S, Ohtani N, Yoshimori T, Hara E.
    A BET Family Protein Degrader Provokes Senolysis by Targeting NHEJ and Autophagy in Senescent Cells Affiliations expand.
    Nat Communcations 2020, 11:1935. doi: 10.1038/s41467-020-15719-6.
  •  Iwamoto M, Saso W, Sugiyama R, Ishii K, Ohki M, Nagamori S, Suzuki R, Aizaki H, Ryo A, Yun JH, Park SY, Ohtani N, Muramatsu M, Iwami S, Tanaka Y, Sureau C, Wakita T, Watashi K.
    Epidermal growth factor receptor is a host-entry cofactor triggering hepatitis B virus internalization.
    Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 pii: 201811064. doi: 10.1073/pnas.1811064116.
  • Loo TM, Kamachi F, Watanabe Y, Yoshimoto S, Kanda H, Arai Y, Nakajima-Takagi Y, Iwama A, Koga T, Sugimoto Y, Ozawa T, Nakamura M, Kumagai M, Watashi K, Taketo MM, Aoki T, Narumiya S, Oshima M, Arita M, Hara E, Ohtani N. Gut Microbiota Promotes Obesity-Associated Liver Cancer through PGE2-Mediated Suppression of Antitumor Immunity. Cancer Discovery (2017) doi:10.1158/2159-8290.CD-16-0932. 
  • Sato S, Kawamata Y, Takahashi A, Imai Y, Hanyu A, Okuma A, Takasugi M, Yamakoshi K, Sorimachi H, Kanda H, Ishikawa Y, Sone S, Nishioka Y, Ohtani N, Hara E. Ablation of the p16INK4a tumour suppressor reverses ageing phenotypes of klotho mice. Nature Communications 6, 7035 (2015)
  • Demaria M, Ohtani N, Youssef SA, Rodier F, Toussaint W, Mitchell JR, Laberge R-M, Jan Vijg J, Van Steeg H, Dolle MET, Hoeijmakers JHJ, de Bruin A, Hara E, Campisi J.
    An essential role for senescent cells in optimal wound healing through secretion of PDGF-AA. Developmental Cell 31,722-33. (2014)
  • Imai Y, Takahashi A, Hanyuu A, Hori S, Sato S, Naka K, Hirao A, Ohtani N, Hara E.
    Crosstalk between the RB-pathway and AKT signaling forms a Quiescence-Senescence switch.  Cell Reports 7:194-207, (2014)
  • Yoshimoto S, Loo TM, Atarashi K, Kanda H, Sato S, Oyadomari S, Iwakura Y, Oshima K, Morita H, Hattori M, Honda K, Ishikawa Y, Hara E, Ohtani N.
    Obesity-induced gut microbial metabolite promotes liver cancer through senescence secretome. Nature 499,97-101 (2013)
  • Takahashi A, Imai Y, Yamakoshi K, Kuninaka S, Ohtani N, Yoshimoto S, Hori S, Tachibana M, Anderton E, Takeuchi T, Shinkai Y, Peters G, Saya H, Hara E. DNA Damage Signaling Triggers Degradation of Histone Methyltransferases through APC/CCdh1 in Senescent Cells  Molecular Cell 45, 123-131 (2012).
  • Yamakoshi K, Takahashi A, Hirota F, Nakayama R, Ishimaru N, Kubo Y, J. Mann D. J, Ohmura M, Hirao A, Saya H, Arase S,Hayashi Y, Nakao K,Matsumoto M, Ohtani N, and Hara E. Real ?time in vivo imaging of p16Ink4a reveals cross talk with p53.  Journal of Cell Biology 186, 393-407 (2009)
  •  Ohtani N, Imamura Y., Yamakoshi K., Hirota F., Nakayama R., Kubo Y., Takahasi A., Ishimaru N., Hirao A., Mann DJ., Hayashi Y., Arase S., Matusmoto M., Nakao K. and Hara E. Visualizing the dynamics of p21Waf/Cip1 cyclin-dependent kinase inhibitor expression in living animals.  Proceedings of the National Academy of Sciences of USA 104, 15034-15039, (2007)
  •  Takahashi A, Ohtani N., Yamakoshi, K., Iida, S., Tahara, H., Nakayama, K., Nakayama, K.I., Ide, T., Saya, H. and Hara E. Mitogenic signalling and the p16INK4a/Rb pathway co-operate to enforce irreversible cellular senescence.  Nature Cell Biology 8, 1291-1297, (2006)
  • Ohtani N, Zebedee Z, Huot TJ, Stinson JA, Sugimoto M, Ohashi Y, Sharrocks AD, Peters G and Hara E. Opposing effects of Ets and Id proteins on p16INK4a expression during cellular senescence.  Nature 409, 1067-70, (2001)

主な研究内容

現在の主な研究テーマ

腸内細菌代謝物が関与する肥満関連がんの発症メカニズム

近年、肥満人口は世界中で増加の一途をたどっています。肥満は糖尿病や心筋梗塞のリスクを高めるだけでなく、様々ながんの発症率を高めることが明らかになっています。
私たちは、がん細胞周囲に存在しがん細胞を育てやすくするがん微小環境と呼ばれる細胞群や生体内物質の変化に着目して研究しています。最近の私たちの研究成果として、肥満により腸内細菌の構成が大きく変わり、肥満で増えた腸内細菌が産生する物質、デオキシコール酸が肝臓に到達して、組織微小環境を構成する線維芽細胞で細胞老化にともなうSASP(senescence-associated secretory phenotype)という現象が生じ、発がん促進的ながん微小環境に変化する現象を見出しました(Yoshimoto et al. Nature 2013, Loo et al. Cancer Discovery 2017)。この現象は一部のヒトのNASH関連肝がんでも見られることが明らかになり、臨床研究も行っています。本研究室ではこのマウスモデルを基軸に、肥満誘導性肝がんのさらなる分子メカニズムの解明に迫っていきます。また、このマウスモデル以外にも、大腸がん、口腔がん等の疾患モデルで、遺伝子改変マウスを用いた個体レベルの実験ならびに分子細胞生物学的アプローチを用いて、がんの発症メカニズムと効果的な発がん予防法の開発を目指しています。

常在細菌叢が関与する病態メカニズム

私たちの体には皮膚、口腔、消化管、膣など様々な場所に常在細菌が存在しており、宿主を病原体から守るバリア機能を発揮したり、宿主にとって消化吸収しやすい栄養素へ食べ物を分解するなどの役割を担い、我々宿主とバランスよく共生しています。しかし、ひとたびバランスが崩れると、ディスバイオーシス状態となり、様々な病態の原因となることがあります。当研究室では、皮膚科、耳鼻科、消化器外科、肝胆膵内科、産婦人科等と共同研究を行い、様々な常在細菌が産生する代謝物や常在細菌関連物質と疾患の関係を調べています。

細胞老化随伴分泌現象(SASP)関連因子の機能、役割、制御機構の解明

正常な哺乳動物細胞には、異常な細胞の増殖を防ぐための様々な恒常性維持機構が備わっています。このような恒常性維持機構のひとつが、不可逆的細胞増殖停止である「細胞老化」の誘導です。細胞老化はDNAダメージなど発がんの危険性が細胞に生じた場合に発揮される、アポトーシスとならぶ重要ながん抑制機構と考えられています。しかし、アポトーシスとは異なり、細胞老化を起こした細胞はすぐには死滅せず、生体内で長期間生存し続ける可能性があります。最近、細胞老化を起こすと、次第に炎症性サイトカインやケモカイン、細胞外マトリクス分解酵素など、炎症や発がんを促進する様々な因子を分泌するSenescence-associated Secretory Phenotype (SASP) (細胞老化随伴分泌現象)と呼ばれる現象を起こすことが明らかになりました。このことは生体における細胞老化の蓄積が、慢性炎症やがんを進展させる、生体に不利益な微小環境を形成する可能性を示唆しています。
当研究室ではこのSASPという現象に着目しSASPが生体内でどのような役割を持つのか、またどのような機構で、多岐に渡るSASP因子が同時に発現上昇し、放出されるのか、そのメカニズムについても調べています。

老化を駆動する分子メカニズムの解明

社会の高齢化に伴い各種加齢性疾患の罹患率が上昇している中、大部分の加齢性疾患における最大のリスクファクターである老化そのもののメカニズムを理解し、これを抑制する事で寿命と健康寿命のギャップを埋めて行く事が求められています。当研究室では特に、ヒトやマウスのmRNAレベルの研究からだけでは見えてこない、タンパクレベルでの加齢変化や、種間比較的なアプローチを切り口とした老化の新しいメカニズムの解明に取り組んでいます。

炎症性大腸がんの微小環境と発症機構の解明

腸炎を背景にもつ大腸がんは、がん細胞の遺伝子変異や進展機構がde novoの大腸がんとは異なっています。そこで、消化管外科との共同研究でマウスモデルを用いて、炎症性大腸がんの微小環境と発症機構の解明を目指した研究を行っています。

臨床への取り組み

臨床への応用のためには、まず揺るぎない基礎医学の基盤を固めることが重要です。またヒトを対象とした健康科学やソリューション候補を用いた介入試験を進める際には、基礎医学の基盤を固めた上で、臨床研究、臨床試験、時には、臨床治験を行います。

スタッフ

教授 大谷 直子
講師 山岸 良多、高杉 征樹
助教 神谷 知憲
特任助教 程 禕

 

参考写真

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