刀根山結核研究所

基本情報

都市医学講座 刀根山結核研究所

代表者 金子 幸弘教授

大正6年に設立された大阪市立刀根山療養所を前身とする刀根山結核研究所は100年以上の歴史を持ち、創設以来一貫して精力的に結核に関する研究を展開してきた。日本における結核罹患率(人口10万対)は10.1と減少傾向にあるが(2020年厚生労働省)、世界を見渡すと年間1,050万人が罹患し、150万人が死亡する、今なお克服できていない感染症の一つである(2020 WHO)。さらに非結核性抗酸菌症は、環境から感染する日和見感染症であるにもかかわらず、日本で近年急速に患者が増加しており、抗菌薬の効果が認められずに悪化することもある難治性感染症である。このように結核および非結核性抗酸菌症の基礎研究の重要性は、刀根山病院および研究所が設立された大正6年当時とかわらない。 刀根山結核研究所には、刀根山病院と連携し、築き上げてきた多数の抗酸菌菌株ライブラリーを保有している。同菌株を重要な研究リソースとして活用・発展させるべく、「深海・海洋性微生物ライブラリー」という新しい風を吹き込むことで、創薬からオミックス解析までを幅広く推進している。

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場所
大阪府豊中市刀根山5-1-1
連絡先
TEL:06-6645-3746/06-6853-5837 MAIL:ykaneko@omu.ac.jp

教育方針

学部教育

細菌学講座のサテライト講座として、以下を担当しています。

  • 全学共通教育科目「生物学概論M」、「人体を考える」
    →1コマ講義担当
  • 学部1年生の「医学研究推進コース1」
    →レポート評価を担当
  • 学部3年生の「細菌・真菌感染症コース」
    →相互授業および学生実習を担当
  • 学部3年生の「医学研究推進コース3(旧修業実習)」
    →配属になった学生には、感染症研究の面白さが体感できるよう指導します。

臨床教育(研修医の育成)

基礎医科学講座なので該当はありませんが、基礎-臨床の橋渡しを常に考慮した教育を行います。

研究指導

細菌学講座のサテライト講座として、博士・修士課程の学生を指導しています。個々の学生の個性を尊重し、キャリアパスを念頭において向上させるよう、きめ細かな指導を行う方針で指導します。また、疾患の予防、診断、治療、予後の質向上等、現代医学において活用の裾野を急速に拡大しつつあるオミックス解析を積極的に取り入れ、学生自身が操作できるように、初心者向けの「バイオインフォマティクス・オミックス勉強会」を開催しています。

研究について

細菌学講座と協調し、難治性感染症の分子機構と新規治療の開発を目標に掲げ、以下のテーマで基礎研究を行っています。

  • 肺MAC症に有効な治療法の開発
  • 海洋性放線菌が生産する新奇抗多剤耐性菌物質の特性解析
  • 海洋(深海)性微生物の培養株化とその有効活用
  • 海洋性微生物が生産する新奇スキルス胃癌活性物質の特性解析
  • 超多剤耐性菌の薬剤耐性メカニズムの解明

教室を代表する業績

    【結核菌、非結核性抗酸菌研究】

    • Niki M, Yoshiyama T, Nagai H, Miyamoto Y, Niki M, Oinuma KI, Tsubouchi T, Kaneko Y, Matsumoto S, Sasaki Y,
      Hoshino Y. "Nutritional status positively impacts humoral immunity against its Mycobacterium tuberculosis, disease
      progression, and vaccine development", PLoS One. 2020, 15(8):e0237062. doi: 10.1371/journal.pone.0237062.
    • Nishiuchi Y, Tamura A, Kitada S, Taguri T, Matsumoto S, Tateishi Y, Yoshimura M, Ozeki Y, Matsumura N, Ogura H, Maekura R. "Mycobacterium avium complex organisms predominantly colonize in the bathtub inlets of patients'
      bathrooms", Jpn J Infect Dis. 2009 May;62(3):182-6.
    • Nishiuchi Y, Maekura R, Kitada S, Tamaru A, Taguri T, Kira Y, Hiraga T, Hirotani A, Yoshimura K, Miki M, Ito M.
      "The recovery of Mycobacterium avium-intracellulare complex (MAC) from the residential bathrooms of patients
      with pulmonary MAC", Clin Infect Dis. 2007 Aug 1;45(3):347-51. doi: 10.1086/519383.

    【病原性細菌、薬剤耐性菌のゲノム解析】

    • Sakiyama A, Matsumoto Y, Tsubouchi T, Suzuki M, Niki M, Niki M, Oinuma KI, Kakeya H, Kaneko Y. "Complete
      Genome Sequence of a Clinical Isolate of Acinetobacter baumannii Harboring 11 Plasmids", Microbiol Resour
      Announc. 2021, 10(39):e0069521. doi: 10.1128/MRA.00695-21.
    • Matsumoto Y, Sakiyama A, Tsubouchi T, Suzuki M, Niki M, Niki M, Kakeya H, Kaneko Y."Complete Genome
      Sequence of Acinetobacter pittii OCU_Ac17, Isolated from Human Venous Blood", Microbiol Resour Announc.
      2021, 10(39):e0069621. doi: 10.1128/MRA.00696-21.
    • Tsubouchi T, Kaneko Y."Complete Genome Sequence of Polycladomyces abyssicola JIR-001T, Isolated from
      Hemipelagic Sediment in Deep Seawater",  Microbiol Resour Announc. 2021, 10(24):e0043521. doi:
      10.1128/MRA.00435-21.
    •  Tsubouchi T, Suzuki M, Niki M, Oinuma KI, Niki M, Kakeya H, Kaneko Y."Complete Genome Sequence of
       Acinetobacter baumannii ATCC 19606T, a Model Strain of Pathogenic Bacteria Causing Nosocomial Infection",
       Microbiol Resour Announc. 2020, 9(20):e00289-20. doi: 10.1128/MRA.00289-20.

    【新規微生物分離】

    • Koyama S, NISHI S, Nagano Y, Tame A, Uematsu K, Nogi Y, Hatada Y, Tsubouchi T. "Electrical retrieval of living
      Streptomycete spores using a potential-controlled ITO electrode", Electrochemistry. 2017, 85(6):297-309. doi:
      10.5796/electrochemistry.85.297
    • Koyama S, Nishi S, Tokuda M, Uemura M, Ishikawa Y, Seya T, Chow S, Ise Y, Hatada Y, Fujiwara Y, Tsubouchi T.
      "Electrical Retrieval of Living Microorganisms from Cryopreserved Marine Sponges Using a Potential-Controlled
      Electrode", Mar Biotechnol (NY). 2015, 17(5):678-92. doi: 10.1007/s10126-015-9651-y.
    • Tsubouchi T, Mori K, Miyamoto N, Fujiwara Y, Kawato M, Shimane Y, Usui K, Tokuda M, Uemura M, Tame A,
      Uematsu K, Maruyama T, Hatada Y. "Aneurinibacillus tyrosinisolvens sp. nov., a tyrosine-dissolving bacterium
       isolated from organics- and methane-rich seafloor sediment", Int J Syst Evol Microbiol. 2015, 65(Pt
       6):1999-2005. doi: 10.1099/ijs.0.000213.
    • Tsubouchi T, Koyama S, Mori K, Shimane Y, Usui K, Tokuda M, Tame A, Uematsu K, Maruyama T, Hatada Y.
       "Brevundimonas denitrificans sp. nov., a denitrifying bacterium isolated from deep subseafloor sediment", Int J
       Syst Evol Microbiol. 2014 , 64(Pt 11):3709-3716. doi: 10.1099/ijs.0.067199-0.
    • Tsubouchi T, Ohta Y, Haga T, Usui K, Shimane Y, Mori K, Tanizaki A, Adachi A, Kobayashi K, Yukawa K, Takagi E, Tame A, Uematsu K, Maruyama T, Hatada Y. "Thalassospira alkalitolerans sp. nov. and Thalassospira mesophila
      sp. nov., isolated from a decaying bamboo sunken in the marine environment, and emended description of the
      genus Thalassospira", Int J Syst Evol Microbiol. 2014, 64(Pt 1):107-115. doi: 10.1099/ijs.0.056028-0.

    主な研究内容

    現在の主な研究テーマ

    肺MAC症に有効な治療法の開発

    肺MAC症の治療を困難にする要因として、現行の薬剤が効きにくく、投薬中止後も高い確率で再発することがあげられ、これにより長期間に及ぶ複数の薬剤を用いた投薬治療が必要となることが知られている。深海性放線菌由来天然物ライブラリーを用い、①CAMへのシナジー効果を示し、またCAM耐性菌出現を抑制する併用薬剤の開発および②CAM耐性菌に有効な新規抗菌物質の探索を行い、新たなMAC治療法の確立への糸口を探る。

    海洋性放線菌が生産する新奇抗多剤耐性菌物質の特性解析

    深海性放線菌由来天然物ライブラリーにはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、"ESKAPE"の一種であるAcinetobacter baumanniiに有意な抗菌活性を示す菌株が複数見出されており、いくつかの同活性分子の獲得に成功している。構造特性を考慮した作用機序を解析すると共に細胞毒性評価を組み込むことで、薬剤耐性菌(多剤耐性菌を含む)に対する抗菌薬の効率的開発を目指す。

    海洋(深海)性微生物の培養株化とその有効活用

    我々研究者は環境微生物の殆ど(99.3%)を分離培養できずにいる。これら未培養微生物株は種々の生理活性物質(抗菌、抗ウイルス、抗腫瘍活性など)の潜在的生産性が推測されており、臨床分野においてその応用利用化が期待されている。我々は海底地下生命圏における微生物の動態変化および生息可能条件に着目し、従来の機能的スクリーニングではなく,微生物群集構造の多様度に着目した情報学および統計数理学スクリーニングによる環境微生物単離培養条件の推定手法の開発に関する研究分野を開拓している。

    海洋性微生物が生産する新奇スキルス胃癌活性物質の特性解析

    胃壁内を浸潤することで進行するスキルス胃癌は5年生存率が7%未満に留まり、現代医学をもってしても効果的な治療法が存在しない難治癌のひとつである。これまでの研究において構築した深海・海洋性放線菌ライブラリーには、スキルス胃癌に対する増殖抑制や浸潤抑制活性を示す株が数多く見出されており、接着細胞・浮遊細胞問わず50%以上、高いものだと90%以上の癌細胞増殖抑制効果を呈する。深海・海洋性放線菌の潜在的活性能に着目し、未だ治療薬が存在しないスキルス胃癌に対する抗癌剤の創製を目指す。

    超多剤耐性菌の薬剤耐性メカニズムの解明

    Brevundimonas abyssalisはβ溶血性を示し、予備試験から多岐にわたる抗菌薬に対して耐性を呈することが示されている。また、その細胞サイズから0.22μmのフィルターを通過してしまうこともある。現状ではそれほど存在比率は高くないものの、昨今問題となっている多剤耐性化したアシネトバクターや緑膿菌のように拡散してしまえば人類にとって大きな脅威となりうる。そのため、本株の薬剤耐性メカニズムを分子生化学的観点およびゲノム科学的観点から解析し、薬剤耐性化を防除するための事前対応策を図る。

    臨床への取り組み

    基礎研究で得られたシーズに対しては可能な限り特許化を行います。日本医療研究開発機構(AMED)橋渡しプログラムを通じて、製薬企業との共同研究を推進し、創薬導出を進めます。

    スタッフ

    教授 金子 幸弘(細菌学教授兼任)
    准教授 坪内 泰志