ボッチャとは?誰もが楽しめるスポーツの魅力について
ボッチャは、白いジャックボール(目標球)に自分の赤または青のボールをできるだけ近づけることを競うスポーツです。試合は個人戦、ペア戦、団体戦で行われ、赤と青のボールを順番に投げ合います。投げ方は手で投げるほか、補助具(ランプ)を使うことも可能です。各エンド終了時、ジャックボールに最も近い色のボールを持つチームが得点し、近い順に相手より優位なボールの数だけ点数が入ります。全エンド終了後、合計得点が多いチームが勝利します。
また、2021年の東京パラリンピックで日本選手が史上初めての金メダルを獲得するなど、日本は3つのメダルを獲得し、全国に広がるきっかけとなりました。
「このスポーツは、もともと重度の障がいがある方を対象に考案されたパラリンピックの正式競技です。脳性麻痺や筋ジストロフィーなどの先天性疾患、また事故による頸髄損傷など、後天的な障がいで両手足や体幹に重度の障がいのある方々がプレーできるよう設計されています。しかし、その魅力は障がいの有無に関わらず楽しめる点にあります。シンプルなルールで、小さなお子さんから高齢者まで、年齢や性別を問わず誰もが一緒にプレーできるスポーツとして広がりを見せています」

実際に使用されるジャックボール(白色)とカラーボール(赤色、青色)
※ボッチャはマイボール制なので、基準に合えば、自分の専用球や自作の球を使うことができる。
地域で広がる取り組み例や連携の重要性
2025年、UR森之宮に「大阪公立大学Well-being 共創研究センター」が開設され、地域の健康・福祉課題の解決が目指されています。そんな中で、地域で広がっていくボッチャを活かした取り組みについて、片岡先生に伺いました。
「Well-being 共創研究センターの活動の一環で、城東区から依頼を受け、昨年度『ボッチャ普及指導員講習会』を開催しました。一般の方がボッチャを体験し、ボッチャを城東区に普及してくれる人材の育成が目的です。また、2025年10月1日(水)にUR森之宮ビルの1階の『ほとりで』にて開催されたオープニングセレモニーでは、ボッチャ体験会を実施しました。地域の皆さまにも参加いただき、本学ボッチャ部の学生と交流が図られました」

『ほとりで』のオープニングセレモニーで実施したボッチャ体験会の様子
「他にも地域イベントとして、森ノ宮フェスティバルでの体験会の開催や、ボッチャ部の学生が公民館で体験会や試合を運営し、審判なども担当しています。これらは地域コミュニティの多世代交流を推進する活動の一環です」
近年、ボッチャは障がいがない方の間でも広まりつつあり、複数名でプレーできる柔軟性や、激しい運動を伴わない点から、高齢者や子ども、障がいのある方まで幅広い層が楽しめます。屋内で少ないスペースでも実施可能なため、地域住民の交流イベントや体操運動などの活動に組み込むことも容易だと話してくれました。
「地域住民自身が普及や企画を担える仕組みを整えることが重要です。現在は『教えに来てほしい』という依頼が多いものの、住民が主体的に“自分たちでやってみよう”となることで、地域活性化につながります。そのためには、普及を担う人材の育成が鍵となります。高齢者のセカンドキャリアや、障がいのある方、現役プレーヤーなどが運営側に回ることで、地域に根ざした取り組みが可能になります」
片岡先生はボッチャの普及活動を行う中で、自治体の円滑な連携が地域づくりを行う上で重要なことだと語ります。
「現在、依頼は主に福祉関係の部署から来ることが多いものの、スポーツ課など他部署からの依頼も時折あります。しかし、自治体内で横のつながりが弱く、情報共有が不十分なため、同じ質問が複数部署から寄せられるなど、縦割りの課題が見受けられます」
「こうした状況を改善するには、高齢者、障がい者、子ども、スポーツ愛好者など、対象が異なる各部署が連携し、共通のイベントや取り組みを進めることが効果的と考えられます。特にボッチャのようなスポーツは、幅広い世代や属性が参加できるため、地域全体のつながりを促進するツールとして有望です。自治体全体で情報を共有し、横断的な協力体制を構築することで、地域づくりの広がりが期待されます」
ボッチャのリハビリ・健康維持への可能性
片岡先生は、ボッチャはリハビリや健康維持の面で有望なスポーツだと話してくれました。その理由について伺いました。
「楽しく運動できることでポジティブな気分が高まり、ネガティブな感情が減少する効果が確認されています。筋活動も従来の歩行練習と大きな差がないため、高齢者にとって有効な運動手段となり得ます。狭いスペースや家庭内でも実施できる仕組みを整えることで、さらなる普及が期待されます」

「現在の研究では、ボッチャを高齢者向け運動プログラムとして活用できるかを検証しています。高齢者は運動の継続が難しく、モチベーション維持が課題ですが、楽しさを取り入れることで継続しやすくなる可能性があります」
また、障がい者の方の社会参加や競技選手のパフォーマンス向上に関する研究も継続して行っているとのこと。ボッチャに関する競技力向上の研究はまだ少なく、強い選手の特徴やパフォーマンスに関係する因子など、基礎的な部分から明らかにすることが重要。また、障がい者スポーツ全体の研究が少ない中で、ボッチャに関する知見を積み重ねることは大きな課題となっていると片岡先生は言います。
企業・自治体の支援と広報活動の意義
さまざまな企業と協力することで全国的な知名度の向上にもつながっています。その取り組み例について、片岡先生は話してくれました。
「ボッチャの普及には、自治体だけでなく企業の支援も重要な役割を果たしています。最近では、さまざまな企業が支援を行っており、こうした企業による取り組みは地域での認知度向上に大きく貢献しています。支援は必ずしも金銭的なものに限らず、普及啓発活動やイベント協力など、さまざまな形で行われています」
「企業の支援が増えた背景には、東京オリンピック・パラリンピックの開催決定による機運の高まりがあります。この時期には、支援学校や小学校での体験会や人権啓発授業でパラスポーツを取り上げる機会が増え、企業も積極的に関与するようになりました。こうした流れは、ボッチャの普及を加速させる重要な要因となっています」
また、ボッチャの広い場所を必要としなくとも楽しめるという競技特性は、企業による空きスペースの活用にもつながっていると話してくれました。
「ボッチャは必ずしも正式なコートで行う必要はなく、狭いスペースでも実施可能です。競技の基本ルールさえ理解していれば、草野球や即席サッカーのように、場所に応じて柔軟に楽しめます。JR東日本は、駅構内やエントランスに簡易コートを設置し、普及活動を行っています。こうした取り組みは、通行人の目に触れることでボッチャの認知度向上にもつながります」
広い場所でのプレーにも魅力がありますが、スペースが限られていても楽しめるという点が、ボッチャの大きな強みなのですね。
また、現在は企業の中にボッチャ部があったり、新人研修で用いられたりする場合もあるようです。片岡先生は、一緒のチームになると作戦を立てたりする際にコミュニケーションを図ることができるので、非常に良いツールだと考えていると話してくれました。
最後に、これからボッチャに関わる可能性がある、もしくはすでに関わっている30代、40代の方々に向けてメッセージをいただきました。
「ぜひ、まずはボッチャの大会の応援に来ていただきたいです。選手のモチベーション向上にもつながりますし、応援に来てくれると選手も喜ぶと思います。経験者の方には、どんどん大会に参加してボッチャを盛り上げていってほしいと思います」
プロフィール

リハビリテーション学研究科 リハビリテーション学専攻 准教授
リハビリテーション学研究科 リハビリテーション学専攻 准教授
博士(保健学)。2011年大阪府立大学総合リハビリテーション学部助教、2017年同大学大学院総合リハビリテーション学研究科講師を経て2022年より現職。障がい者スポーツ、脳性麻痺、脊髄損傷のリハビリテーションなどを研究。
現在は、パラリンピック競技の中でも最重度の障がい者が対象となる「ボッチャ」を中心に、競技パフォーマンス向上のための科学的根拠の確立や効果的なトレーニング方法の検証を進める。ボッチャ部の顧問も務め、学内外でも精力的に活動を行う。
※所属は掲載当時