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2026年8月13日
- レポート
第39回UReCサイエンスカフェを開催しました
2026年6月5日(金)、大阪公立大学中百舌鳥キャンパス学術交流会館小ホールにて第39回UReCサイエンスカフェを開催しました。
今回は、ニュージーランドのリンカーン大学土地管理・システム学部農商学科(Lincoln University, Department of Land Management and Systems Faculty of Agribusiness and Commerce)から2人の講師をお招きし、キャンベル・カー氏(Mr. Campbell Kerr, Lecturer)には「ソーシャル・ファーミング(農福連携)」について、ガガンディープ・ジェイン氏(Dr. Gagandeep Jain, Senior Lecturer)には植物工場の技術について御講演いただきました。
講演内容の詳細は講演再録 (1.0MB)をご覧ください。
こぼれ話1 ―エクスカーション
開催当日は朝からゲストスピーカーのCampbell Kerr氏とともに研究テーマに関連する活動に取り組んでいる複数の現場を訪問しました。最初は、NPO法人たかつき(高槻市)が運営する高齢通所施設「デイサービスセンター晴耕雨読舎」と「Roles晴耕雨読舎南平台」。今回の担当者が理事を務める人間・植物関係学会が常日頃より何かとお世話になることが多いところです。次の「サービスハブ西成」(大阪市西成区)は、旧都市研究プラザが設立される以前から本学と所縁が深い釜ヶ崎にありますが、こんな街中でも園芸活動が息づいています。そして最後に、今回の開催を後援した大阪公立大学植物工場研究センター(中百舌鳥キャンパス)の施設を訪問しました。
1. 晴耕雨読舎(NPO法人たかつき)
JR高槻駅からバスで20分も離れると緑豊かな風景が広がります。「デイサービスセンター晴耕雨読舎」は摂津峡で有名な芥川のほとりにあります。周囲の緑に溶け込むような平屋の建屋の前に美しい庭園が広がります。園芸療法の考え方に基づいて利用者たちにガーデニングの機会を提供しています。利用者一人ひとりがレイズドベッド1台ずつ「自分の畑」を持ち、それぞれ思い思いに好きな野菜や花を育てています。庭園の真ん中にある東屋で、石神洋一所長がKerr氏からの質問に答える形で、園芸作業のみならず施設運営全般について説明いただきました。日本でもニュージーランドでも社会福祉や医療の制度における園芸療法の正当性を論証することが依然として課題であるという問題意識が共有されたように思います。
話が盛り上がり過ぎて予定より遅れ気味になり、慌てて移動した先が、住宅地の中にある「Roles晴耕雨読舎南平台」。よくあるニュータウンの一軒家を改造した施設ですが、庭では施設のシンボルとして育てられているアジサイが美しい盛りでした。そこの管理者である石神裕美子氏に庭の設計や実際の作業で工夫していることについてお話を伺いました。そこで育てた花を利用者が家に持ち帰り仏壇に供えているというあたりは英訳がすぐには思い付かず、私の語学力の不足を痛感しました。利用者のみなさんは海外からの来客を心待ちにしていたそうで熱烈な歓迎を受けました。


2. サービスハブ西成(NPO法人釜ヶ崎支援機構)
かつての橋下徹市政で提唱された「西成特区構想」の一環として 2013 年に始動した旧「西成区高齢単身生活保護受給者の社会的つながりづくり事業」(通称「ひと花プロジェクト」)では、南海電鉄天王寺支線の跡地を活用して「畑」が設置されました。それが現在も引き継がれていますが、加えて若年層向け就労支援の利用者も農作業に参加することがあるそうです。
NPO 法人釜ヶ崎支援機構の水谷佳奈子氏にご案内いただきました。最古参の利用者であるOさんも駆けつけてくださいました。実は私はOさんとは 10 年以上の付き合いで、釜ヶ崎夏祭りで不用意に出会すと缶ビールをおねだりされる仲です。それはさておき、それぞれの畝や作物にまつわる記憶を次々と語っていただきました。収穫したものを地域のイベントで完売していること、周辺の古くからの住民たちとも交流があることなど、話題は尽きません。開所当時は経験皆無のOさんたちでしたが、市販の指南書では初心者には難しいとされているスイカの栽培までも、今では見事に熟達していました。厳しい上下関係を生き抜いてきた高齢者たちが最近、若者たちに柔和な姿勢で作業を指導することができるよう努力していることも、水谷氏から教えていただきました。みなさん、人生まだまだこれから!


3. 大阪公立大学植物工場研究センター
北宅善昭センター長と江口雅丈特任助教がお出迎えくださいました。ゲストスピーカー2 名の他にサイエンスカフェに参加を申し込まれた方 1 名も加わり、植物工場紹介動画を中心に概要の説明を拝聴したのち、実際に内部を案内していただきました。
大阪万博に出展したり宇宙での応用を目指してJAXA と連携したりなどという活動実績のポスターが並ぶ廊下を通り抜けると、ガラス越しに栽培技術実証研究の様子を見ることができました。電力の利用効率を上げたり地域社会の廃棄物を肥料として活用したりするなどして環境負荷を低減するという、研究の基本的な方向性について解説がありました。カツオ節を製造する際に出る煮汁廃液が具体例として展示されていました。
続いて、要素技術の研究開発施設では、アクアポニックスが私たちの目を惹きました。魚を養殖し、その排泄物を肥料として利用するというものです。タツノオトシゴの水槽の上では耐塩性がある作物が育ち、試食すると確かに塩味がしました。大きめの水槽にはティラピアやチョウザメがいました。魚の種類としては市場価値があるものを選ぶのもひとつのポイントだそうです。
大規模量産の実証研究施設では、1日あたり 6,000 株を超える量のリーフレタスが出荷されているとのことでした。最先端の技術を駆使して多くの作業を自動化しながらも、手作業の領域も残されていて地域に雇用機会を生み出し、さらに提携先として多数の小売業者が名を連ねるなど、地域社会で果たす役割の広がりを感じることができました。
総じて、植物工場は閉鎖系であるという先入観が覆されるような体験が用意されています。
見学をご希望の方はぜひこちらのウェブサイトをご覧ください。
https://www.omu.ac.jp/orp/plant-factory/
こぼれ話 2 ―事の始まりと書籍紹介
今回の「UReC サイエンスカフェ」開催のきっかけとなったのは 1 通のe メールでした。担当者が 2025年 9 月に出版した単行本を、今回のゲストスピーカーの一人となる Campbell Kerr 氏が読んだことから始まりました。その後、オンラインのミーティングを経て、来日するための予算を獲得しました。さらに、植物工場を専門とする Dr. Gagan Jain 氏が加わりました。大阪公立大学植物工場研究センターに関心があるとのこと、担当者は植物工場に全く無知であり、氏の関心に応じられるような対応をする自信がなかったため、急遽同センターに協力を依頼することになりました。その際には、農学研究科の和田光生准教授に取り次いでいただきました。2023 年に東京大学で開催された「アジア園芸学会議」で、「一応、同じ大学だから」ということで名刺を交換したときには、お互いの研究分野が離れ過ぎていて「もう連絡を取り合うことはないだろう」と冗談を交わしていました。このことを思い起こすと不思議なご縁を感じます。
件の単行本ですが、「農福連携」という国内における近年の動きを扱ったオープンアクセス書籍です。
「農福連携」は、人手不足に悩む農業分野が、既存の労働市場から排除された人々に就労の機会を提供し得るという考えに基づいています。しかし「なぜ福祉のために農業なのか」という問いは、より幅広い文脈において探求する価値があります。本書では、主に都市在住のホームレス高齢者や無職の若者を対象とした農業関連の雇用創出を目指したアクション・リサーチ・プロジェクトの成果を検証します。序盤の章では、農作業や主流の労働市場における問題を理解する上で不可欠な、農場における人間同士、あるいは人間と非人間的な生命体との関係性を分析します。続く章では、このプロジェクトから得られた教訓を踏まえ、「福祉から就労へ」レジームや従来の就労支援を批判的に検討します。最後に、主に欧州における同様の取り組みに関する先行研究を概観しつつ、生命をケアする労働には喜びがなければならないと論じ、前述の問いに対して新たな視点から答えます。本書は認知科学、心の哲学、人類学、政治学、社会福祉学にも理論的な知見を提供するものです。
(報告者: 綱島洋之 UReC特任講師)