大阪公立大学獣医学部の現状報告
(本稿は、2025年発行の大阪府獣医師会報に寄稿いたしました。)
大阪公立大学 獣医学研究科・獣医学部
獣医学研究科長・獣医学部長
山岸則夫
日頃より、大阪公立大学獣医学研究科・獣医学部の活動にご理解とご支援を賜り、誠にありがとうございます。この誌面をお借りして、獣医学部設置から3年間の獣医学教育(獣医師ライセンス教育)の様子と、日本国内の獣医学教育改革の流れについてお話しさせていただきます。
獣医学部設置から3年間の獣医学教育(獣医師ライセンス教育)の様子
大阪公立大学獣医学部は、2020年4月、大阪府立大学の長い歴史と伝統を引き継ぎ、新時代に適した獣医学教育を提供する教育研究機関へと生まれ変わりました。今年度(2024年度)、最初の入学生は3年生になりました。獣医学部の設置に伴い、獣医学教育プログラムを、国際水準に準拠した教育内容を提供できる新しいカリキュラム(新カリキュラム)に改訂しました。従前(大阪府立大学時代)のカリキュラム(旧カリキュラム)では、学生は低学年(〜3年生)のうちに動物に直接触れて学ぶ機会は少なく、高学年(4年生〜)になり、ようやく動物に触れて学ぶことができました。新カリキュラムでは、学生は1年生の時から直接動物に触れ、動物の特性や扱い方、飼養管理に関する知識と技術を学んでいます。
旧カリキュラムでは、どの科目の実習でも1学年(40名)が一斉に学ぶタイプのものが多く、臨床や公衆衛生のような実践を身につけるべき実習でも「見学型」で行うことが主体でした。新カリキュラムでは、「卒後どのような分野に進むにしても、全ての獣医学生が“獣医師としての初日”に備え持つすべき最低レベルの知識、技能、態度を習得している必要がある」とのコンセプトに基づき教育プログラムが設計されています。このコンセプトはDay one competency(またはDay one skills)と呼ばれ、国際水準に準拠する獣医学教育の大黒柱を成すものです。そのため、全ての学生が、卒業までに一定時間(一定単位)以上、動物診療や公衆衛生の現場で獣医事業務を学び・体感するための実習に参加することが義務付けられます。新カリキュラムの獣医学生は、このような実習プログラム(参加型実習)を通して、「獣医師のリアルライフ」を学んでいきます。
新カリキュラムの大黒柱である参加型臨床実習の本格実施は、来年度の後期(2025年10月〜、最初の入学生が4年生)に始まります。公衆衛生ならびに臨床獣医学に関連する本学教員が直接実習指導するとともに、大阪府内ならびに関西圏を中心に多くの獣医事関連施設・診療所等の獣医師と関係者のご協力を頂きながら、参加型実習を進めていく予定です。
日本国内の獣医学教育改革の流れ
2011年、文科省内に置かれた「獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」が3年間の議論を経て、獣医学教育の改革の方向性を示しました。その骨子は、(1)教育研究体制の整備(共同教育課程も含む)、(2)モデル・コア・カリキュラムの策定、(3)分野別第三者評価の導入、(4)共用試験の導入、(5)動物診療施設の整備(実習環境の充実)の5本柱です。5年間でこれらの準備・導入を行い、2016年以降は「充実した獣医学教育の実施」と「自律的な教育改善を促す質保証システムの構築」を目指して本格稼働しています。この方向性は「国際水準に準拠した獣医学教育」に繋がるものであり、日本の全ての獣医系大学が同じ方向を向いて教育改革の歩みを進めています。大きな変革として、北海道大学・帯広畜産大学(VetNorth Japan)ならびに山口大学・鹿児島大学(VetJapan South)の各共同教育プログラムでは、国策としての多額の資金投入によって教育組織体制が一気に増強(主に施設・設備の整備、教職員・サポートスタッフの増員)され、2019年、国際的に認知された獣医学教育システムの一つである欧州獣医学教育確立協会(European Association of Establishments for Veterinary Education: EAEVE)の認証を取得しました。私立大では酪農学園大学が自前で教育組織体制の増強を行い、EAEVE認証審査を受審、近々、認証取得が認められます。このように日本国内の獣医学教育を取り巻く環境は加速度的に変化しています。
大阪公立大学での獣医学教育改革の未来
獣医師会の皆様のご支援もあり、本学でも獣医学部の設立が叶いました。新カリキュラムは国際水準を満たすプログラムとして設計してあります。その目玉である参加型実習は学生にDay one competencyを習得させるためのものであり、非常に多くの時間数(単位数)を費やし教育します。参加型実習を実質的なものにするには学生一人一人に多くの機会を与えることが必要です。そのためには少人数体制での指導が不可欠です。学生一人一人の習熟度を高めるためには、教員一人あたりが担当する学生数を減らす必要があります(学生2〜5名/教員1名)。
2019年に日本国内の獣医学教育評価を行う大学基準協会による審査を受け、5項目の改善指導を受けました。その改善報告を行いましたが、本年4月、「学生数に対する専任教員数の比率が低い」ことの改善がないとの指摘(40名の学生定員に対し専任教員69名が必要)を受けています。現在の本学部の専任教員数は44名(2024年10月時点)で、基準よりも20名以上少ないので、限られた教員数で非常に多い時間数(単位数)の参加型実習への実施を余儀なくされます。そのため、当面、少人数体制での参加型実習の実施(質の担保)は厳しく、国際水準に準拠した教育プログラムの“枠組み”は教員の自助努力で構築できるが、国際的に認められる教育体制(人員体制)の整備には至らず苦戦しております。
このような状況のなか、先日の令和6年度近畿地区連合獣医師大会において「獣医学教育の充実のための適切な教員配置及び参加型・体験型実習受け入れ施設のさらなる拡充」に関する議案を議決頂きました。大阪府獣医師会の皆様のご支援による決議であったと理解しております。皆様に感謝の意を表します。
おわりに
獣医学部の設立に際して多くのご支援を頂きました。地域の獣医師との連携は学生たちの学びに欠かせない要素です。地域社会との連携を強化し、実践的な教育を通じて、未来を担う未来の獣医師を育成していく所存です。本学における獣医学教育(獣医師ライセンス教育)の改善・改革には大きな課題が山積しております。引き続き、獣医師会の皆様にはご指導とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
大阪府獣医師会報・第76号・34-35ページ(2025年12月発刊)