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実物に触れて体験することが自分の世界を広げてくれる

私は、江戸時代以来の人形浄瑠璃の歴史を専門に研究しています。中学時代は、数学や理科の方が得意で英語や国語は苦手という典型的な理系でしたから、その頃の自分から見たらずいぶん想定外な道に進んだことになります。

そんな私が文学に興味を持ったのは、高校2年生の頃です。理系のクラスで学び、小説もほとんど読んでいなかったのですが、なぜか近代の純文学を読むようになりました。一気に文学に傾倒した結果、理系クラスにいながら文学部へと進路を変更。将来を何か思い描いていたのではなくて、とにかく自分で見つけた好きなものにのめり込み、大学で勉強するなら文学しかないと思い定めてしまったんですね。文学に理解のない親には「文学部なんか行ってどうするんだ」と反対されましたが、強情を張り通し、2年浪人して文学部に入りました。

京都の大学に進んでからは、一眼レフカメラを持って写真を撮りながら神社仏閣を巡りました。そんなある日、壬生寺で行っている壬生狂言を観たことがきっかけで、芸能に興味を持ち、能楽堂で能を観たりしながら他にもいろんな芸能が観たいと思うようになりました。

人形浄瑠璃に出会ったのは2回生の頃です。大阪の国立文楽劇場の夏休み公演を観て以来、今日まで文楽劇場のほとんどすべての文楽公演に通ってきました。それほど心を動かされたというか、私には非常に新鮮でカルチャーショックを受けたのです。特に、朝から晩まで一つの長編作品を通して演じる「通し上演」には圧倒されました。江戸時代から大正の頃まではこの上演スタイルが一般的でしたが、それ以降は昼夜二部、あるいは三部に分けて、作品の一部ずつを上演するようになりました。当時のスタイルに近い本格的な通し上演は、やはり見応えがありました。

人形浄瑠璃は18世紀半ばに全盛期を迎え、大阪・道頓堀の竹本座や豊竹座が一世を風靡していました。そのかつての劇場で具体的にどのような演出の舞台が展開していたのか、お客さんはどんなふうに観ていたのか、資料はあまり残っていませんが、その一端でもいいから知りたい、そういう思いで研究を続けています。

振り返ると、高校時代に興味を持った小説が文学への道を開いてくれ、大学時代の神社仏閣巡りが芸能と出会うチャンスをくれました。何でも疑似体験できる時代ですが、実際に行動し実物に触れて体験することが自分の世界を広げてくれるのは間違いないと思います。

興味のあることに挑戦するなら、一人で行うのもお勧めです。私も学生時代に一人で訪れた神社で、かなりご高齢のおばあさんに「おまん一つ、どうどすえ?」と京都弁でお饅頭を勧めていただいたことが今でも印象に残っています。一人だからこそ出会えることがきっとあるし、想定外のハプニングや思わぬ展開が待っているかもしれません。

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プロフィール

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文学研究科 教授

久堀 裕朗

文学研究科 国語国文学専修 教授。 

京都大学大学院文学研究科文献文化学専攻国語学国文学専修博士後期課程単位修得退学。博士(文学)・京都大学。大阪外国語大学助教授、大阪市立大学准教授を経て、2017年より現職。日本近世文学、近世演劇(文楽、人形浄瑠璃)を研究。著書に『上方文化講座 義経千本桜』(共編著・和泉書院・20138月)、『大学的大阪ガイド』(分担執筆・昭和堂・20224)など。

研究者詳細

※所属は掲載当時

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