真の情報を見極めることの大切さ
私が専門とするトレーニング科学の分野では、ここ10年ほどで研究論文の数が急激に増えました。これらの研究は対象者の条件を絞り込んでいるため、とても限定的なエビデンスであり、一般化するのは難しいものがほとんどです。アスリートを対象とした研究結果をそのまま一般の人に向けて展開しても、的外れになってしまいます。しかし、あたかも一般人にも有効であるようなミスリードも見られます。
例えば、「痩せたいなら筋肉量を増やして基礎代謝を上げよう」といった表現を目にしたことはありませんか?でも、基礎代謝量のうち筋肉が占める割合は、実は2割程度。たとえ筋肉量を10%増やしたところで、基礎代謝が劇的に増えるわけではないのです。それに、一般の人が筋肉量を10%増やすのは並大抵のことではありません。でも、こういったわかりやすい表現のほうが行動変容につながりやすいので、たびたび使われているのでしょう。
過度な期待を与える可能性のある表現は避け、正しい情報をしっかりと伝えることが、私が研究者として堅持したいスタンスです。その思いを強くしたのは、私が研究・教育に携わる以前に、スポーツクラブのパーソナルトレーニング部門で働いていた頃のこと。当時はパーソナルトレーニングが流行し始め、トレーナーも乱立していました。トレーニングの品質も用いるメソッドも統一するのがなかなか難しい中で、利用者に浅い情報を伝えてしまうトレーナーや、それを信じ込んでしまう人を目にすることも。このままではいけない、真の情報を伝えなければいけないと、強く感じました。
もし皆さんがトレーナーからアドバイスをもらう機会があれば、信頼性を確かめるために、まず根拠を尋ねてみてください。「どうしてそのアドバイスをされるんですか?根拠は?」と聞いたときにきちんと説明してくれて、それが納得できる内容であれば信頼できるはずです。そして、「何をゴールとしているのか」も確認しましょう。目指すゴールにズレがあると、有効なトレーニングにはなりません。
根拠は何か。どんなゴールを目指しているのか。その2つを共有できれば、お互いの納得感も高まるでしょう。
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国際基幹教育機構/都市健康・スポーツ研究センター 准教授
国際基幹教育機構/都市健康・スポーツ研究センター 准教授
博士(学術)。専門はトレーニング科学、体育測定評価学。大学卒業後、スポーツクラブ勤務などを経て2018年4月より大阪府立大学高等教育推進機構准教授、2022年4月より現職。学内ではスポーツプログラム開発センター センター長、アメリカンフットボール部のストレングスコーチを務めるほか、日本体育測定評価学会 理事、日本教育医学会 理事、日本サッカーサイエンス研究会 理事、堺市民オリンピック委員、NSCA(National Strength and Conditioning Association)ジャパン アシスタント地域ディレクターなど、学外でも多くの委員を兼任している。
※所属は掲載当時