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建築から緑地へ、ドイツの都市計画から見つけた新しい視点

幼い頃から世界遺産を紹介するテレビ番組をよく見ていました。なかでも建物をみて、その場所に暮らす人々の生活を想像することが好きでした。また、建物だけではなく、街並みをみることも好きで街に暮らす人々の営みや雰囲気にも惹かれていたように思います。興味が高じて、大学では建築学を専攻し、建築について学ぶことや建物の構造やデザインを自分で考えることに取り組みました。

建築には、計画・構造・環境という大きく分けて3つの分野がありますが、大学4年の頃に、都市環境を専門とする研究室を希望し、次第に「建物の外側」に広がる環境に関心を持つようになりました。

そして、現在の研究に至る転機となったのは、広島大学教授の田中 貴宏先生より勧められたドイツの“クリマアトラス(KlimaAtlas)”との出会いでした。ドイツは今でこそ環境先進国のイメージがありますが、かつては大気汚染が深刻な問題となっていました。特に、盆地の地形の特性上、周囲が丘陵や山に囲まれているため、空気の流れが遮られやすく、汚染物質が外に逃げにくくなっています。クリマアトラスはこの問題を都市計画的に解決することを試みたものです。都市の気候環境を測り、それぞれの場所で大気汚染に影響している要因を分析するなどして、それらの結果を地図にまとめたもので、都市の気候の観点から緑地の配置を理論的に考え、都市計画に活かすというアプローチに衝撃を受けました。

この出会いをきっかけに、少しずつ緑地の大切さを意識するようになりました。街中に緑地が必要とされる場面で、それをどのように計画し、どのように形づくっていくべきか。そうしたことを考える意義を、徐々に認識するようになっていったのだと思います。

その後、研究員として東京の大学で農学出身の横張 真先生の研究室に所属したことがきっかけで、造園やランドスケープといった、いわゆる農学の分野に関わるようになりました。建物は完成した時点で一区切りですが、緑地は「育てる」ものだと思っています。設計して終わりではなく、何十年もかけて管理し、成長を見守る必要があります。また、緑地を設計したり計画したりする時は、建物の設計以上に、さまざまな人との関わりや多様な条件を考慮する必要があります。この持続性と人との関わりの多さが、緑地を扱うことの魅力だと感じています。

また、大学という場で、学生と共に研究を進められることは、私にとって大きなモチベーションになっています。学生と一緒に考えることで、自分では気づけなかった新たな視点を発見することも多くあります。民間や国の研究職など、研究に専念できる選択肢もありますが、大学教員として教育に携わることで、自分ひとりではたどり着けない考え方に出会えることもあり、それがこの仕事の面白さでもあります。

 

プロフィール

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農学研究科 緑地環境科学専攻 准教授

松尾 薫

農学研究科 緑地環境科学専攻 准教授

広島大学大学院工学研究科にて博士(工学)を取得。日本学術振興会 特別研究員 PD(東京大学)、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科助教、を経て、現職。気候変動による都市の高温化や豪雨の増加、人口減少による空き地の増加に対応するため、都市内の未利用地を緑地として活用する計画手法の研究に取り組んでいる。

研究者詳細

※所属は掲載当時

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