スポーツが変える人生 ― 出会いが形づくった研究への情熱―
私が研究者として歩みはじめた原点をたどると、奥田 邦晴先生との出会いがきっかけとなります。奥田先生とは私が大阪府立大学に入学して間もない頃、学生アドバイザー制度で出会いました。学生アドバイザー制度は、学年担当の先生のような位置づけで、部局によって違いますが、当時は入学から就職、国家試験のときまで、同じ学年を担当していました。奥田先生は、熱く、まっすぐで、人を惹きつける力を持つ先生でした。
大学2年生の頃、障がい者スポーツ指導論の授業で奥田先生の「気合い」と「志」に触れました。難しい理論よりも、まず人の人生を変えるという熱意が伝わってきました。その後、大学3年生でゼミを選ぶとき、自然と奥田先生の研究室を選んでいました。
理学療法士として働く中で、私は怪我や病気、障がいのある方など、様々な方と関わってきました。その中には、医学的な改善が大きくは見込まれにくい状態の方もいます。しかし、そうした状態であっても、リハビリテーションは「できること」を失った部分を補うだけではありません。奥田先生は、リハビリの核心を「その人の人生に新しい選択肢をもたらすこと」だと考えておられました。
機能が大きく変化しない場合でも、生活の幅が広がること、社会に参加できること、自分らしさが尊重されること。そうした「暮らしの質(QOL)」こそが、リハビリの大きな成果になるのだと気づかせてくださいました。
その具体例の一つがスポーツです。ボッチャに出会うことで外に出るきっかけが生まれたり、パラリンピックという大舞台に挑む選手が生まれたりする。その変化は、本人の人生にとっても、周囲の人にとっても大きな意味を持ちます。
元々私は、大学卒業後は病院で働き続けるつもりでした。しかし、奥田先生の熱意に触れたことで大学院への道を選ぶようになり、その後研究の世界に進む機会をいただきました。現場の理学療法は、自分が直接支援できる人数に限りがあります。しかし、大学で学生を育てることで、それぞれの現場で支援を広げてくれる次世代の担い手を輩出することができます。理学療法の力が広がっていく喜びやその実感が、教育や研究を続ける大きな理由になりました。
障がい者スポーツの研究は、まだまだ未解明の部分が多い分野です。競技特性の理解、トレーニング方法、評価基準、生活との結びつきなど、どれも研究の余地が大きく、一つ一つの成果が次に続く人たちの「基盤」になります。スポーツを通して人生に新しい選択肢を届けること、生活の質が向上し、その人らしさが取り戻される瞬間に寄り添うこと。私はこれからも、そうした人々の歩みに向き合っていきたいです。
片岡 正教准教授 の他の記事はこちら。
プロフィール

大学院リハビリテーション学研究科 リハビリテーション学専攻 准教授
大学院リハビリテーション学研究科 リハビリテーション学専攻 准教授
博士(保健学)。2011年大阪府立大学総合リハビリテーション学部助教2017年同大学大学院総合リハビリテーション学研究科講師を経て2022年より現職。
障がい者スポーツ、脳性麻痺。脊髄損傷のリハビリテーションなどを研究。
現在は、パラリンピック競技の中でも最重度の障がい者が対象となる「ボッチャ」を中心に、競技パフォーマンス向上のための科学的根拠の確立や効果的なトレーニング方法の検証を進める。ボッチャ部の顧問も務め、学内外でも精力的に活動を行う。
※所属は掲載当時