微生物の世界に魅せられて。人と動物をつなぐ感染症研究の道
私が感染症学に興味を持った最初のきっかけは、大学時代に出会った『ホット・ゾーン』という本でした。エボラ出血熱を題材にしたノンフィクションの物語で、目に見えない微生物であるウイルスがいとも簡単にヒトを死に至らしめること、そしてこの殺人ウイルスの遺伝情報はヒトの10万分の1であり、必要最低限の遺伝情報だけでこの世界を生き抜いていることに強い衝撃を受けました。さらに、自然界ではこのウイルスと共存する動物種が存在するという事実に微生物の奥深さを感じ、微生物そしてそれらが引き起こす感染症に強く惹かれていきました。
大学卒業後は動物病院に勤務し、犬ジステンパーやパルボウイルス感染症、ネコエイズやネコ伝染性腹膜炎などのさまざまな感染症と向き合いました。これらはすべてウイルスが引き起こす病気ですが、その症状は多様性に富んでいること、そして選ばれた動物種のみが病気になることを身をもって感じ、改めて微生物が引き起こす感染症への興味を深めることにつながりました。
感染症に興味を持ったきっかけはもう一つあります。それは、感染症が比較的診断しやすいにもかかわらず、治療法が限られているという現実です。臨床現場では、診断がつかないまま治療を進めなければならないケースが一定数ありますが、感染症は比較的診断をつけやすい領域です。ところが、診断ができたとしても治療法がない。この時に感じた「どうして治療できないのか」「どうすれば救えるのか」という思いが、現在研究を続けるモチベーションの源であることは確かです。
現在は、人と動物の双方に関わる人獣共通感染症を対象に、狂犬病や薬剤耐性感染症、レプトスピラ症など、いくつかの病気に焦点をあてて、病気の理解、そして予防や治療に貢献できるように日々研究を進めています。
臨床現場から離れた今でも、伴侶動物の健康に貢献したいという思いは変わりません。人と動物が共に暮らす社会において、人獣共通感染症の理解と対策は欠かせません。研究成果を社会に還元し、動物たちの命を守る一助となることが、私にとって大きなやりがいとなっています。
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プロフィール

獣医学研究科 獣医学専攻 教授
獣医学研究科 獣医学専攻 教授
博士(医学)。大阪府立大学農学部獣医学科を卒業後、民間動物病院にて勤務獣医師として臨床現場を経験。その後、大阪大学微生物病研究所研究生、大阪大学大学院医学系研究科への進学を経て、日本学術振興会 特別研究員 DC2、大阪大学微生物病研究所の特任研究員、特任助教を歴任。大阪府立大学大学院生命環境科学研究科テニュアトラック助教、同准教授、大阪公立大学 准教授を経て現職。現在は獣医公衆衛生学分野において、薬剤耐性菌や人獣共通感染症の研究に取り組み、“ペットと人の健康を支える公衆衛生”の視点から研究に取り組んでいる。
※所属は掲載当時