海と陸をつなぐ研究へ。自然の大きな力に触れて
私の専門は海洋環境学です。というと、海を軸にした研究と思われるかもしれませんが、沿岸の海の環境は陸の影響がすごく大きくて、河川や、私たちの社会活動、産業活動にすごく影響を受けているので、海のことを考えるには、やっぱり陸のことも考えないといけません。博士後期課程の時から、海陸一体型物質循環型社会の構築に必要なことを研究テーマとして取り組んできました。
海洋環境の研究へ進むことになった大きなきっかけの一つは、博士前期課程の時に経験した1か月間の研究航海です。海洋地球研究船「みらい」に乗船し、赤道上で調査をしました。植物プランクトンの分布を推定するための計測です。毎日、研究者と一緒に行動することで、未知のことを追究する楽しさ、ワクワク感を体感しました。華やかな研究発表とは違い、研究の現場はとても地味です。観測、データ整理、ミーティング——コツコツ積み重ねる作業の連続でした。
そして航海中、周り360度が海という環境に置かれて、自然に対する畏敬の念が生まれました。夜の海は真っ暗で、正直とても怖い。でも朝日が昇れば一気にキラキラと輝き、そして大きな夕陽が水平線に沈みます。遠くに“雨のカーテン”が落ちる様子や、嵐が近づく気配。陸では見られない景色に、「私の知らない世界がこんなにも広がっているんだ」と感じました。
もう一つのきっかけが東日本大震災です。私は博士前期課程を修了後、メーカーに就職しました。仕事は面白かったものの、「学術的な研究にもう一度関わりたい」という思いが消えず、転職を考えるようになったのですが、母校の先生から「博士号を取ってからの方が、活躍の幅が広がるよ」と背中を押され、思い切って博士後期課程に進むことを決めました。その進学のため、社会人として過ごした宮城県を去った1年後に東日本大震災が起きました。これまで見慣れていた風景が一瞬でなくなるのを見て、人間の作ったものは自然には勝てないし、万能な技術などはないと実感し、工学研究科の学生としては愕然としました。
「みらい」での経験も、震災のことも、自然と人間がどう共生していくのかという根本の問いにつながっています。「みらい」の経験で、研究という方法を通して自然環境に関わりたいという思いが生まれました。東日本大震災は、人の営みや生業も研究テーマに入れていきたいと思うようになったきっかけです。
漁村や漁港に行くと、地域住民や漁師さんが“先生”です。彼らが気づいていない、日常生活に潜んでいる“資源”を発掘するのが楽しい。まだ誰も気づいていない、その資源を自分の培ってきた知識や知恵を生かして価値のあるものにできるのは、研究者としての喜びです。これからも海陸一体型物質循環型社会の実現を目指して研究を進めていきます。
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プロフィール

現代システム科学研究科 准教授
博士(工学)。2013年大阪府立大学大学院工学研究科航空宇宙海洋系専攻修了。2013年大阪府立大学現代システム科学域助教、2018年大阪府立大学大学院現代システム科学研究科准教授を経て、2022年4月より現職。
SDGsにも深く関わる身近で興味深いテーマである、海藻や魚などの海産バイオマスについて研究。海藻を用いた地(海)産地消エネルギーの開発と漁業・魚食の活性化を通して海の環境再生に取り組む。
※所属は掲載当時