どうしようかなあ、の渦にいるあなたへ リハビリテーション学研究科 作業療法学領域 博士前期課程1年(IRIS第14期生) 阿部 妃里 はじめに 今回の内容は、関西科学塾の秋のイベントでお話しする予定でしたが、仕事の都合で直接お伝えすることが叶いませんでした。それでも形に残すことをご提案くださった方々に、心から感謝申し上げます。 自分の経験を文章にするのは少し気恥ずかしいですが、物心ついた頃から今まで文理選択、大学選び、仕事、研究、趣味、恋愛…。いつも「どうしようかなあ」と悩みながら歩んできた私から、同じような思いを抱えているあなたへ。お手紙を交換するような気持ちで綴ります。 私について 大学院も社会人も、1年目の23歳です。高校まで静岡県で過ごし、大阪府立大学に進学しました。実は高校時代は文系を選択していましたが、医療の道に進むことを決意し、リハビリテーションを学び、作業療法士の資格を取得しました。 平日は作業療法士として、就学前のお子さんの発達支援に携わっています。有給休暇を活用して大学院に通い、休日には地元で不登校の子どもたちを支援したり、奈良県明日香村でフィールドワークに取り組んだりしています。。 研究について 私の研究テーマは、不登校の子どもたちの「居場所」についてです。 2023年度、不登校の子どもの数は過去最多を記録しました。その背景にはさまざまな要因があります。「勉強したいのに、なぜ学校に行けないのか」と自分を責める子、学校を考えるだけで体調が悪くなる子、雑音や蛍光灯の光に過敏に反応してしまう子…。そうした子どもたちに出会うたびに、日本の教育環境の課題を痛感します。日本では学校が子どもたちの生活の中心になっているため、学校に行かなくなると友人関係や体験の機会が途絶えがちです。 「やりたいことがあっても、場所が“学校”であるだけで機会を失ってしまう」。そんな子どもたちに対して、作業療法士として何ができるのかを研究しています。 日々の生活 私の「頑張る1日」は、朝7時の電車に乗り、8時半から仕事、17時に退勤してダッシュで大学へ。18時半から22時まで勉強し、23時前に帰宅。翌日のお弁当を作り、家事を済ませると日付が変わる頃には力尽きて寝ています。忙しさを感じる暇もないほど充実した毎日です。 こう話すと、「さぞ優秀な方なのでは?」「もともと賢くて才能のある人なのでは?」と言われることがあります。また、「大学院に行ったら婚期を逃すよ。」「せっかく若いのに。勉強以外にも人生には楽しいことがいっぱいあるんだよ。」「3年くらい臨床経験を積んでから行ったほうがいいのでは?」と心配されることも。 でも私は、何でもできるスーパーマンでも、お勉強ばかりの真面目ちゃんでもありません。 研究以外にもやりたいことがたくさんあります。週末はジュビロ磐田の試合を観に行ったり、好きな歌人の短歌集のサイン会に行ったり。パンどろぼうの絵本や水族館も大好きで、担当している子どもたちと張り合えるほど楽しんでいます。また、平日の夜にはヨガに通い、「ワシのポーズ」もできるようになりました。最近は、学割が使えるうちに料理教室にも行ってみたいし、高校時代の友人を訪ねてアメリカやカナダ、モンゴルに行くのも夢です。 「頑張らない1日」もあります。仕事をしながら研究のことを考え、その逆もあり、うまく切り替えられないことも。 山積みの洗濯物や食器を明日の自分に託して寝てしまうこともあります。頑張る半分、頑張らない半分の生活です。 仕事と研究の両立 リハビリテーション学研究科は、社会人でも通いやすいように授業が月曜日に限定されています。勤務先がシフト制なら、休日を利用して通うことが可能です。 私は長期履修制度を利用し、通常2年の修士課程を3年に延長しました。 職場では業務量を調整してもらい、月曜日は大学の授業に専念。仕事も研究も趣味も諦めたくなかったので、職場でも大学でも、周囲の方々に支えていただきながら両立に取り組んでいます。 1年を見通して「春は仕事優先にして仕事に慣れる。秋から研究に本腰を入れる。」といった調整もしました。 最初の半年は仕事に慣れることを優先し、大学はお休み。その間、オンラインゼミに参加し、少しずつ文献調査を進めました。9月からは退勤後に大学へ通い、11月には本格的に研究活動を開始。 「毎日大学へ行く週」もあれば、「何もできない週」もあります。大切にしていたのは、その時々の状況に応じてペースを調整すること。できないときは思い切って休むようにしています。 社会人になると「職場と家の往復で1週間が終わる」と言われますが、新人作業療法士として、研究室の一員として、ジュビロサポーターとして、ヨガ教室の生徒として、複数の居場所があることが支えになっています。 研究が行き詰まったら仕事に助けられ、仕事が大変なときは研究が息抜きになる。両方を追う生活は無謀かと思われましたが、挑戦してみると、助けてくれる人はたくさんいるし、使える制度もたくさんあることに気付きました。同じように働きながら大学院に通う仲間や、制度を教えてくれる先生、先輩、仕事とIRISの活動を両立する方法を一緒に考えてくださる女性研究者支援室の先生など、多くの人に支えられ、甘えながら、今の私があります。 おわりに もし「どうしようかなあ」の渦にいる方がいたら、右か左かだけでなく、「両方やってみよう!」という選択肢もあることを思い出してみてください。もちろん制度上の限界はありますが、事前に想定し、余力を残しておけば叶えられることもあります。 私自身、高校時代は文系でしたが、医療の道へ進んだように選択はいつでも軌道修正できるので、気持ちを軽くして考えてみませんか? 「やってみたい」を諦めない、そんな欲張りな人生を、一緒に楽しみましょう!