「脳血管障害」専門診療

「脳血管障害」専門診療のお知らせ

 脳血管障害は、高齢者の要介護の原因として非常に割合が高く、死亡原因としても上位にあります。脳卒中・循環器疾患を対象とした、対策基本法が制定され、その予防、急性期治療、回復期から維持期の治療体制整備が進んでいます。
 大阪公立大学脳神経外科では、脳神経外科開設以来、脳血管障害に対する直達手術に取り組んでいます。また、近年、目覚ましい発展を遂げている血管内治療も、最新の機器を用いた先端的な治療を行っています。さらに、一次脳卒中センターとして、脳神経内科と共同で救急の患者様の受け入れにも注力しております。
 個々の患者さんの病状に応じ、最新かつ最善の治療を提供します。

専門担当医

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一ノ瀬努 プロフィールはこちら
● 准教授
脳神経外科専門医・指導医
脳卒中の外科学会技術指導医
脳卒中学会専門医・指導医
外来診察日:毎週火曜日
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渡部祐輔 プロフィールはこちら
● 助教
脳神経外科専門医・指導医
脳血管内治療学会専門医
外来診察日:毎週火曜日
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田上雄大 プロフィールはこちら
● 病院講師
日本脳神経外科学会専門医・指導医
日本脳神経血管内治療学会専門医
日本脳卒中学会専門医
外来診察日:毎週木曜日
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長濱篤文 プロフィールはこちら
● 講師
脳神経外科学会専門医
脳血栓回収療法実施医
日本脳卒中学会専門医
日本脳神経血管内治療学会専門医
外来診察日:毎週火曜日

主な対象疾患

  • 閉塞性脳血管障害(一過性脳虚血発作、脳梗塞、頸動脈狭窄症など)
  • 出血性脳血管障害(脳内出血、くも膜下出血など)
  • 脳卒中の原因となる脳血管の病気(未破裂脳動脈瘤、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、もやもや病など)

閉塞性脳血管障害

脳梗塞

  • 脳の血管が閉塞し、脳組織が虚血に陥り、最終的に細胞死を引き起こすことで脳梗塞が生じます。
  • 病態別に、心原生脳塞栓症・アテローム血栓性脳梗塞・ラクナ梗塞に分けられます。
  • 高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、大量の飲酒、心房細動などが危険因子といわれています。
  • 脳梗塞を生じることで、麻痺・言語障害・意識障害などの症状が生じるため、脳梗塞の発生を予防することがとても重要になります。
  • 治療方針
    • 脳梗塞発生予防・再発予防には、内科的治療が有効なことが多いです。
    • 内科治療では予防効果が不十分と考えられる場合、外科的治療が考慮されることがあります。
    • 頸動脈など、脳を栄養するための太い血管に高度な狭窄をきたした場合、外科的治療が有効なことがあります。
    • 発症して数時間以内で、脳の細胞死が起きる前であれば、閉塞した血管を再開通させるための点滴(tPA静注療法)やカテーテル(経皮的血栓回収術)治療が有効なことがあります。

頸動脈狭窄症

  • 脳へ血流を送るための主要な血管である頸動脈が、動脈硬化などを原因として狭くなる病気です。
  • 脳梗塞のなかではアテローム血栓性に分類され、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などの生活習慣が原因となることがほとんどです。
  • そのほか、血管の炎症や、頸部への放射線治療などが狭窄の原因になることもあります。
  • 狭窄が進行して狭窄部位の血栓などが脳の血管を閉塞することで、脳梗塞を生じることがあります。
  • 治療方針
    • 症状がなく、血管の狭窄も高度でない場合は、内科的治療が有効な治療となりえます。
    • 狭窄が高度である場合、もしくはすでに脳梗塞を生じている頸動脈狭窄に対しては、外科的治療が考慮されます。
    • 外科治療には、直接、頸動脈の動脈硬化を切除する、「頸動脈内膜剥離術(CEA)」とカテーテルで狭窄した部位を広げる「頸動脈ステント留置術(CAS)」があります。
    • どちらの治療が適切かは、一人ひとりの患者さんの病変の位置・性状、全身状態を考慮したうえで適切に判断します。

出血性脳血管障害

脳内出血

  • 脳の内部を走行する血管が破綻することで、脳内に出血をおこします。
  • 出血によって破壊された脳の部位によって、麻痺・言語障害・意識障害など様々な症状を呈します。
  • 多くの脳内出血では、脳梗塞などと同様に高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣が危険因子となります。
  • 脳内出血を生じることで、麻痺・言語障害・意識障害などの症状が生じるため、脳内出血の発生を予防することがとても重要になります。
  • 治療方針
    • 小さな出血の場合、血圧をコントロールするなどの保存的治療で急性期の再出血を予防します。
    • 大きな出血で、頭蓋内圧が高まっていると判断された場合、外科的に(開頭血腫除去術・定位的血腫吸引術)血腫を摘出することがあります。

くも膜下出血

  • 脳の表面を走行する血管が破れることで、脳の表面を進む膜(くも膜)と脳の間(くも膜下腔)に出血が生じます。
  • 原因の多くは脳動脈瘤の破裂によるものです。
  • 報告によって差はありますが、発生した場合の死亡率は約10-67%といわれており、重篤な転帰をたどることが多い病気です。
  • 治療方針
    • 急性期に再出血を起こすとさらに重症化するため、出血の原因となる血管に対して外科的な止血処置が必要となります。
    • 動脈瘤が原因であった場合、開頭術(脳動脈瘤ネッククリッピング術)や血管内手術(コイル塞栓術)を行います。
    • 動脈瘤の位置・大きさ・全身状態などによって、開頭術・血管内手術のどちらが適切か判断し治療を行います。

脳卒中の原因となる脳血管の病気

未破裂脳動脈瘤

  • くも膜下出血の原因となりますが、破裂する前は無症状で経過することがほとんどで、検診や頭部MRI検査で偶然発見されることがあります。
  • 動脈瘤を認めた場合、高血圧、動脈瘤の大きさ・形、動脈瘤の場所など、様々な条件で破裂のリスクが異なると言われています。
  • 治療方針
    • 小さい・形が整っているなど、破裂の心配が少なそうな動脈瘤は、経過観察を行います。
    • 動脈瘤の場所・大きさ・形態、患者様それぞれのリスク因子などをふまえて、破裂の可能性を考慮すべき動脈瘤に対しては、外科的治療が検討されます。
    • 外科治療の目的は破裂(くも膜下出血)予防となります。
    • 外科治療としては、開頭術(脳動脈瘤ネッククリッピング術)や血管内手術(コイル塞栓術)があり、動脈瘤の形状や位置、患者さまの全身状態に応じて適切な方法を選択します。
    • 近年では、日本でもフローダイバーターという新しい機器が使用可能になり、当院でも使用を開始しています。

血管内手術(フローダイバーター)

カテーテル手術の中に、フローダイバーターという特殊なステントを用いた治療があります。
フローダイバーターは非常に網目の細かい金属の筒(ステント)で、動脈瘤の入り口を覆うように留置することで動脈瘤へ入る血流を大きく制限し、瘤内を血栓化させて治癒させるというものです。もともとは治療の難しい大型/巨大動脈瘤の治療のため開発されましたが、効果の高さや安全性が証明され、より小さい動脈瘤でも使用できるようになりました。

留置に技術を要するため限られた術者や医療機関でしか使用できませんが、2019年から当院でも使用しており、現在まで80例以上の治療で用いています。

<当院のフローダイバーター実施医>
川上太一郎(Pipeline、FRED)
渡部祐輔(FRED)





脳動静脈奇形

  • 動脈と静脈の間の血管が、脳を形成する過程で毛細血管に置き換わることが出来ずに発生する動静脈の奇形です。
  • 動脈の血流がNidus(ナイダス)という異常な血管塊を介して静脈に勢いよく流れ込むため、動脈・静脈に様々な変化が起きます。
  • それにより、脳出血や脳室内出血、くも膜下出血、脳梗塞、痙攣など様々な病態を引き起こします。
  • 治療方針
    • 経過観察・外科的摘出・血管内治療・放射線治療などの選択肢があります。
    • 脳動静脈奇形の位置や大きさ、血管の走行によって、治療難易度や侵襲度が大きく異なるため、患者さまそれぞれに適した治療方法を考えなければなりません。
    • 私どもの施設では、病態に応じて、血管内手術・定位放射線治療・外科手術を組み合わせて施行するようにしています。

硬膜動静脈瘻

  • 硬膜内または静脈洞壁に異常な動静脈の短絡路(シャント)の存在する疾患です。
  • 後天性疾患と考えられており、耳鳴りや頭痛、眼球突出や結膜の充血などで見つかることがあります。
  • 静脈洞の進行性閉塞を伴うことがあり、特に、脳の静脈への逆流のあるものは認知症などの精神症状や頭蓋内出血などの重篤な症状で発症することもあります。
  • 治療方針
    • 耳鳴りが強い場合、脳や眼の静脈圧が亢進していると判断された場合などは治療が検討されます。
    • 治療方法としては、外科的な短絡部の遮断、血管内治療による静脈の閉塞または栄養動脈の閉塞があります。
    • どの方法が有効かについては、術前に脳血管カテーテル検査などを行い、詳細な血管構築の判断が必要になります。

もやもや病

  • 脳底部の主幹動脈が両側性・進行性に狭窄する病気です。これを補うための異常な側副血行路(もやもや血管)が発達してくるためこの名前がつきました。
  • 欧米に比べ日本に多く見られ10万人当たり年間0.5人ほどが発症するとされています。小児期に脳梗塞または一過性脳虚血発作で発症しますが、まれに異常血管の破綻による脳出血もおこります。
  • 典型的な症状として笛を吹いたときやラーメンなどを食べたときに一時的な手足の脱力やしびれが出現します。また、単に頭痛やけいれんのみを呈する場合もあります。
  • 治療方針
    • 偶然発見された場合や症状が軽い場合には、あえて治療を行わずに経過を観察することもあります。
    • 脳梗塞や繰り返す一過性脳虚血発作がるような場合には外科的な血行再建術の適応となります。
    • 血行再建術は大きく分けて2種類あります。頭皮の血管を頭蓋内の血管に吻合する直接血行再建術と脳表に筋肉や硬膜を接着させて新生血管が発達するのを期待する間接血行再建術です。
    • 当科では基本的に両方を組み合わせた再建術を行っています。患者さまごとに病態が異なるため、最もふさわしいと思われる術式を個別に選択して治療しています。

当科で取り扱っている主な血管内治療

  • この分野で取り扱っている主な脳血管障害治療の情報は「脳と神経のデータベース」のコーナーにもありますのでぜひご覧ください。