頚動脈狭窄症

基本的な情報

概要

頚動脈狭窄症とは、脳へ血液を送る頚動脈の内腔が、動脈硬化症、稀には炎症や外傷などによって狭くなる病気です。狭窄によって血液の流れが妨げられると、脳への酸素や栄養分の供給ができなくなったり、血流の流れの乱れによってできた血の固まり(血栓)が血管を閉塞し、様々な症状をもたらします。症状は一時的なこと(一過性脳虚血発作)もあり、後遺症を残すこと(脳梗塞)もあります。脳梗塞を起こすと、その部位に応じた神経症状(運動麻痺、知覚障害、言語障害、視機能障害、高次機能障害など)を呈し、重症の場合には、寝たきりや植物状態、さらには生命に関わることもあります。脳梗塞の年間平均発生率は、一般的に症候性狭窄(脳梗塞や一過性脳虚血発作を起こしたことがある患者さん)で5-10%、無症候性高度狭窄で5%程度といわれています。

治療

このような頚動脈狭窄の治療手段としては、内科的治療と外科的治療があります。内科的治療は、高血圧症、高脂血症、糖尿病などの動脈硬化増強因子のコントロールや、狭窄部に起こる血栓症を予防するための抗血小板剤投与などの薬物治療です。狭窄が軽度であれば内科的治療だけで様子を見ることができる場合もありますが、狭窄の強い場合には外科的治療が望まれます。外科的治療は、狭窄を解除して血液の流れを改善する血行再建という治療で、主に直接血管の狭窄部位を除去する頸動脈内膜剥離術(CEA)と、カテーテルで狭窄部位を広げる頸動脈ステント留置術(CAS)があります。

さらに詳しく知りたい方へ

頸動脈内膜剥離術(CEA:Carotid Endoarterectomy)

頸動脈内膜剥離術(CEA)という手術は数十年前から行われている標準的な手術です。全身麻酔下で頸部を切開して頚部血管を露出し、動脈硬化に陥った血管内膜を剥ぎ取る治療です。血管内部の動脈硬化性病変を直接切除するので、一時的に脳の血流を遮断する必要がありますが、我々の施設ではシャントというチューブを用いて脳への血流を維持した状態で手術を行っています。

CEAの特性

無症候性であっても頸動脈狭窄が高度である場合、もしくは症候性で中等度以上の頸動脈狭窄の場合、CEAを施行することで、将来の脳梗塞リスクを内科治療に比べておおよそ半分に減らすことが出来ると言われています。特に、症候性の頸動脈狭窄のように、動脈硬化病変がとても柔らかく、容易に破綻してしまうような場合は、CEAのほうが頸動脈ステント留置術(CAS)よりも安全ではないかという意見があります。

CEAの注意点

手術中に血流を遮断したり、血管縫合後に再開通させたりするため、手術に伴った脳梗塞が生じる可能性があります。また、術後に急激に脳血流が増加することによって、頭痛・意識障害・てんかん発作・場合によっては脳出血などを引き起こす、過潅流症候群という合併症もあります。そのほか頚部の手術操作により、嗄声・嚥下障害・舌運動障害などが起きることもあります。また、頸動脈内膜剥離術(CEA)は標準的な治療ではありますが、心臓疾患・呼吸器疾患をお持ち方や、頸部の手術・放射線治療歴、対側の頸動脈閉塞や喉頭神経麻痺などがある方はCEA手術の高リスクとされています。それらのリスクをお持ちの患者さんの場合は、以下の頸動脈ステント留置術(CAS)を検討することがあります。

代表症例:左頸部内頸狭窄症に対する頸動脈内膜剥離術

術前造影CT
サンプル画像
術後造影CT
サンプル画像

 

頸動脈ステント留置術(CAS:Carotid Artery Stenting)

頸動脈ステント留置術(CAS)は1990年台後半から行われるようになりました。基本的には局所麻酔で行われ、通常は大腿部のつけ根から直径約2~3mm程度の管(カテーテル)を血管内に入れ、これを狭窄のある血管の近くに進めます。これらのカテーテルの中を通して狭くなった血管を風船つきのカテーテルで拡張し、自己拡張型のステントを留置して内張りをします。

CASの特性

CASは、頸動脈内膜剥離術(CEA)よりも新しい治療であるため、CEAとの比較によって効果の検証が行われています。現時点では、CASがCEAよりも全面的に優れている、もしくは劣っているという証拠はないため、ひとりひとりの患者さんに応じて、より適した方法を選択することが安全でより良い治療効果を得るためには重要です。ただし、CASは局所麻酔下にカテーテルで実施出来る治療であるため、CEAの高リスク例(心臓疾患・呼吸器疾患をお持ち方や、頸部の手術・放射線治療歴、対側の頸動脈閉塞や喉頭神経麻痺のある方)に対してはCASが推奨されています。

CASの注意点

血管の狭窄部を機械的に拡張させるため、手術に伴った脳梗塞や血管損傷が生じる可能性があります。また、CEAと同様、術後に急激に脳血流が増加することで過潅流症候群という合併症が起きることもあります。頸動脈でバルーンを膨らませた際には、高度の徐脈や血圧低下が引き起こされることもあります。そのほか、穿刺部の血管損傷や、造影剤のアレルギー・腎障害など、カテーテル治療特有の合併症についても注意が必要です。血管の蛇行が強くカテーテルを目的部位まで誘導ができないときや、極端に血管が細く狭い箇所を通すことができない場合、病変の石灰化が強く、バルーンでの拡張ができない場合などステント治療が不向きなこともあります。